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広報部1
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「知ってるって何を?」
「わからん」
「ちょっと、ふざけてる場合?」
「それを調べてくれって言ってんだよ」
1段低くなった声が聞こえるが新堂は臆せず言う。
公安警察には周囲にその存在をさらけ出してもいい人材と悪い人材がいる。新堂は前者で、電話口の向こうの人物は後者。主に秘密裏にされていることを探る役目をしていた。
だから、
「い号最初の犠牲者の生き残り、夜巡 舞。専業ハンターの薬師丸 雨生。刑事の森 林児だ」
「い号の? まさか生き残りがいたの?」
「いた。というか今の職場の新人だ」
「じゃあ私が調べる必要ないじゃない」
手間増やさないでと、相手は雑にあしらってくる。
「待てよ。内と外から調べないと情報の信憑性に欠けるだろ」
「そんなの、身体でもなんでも使って落としなさいよ」
「それやったら警察じゃなくてやくざだよ」
「いいじゃない。善人ぶるよりはっきりしてる男性の方が私は好きよ?」
電話越しに聞こえる声へ新堂はため息をつく。
このまま話していても埒が明かないと、語気を強めて、
「とにかく、その3人を調べておけよ」
「はいはーい」
気のない返事だけが後に残る。新堂は疲れた身体を投げ出すようにベッドへと向かっていた。
うららかな日和。都心の白い空に薄汚れた太陽が柔らかな日差しを落としている。
季節は夏、梅雨も明けだんだんと日が長くなっていることを感じる頃。世間では来たる夏休みに向けて期待を馳せる様子を肌で感じ取れるようだ。
公益財団法人ダンジョンワーカーの近くにある公園では広報部主催での催し物が開かれていた。都内有数の広さを持つ公園は春には沿道に桜が咲き誇る名所となっている。遊具も豊富で平日の昼でも人の姿が絶えることはなかった。
遊びに来ただろう親子が足を止める。子供の目には風船を持つ着ぐるみが映っていた。
色とりどりの風船に惹かれ、子供たちが集まってくる。手を引かれ、仕方なさそうに微笑む親は風船と一緒に渡されたチラシへと目を通していた。
その光景を舞は仮設テントの中から見つめていた。年季の入ったパイプ椅子はただ座っているだけなのにキイキイと悲鳴をあげ、耳障りで脚が震える。表面がざらつく折り畳みテーブルに顔を乗せ、明るいだけの外界を恨めしそうに睨んでいた。
「よぉ、暇そうだな」
テントに歩み寄ってきたのは男性、新堂だった。彼はいつものスーツ姿ではなく季節感に合わせた安っぽいTシャツと、色褪せたジーンズ姿だ。
制服義務はない会社だったが、その利便性から事務職は普段ビジネススーツで仕事をしている。しかしイベントの時には不釣り合いだという意見からラフな格好で来るようにと通達されていた。舞も数少ない私服の中から涼し気なブラウスとスラックスを用意していた。
「……なんすか」
貧乏ゆすりをしながら視線も向けずに返答する。不機嫌さを表に出していたが新堂は全く気にする様子もなく舞の隣に腰を下ろした。
初めて舞の家に来て以来、新堂は何度か訪ねてくるようになっていた。目的は煙草を吸うためで、最近では同じ葉っぱを使った手巻きのものも購入する嵌りようだった。
……あー、くそっ。
余計なことを考えたと舌打ちする。不機嫌さの原因はそこにあった。
煙草。煙草が吸えていない。魅惑の煙の味と香りが今は非常に遠い。
公園内は禁煙で喫煙スペースは備わっていない。近くのコンビニにも灰皿は置いていなく、代わりに『ポイ捨て禁止』の張り紙だけが無情に風にさらされていた。
休憩時間はある。しかし1時間に一度の間隔で小休憩を取っている舞にとってかれこれ3時間の禁煙は耐え難い苦痛だった。
「荒れてんなぁ」
「ヤニ切れです。やることないんですもん」
せめて時間を忘れるほど忙しければと、文句がたれ流される。
数日前のこと、あの部長、狂島がいつものように唐突に言ったのが広報部のヘルプ要請だった。それも今回は舞と新堂だけでなく、課長以下5人全員だ。
不測の事態に対応するため狂島1人でデスクに残っていると言っていたが、たぶん居ないだろう。彼はそういう人間だから仕方がない。
ヘルプと言っても仕事はほとんどなかった。メインの運営は広報部で事足りていて関われない、むしろ関わるなと言われていた。最初に設営を手伝って以降、予想より来客が会った時の列整理や救護人の搬送のための待機要員としてただ暇を持て余し続けていた。
こんな扱いに慣れているのか、他の同じ部の職員は裏方で細々とした手伝いをしているのでテントにはいない。まだ新人で気を使って1番楽なポジションを割り振られているのだろうが、生き殺しのようで舞は不満しか感じていなかった。
それにしても、
「……着ぐるみ、あれで正解なんですか?」
「……聞くな」
視線の先、子供たちに囲まれている中心にはダンジョンワーカーのマスコットキャラクター、ダンジョン君がいた。顔はアニメ調なのに6つに割れた腹筋だけはやたらとリアルに作り込まれ、服装は毛皮の腰蓑しか身につけていない。ハンターをモデルに作られているのだろうけれど、現代社会で原始人の格好をしているハンターなどいるはずもなかった。
トレードマークのツルハシを子供に奪われ右往左往している着ぐるみに保護者も若干距離を置いている。ダンジョンという怪しい存在をより怪しくさせているのだから仕方の無いことだった。
「わからん」
「ちょっと、ふざけてる場合?」
「それを調べてくれって言ってんだよ」
1段低くなった声が聞こえるが新堂は臆せず言う。
公安警察には周囲にその存在をさらけ出してもいい人材と悪い人材がいる。新堂は前者で、電話口の向こうの人物は後者。主に秘密裏にされていることを探る役目をしていた。
だから、
「い号最初の犠牲者の生き残り、夜巡 舞。専業ハンターの薬師丸 雨生。刑事の森 林児だ」
「い号の? まさか生き残りがいたの?」
「いた。というか今の職場の新人だ」
「じゃあ私が調べる必要ないじゃない」
手間増やさないでと、相手は雑にあしらってくる。
「待てよ。内と外から調べないと情報の信憑性に欠けるだろ」
「そんなの、身体でもなんでも使って落としなさいよ」
「それやったら警察じゃなくてやくざだよ」
「いいじゃない。善人ぶるよりはっきりしてる男性の方が私は好きよ?」
電話越しに聞こえる声へ新堂はため息をつく。
このまま話していても埒が明かないと、語気を強めて、
「とにかく、その3人を調べておけよ」
「はいはーい」
気のない返事だけが後に残る。新堂は疲れた身体を投げ出すようにベッドへと向かっていた。
うららかな日和。都心の白い空に薄汚れた太陽が柔らかな日差しを落としている。
季節は夏、梅雨も明けだんだんと日が長くなっていることを感じる頃。世間では来たる夏休みに向けて期待を馳せる様子を肌で感じ取れるようだ。
公益財団法人ダンジョンワーカーの近くにある公園では広報部主催での催し物が開かれていた。都内有数の広さを持つ公園は春には沿道に桜が咲き誇る名所となっている。遊具も豊富で平日の昼でも人の姿が絶えることはなかった。
遊びに来ただろう親子が足を止める。子供の目には風船を持つ着ぐるみが映っていた。
色とりどりの風船に惹かれ、子供たちが集まってくる。手を引かれ、仕方なさそうに微笑む親は風船と一緒に渡されたチラシへと目を通していた。
その光景を舞は仮設テントの中から見つめていた。年季の入ったパイプ椅子はただ座っているだけなのにキイキイと悲鳴をあげ、耳障りで脚が震える。表面がざらつく折り畳みテーブルに顔を乗せ、明るいだけの外界を恨めしそうに睨んでいた。
「よぉ、暇そうだな」
テントに歩み寄ってきたのは男性、新堂だった。彼はいつものスーツ姿ではなく季節感に合わせた安っぽいTシャツと、色褪せたジーンズ姿だ。
制服義務はない会社だったが、その利便性から事務職は普段ビジネススーツで仕事をしている。しかしイベントの時には不釣り合いだという意見からラフな格好で来るようにと通達されていた。舞も数少ない私服の中から涼し気なブラウスとスラックスを用意していた。
「……なんすか」
貧乏ゆすりをしながら視線も向けずに返答する。不機嫌さを表に出していたが新堂は全く気にする様子もなく舞の隣に腰を下ろした。
初めて舞の家に来て以来、新堂は何度か訪ねてくるようになっていた。目的は煙草を吸うためで、最近では同じ葉っぱを使った手巻きのものも購入する嵌りようだった。
……あー、くそっ。
余計なことを考えたと舌打ちする。不機嫌さの原因はそこにあった。
煙草。煙草が吸えていない。魅惑の煙の味と香りが今は非常に遠い。
公園内は禁煙で喫煙スペースは備わっていない。近くのコンビニにも灰皿は置いていなく、代わりに『ポイ捨て禁止』の張り紙だけが無情に風にさらされていた。
休憩時間はある。しかし1時間に一度の間隔で小休憩を取っている舞にとってかれこれ3時間の禁煙は耐え難い苦痛だった。
「荒れてんなぁ」
「ヤニ切れです。やることないんですもん」
せめて時間を忘れるほど忙しければと、文句がたれ流される。
数日前のこと、あの部長、狂島がいつものように唐突に言ったのが広報部のヘルプ要請だった。それも今回は舞と新堂だけでなく、課長以下5人全員だ。
不測の事態に対応するため狂島1人でデスクに残っていると言っていたが、たぶん居ないだろう。彼はそういう人間だから仕方がない。
ヘルプと言っても仕事はほとんどなかった。メインの運営は広報部で事足りていて関われない、むしろ関わるなと言われていた。最初に設営を手伝って以降、予想より来客が会った時の列整理や救護人の搬送のための待機要員としてただ暇を持て余し続けていた。
こんな扱いに慣れているのか、他の同じ部の職員は裏方で細々とした手伝いをしているのでテントにはいない。まだ新人で気を使って1番楽なポジションを割り振られているのだろうが、生き殺しのようで舞は不満しか感じていなかった。
それにしても、
「……着ぐるみ、あれで正解なんですか?」
「……聞くな」
視線の先、子供たちに囲まれている中心にはダンジョンワーカーのマスコットキャラクター、ダンジョン君がいた。顔はアニメ調なのに6つに割れた腹筋だけはやたらとリアルに作り込まれ、服装は毛皮の腰蓑しか身につけていない。ハンターをモデルに作られているのだろうけれど、現代社会で原始人の格好をしているハンターなどいるはずもなかった。
トレードマークのツルハシを子供に奪われ右往左往している着ぐるみに保護者も若干距離を置いている。ダンジョンという怪しい存在をより怪しくさせているのだから仕方の無いことだった。
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