22 / 34
第22話 回想11
しおりを挟むそうだっ、ユキちゃん!
背後にいるユキちゃんの存在を思い慌てて振り返ると、彼は顔を真下に向けていた。未だぼろぼろと涙が地面へ落ちていく。土は雨が降ったかのように所々色を濃くしていた。
「ユキくん・・・・・・」
「ふっ――
小さく声をかけると、ユキちゃんは声を漏らしてしゃがみ込んでしまった。手で次から次へと流れてくる涙を拭い取り、静かに泣いている。まさにしくしくという言葉が当てはまるような泣き方だ。見ているだけで胸が締め付けられた。
どう声をかけていいかわからない。目の前で思いきり泣いている人を励ましたりするなんて、今まで友達すらまともにいなかった俺にとっては難易度が高い行為なのだ。
どう声をかければ良い?なんて言えば良い?肩を優しく叩く?背中を擦る?それともやさしく抱きしめる・・・・・・?
最近コンからもの凄く拒絶されたことが頭に残っており、行動に移すことが憚られた。突然身体に触れたら、嫌われてしまうかもしれない。
結局俺は、何を言うことも何をすることもできず、落ちて潰れてしまったおにぎりを黙って拾うことにした。手に触れる米粒の塊は、まだ温かい。せっかくユキちゃんが心を込めて握ってくれたおにぎり。俺の、懐かしき故郷の食べ物。
湯気を立てていたものは、今は割れて中身が零れてしまっていた。悲しい。
トレーの砂を払い拾い上げたおにぎりを二つ、その上に置く。中身がほとんど零れてしまったお椀も、外側に垂れた汁を拭って隣に置いた。
もったいない・・・・・・。砂に塗れた食事を見て、そう思った。味噌汁の方はほぼ残っていないが、おにぎりなら砂を払えばギリギリいけるか・・・・・・?
「昨日、両親から送られてきたんです・・・・・・」
おにぎりを手に取り食べられるか考えていたら、少し涙が引いたらしいユキちゃんが涙声で話し始めた。
「僕の両親、近くの農場で畑やってて・・・時々作ったものを送ってくれるんです。か、顔のせいで米しか作らせて貰えなくて経済的にもぎりぎりのところだったんですけど、ナナミさんのお陰で段々その味が認知されるようになって、それで売れ行きも良くなってきて。だから、そのお礼だって、昨日店宛てに届いたんです。だから、今日はおにぎりにしようって思って・・・・・・」
そこまで言うと、ユキちゃんの目から再び涙が滲んできた。今手の上にあるおにぎりに、そんな背景があったなんて。普通の、いや普通と言ったら語弊があるけど、近くの卸業者の人から入手したいつもの米とはひと味違うとは思っていたが、まさかユキちゃんのご両親が作られたものだったとは思わなかった。
「せっかく、父さんたちがつくってくれたのにっ・・・・・・」
潤んだ瞳で俺の手の中の崩れたおにぎりを見て、ユキちゃんは再び泣いた。
自分の親が作ってくれたものがこんな目に遭わされたら、それは悲しいよな・・・・・・。ユキちゃんの泣き声に心臓がズキズキと痛む。鼻を啜る彼の横で、俺も目の奥がじんと熱くなってきた。
砂の付いたおにぎりが滲んでくる。俺は考えるよりも先に手を動かしていた。
「なっ、ナナミさんっ!!?何やってるんですか!?汚いですやめてください!!!」
砂粒の付いた面を剥って無事な部分を口に入れた俺にユキちゃんは驚愕し、細い腕からは想像できない程の強い力で腕を掴み、さらに口に運ぶのを阻止してきた。驚きのためか涙は吹き飛んでおり、食べ物ではない物を口に含んだ赤ん坊に対して『ぺっしなさい、ぺっ!』と言っている母親のようになってる。
「おいしい。ユキちゃんのご両親が作ってくれたお米、めちゃくちゃおいしいよ」
少しだけ涙が出てしまったかもしれない。恥ずかしながらやや震えた声でそう告げると、ユキちゃんはまたまた泣いてしまったのだった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説


特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる