転生奴隷チートハーレムの後は幸せですか?

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第16話 回想5

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「あるにはあるが、まともなもんじゃねえぞ?」

「いいんです。今日はそれで」

 男性は蒼太の言葉にしばらく黙っていた。腕を組み、眉をひそめた彼は仕方ないと、小さくつぶやいていた。

「本来ならな、懲罰の意味も含んでんだ。報酬も安いし汚い仕事も多い。それでも見たいか?」

「はい!」

「……変な奴だな、ちょっと待ってろ」

 男性はそういうとカウンターの下から紙面の束を取り出していた。
 ドンっと激しい音を立てて置かれたそれは分厚く、そして茶色く日焼けしていた。その中から数枚、上から順に並べていく。

「なんか条件はあるか?」

「……えっと、見せてもらってもいいですか?」

 そもそもどんな依頼かも知らないのだ。蒼太は適当に並べられた依頼書に目を通していた。
 依頼書には内容と報酬以外にも、依頼日と期限が書かれていた。今蒼太の目の前にあるのは依頼日がずいぶん古く期限が書かれていないものが大半だった。中には定期と書かれているものや、公共事業のようなものも含まれていた。
 ……トイレ掃除、どぶさらい、雑草取り、か。
 どれも労働のわりには報酬が安すぎた。今泊まっているの料金を払うのに一つでは到底賄えない。懲罰というのも納得できた。

「これって、一つじゃないとだめですか?」

「いくらでももってけ。期限もないしな。物証がない奴は近くにいる依頼人に印をもらって来いよ」

 なるほど。
 討伐や採取なら物証があるが、トイレ掃除に物証はない。ここまで写真というものを見ていないため、証拠を撮ることもできない。ましてやきれいになったトイレを引っこ抜いて持ってくるなんてこともできやしない。
 蒼太はありがとうと一礼すると、その束を抱えていた。
 その行動に目を丸くした男性が、

「ちょ、ちょっと待て」

「はい?」

「それ全部やる気か?」

「さすがに今日中は無理ですけどね。ゆっくりやっていこうと思います」

 蒼太はそう言い残して斡旋所を後にする。
 一人残された男性は、椅子に深く腰掛けて溜息をついていた。




 まだ午前中と太陽を見つめた蒼太は、依頼書を流し見しながら歩いていた。
 依頼されている場所は街のあちこちにある。ルートをちゃんと考えないと移動に無駄な時間を使うことは明白だった。
 まずは慣らしと、近場だけでまとめた依頼書を握ると、
 ――収納。
 急に虚空に現れた黒い渦に残りの依頼書を振り投げる。
 ……後でバッグ買おう。
 着の身着のまま、手は空手。散歩するならいいが仕事をするには格好がつかない。
 蒼太は辺りの地形を頭に入れながら歩いていた。しかしものの数分で目的地に着いてしまい、あまりはかどらなかった。
 そこは公園だった。木々がぽつぽつと立ち並び、ベンチがある。遊具のようなものはなく、ただ広場が広がっているだけだ。
 数人の子供が思い思いに遊んでいる以外見るべきところもない。
 依頼人は……
 蒼太は依頼書に目を落とす。管理人室と書かれた場所は簡単な地図に星のマークで示してあった。
 すぐ近くだが公園の外。蒼太はまずはそちらに向かおうと足を動かしていた。

「すみませーん」

 みすぼらしい、屋根と扉しかないような小屋の前で声を上げる。

「はいよ、なんの用だい?」

 小屋から出てきたのは小太りな男性だった。年はずいぶん上のように見え、その頭髪は少し頼りない。
 美形とは口を避けても言えない、どこか安心感のある男性は見下すような目で蒼太を見ていた。

「依頼を受けてきました。トイレ掃除と修繕ですよね」

 蒼太は笑みを浮かべて用を告げる。相手は依頼人、つまりお金を払う人。印象を悪くする必要はない。
 ただ男性はぎゅっと眉を寄せると、じろじろと蒼太を見てから、

「お前さん、何をやらかしたんだ?」

 ……ん?
 なぜそうなる、と困惑したが男性の言葉を思い出して納得する。懲罰の意味合いもあると言っていたのだ、そりゃ警戒されるほうが普通だ。
 蒼太は苦笑しながら首を横に振った。

「やだなぁ。ちゃんと選んできたんですよ」

「この依頼をか?」

 男性の眉間のしわがより濃いものに変わっていた。
 何か間違えたらしい。確かに好き好んでやる依頼ではないかもしれないが、これもお金のためと思えば変じゃないと蒼太は思っていた。

「えっと、駄目ですか?」

 これで駄目なら魔法を使わないとと思っていたところで男性はため息をついて、

「駄目ってことはねえけどよぉ。まあいい、公園内にある三つのトイレの清掃と、あそこに見える奴の修繕を頼むわ」

 男性はそういうと小屋の中から色々な工具が詰まったバケツを取りだしていた。
 これでどうにかしろということなのだろう。むしろ汚れが広がるのではないかというほど不清潔な道具たちでも、蒼太は表情を崩さずに受け取っていた。
 ……さて。
 これが初仕事。そう考えると心の中に滾るものがある。
 蒼太はまず手近なトイレへと向かっていた。男女の区別などない仮設トイレ、一目見て思った感想がそれだった。
 朽ちてところどころ中が覗けてしまうトイレのドアを開ける。案の定悪臭と害虫がはびこっていてとてもではないがここで用を足そうとは思えない環境が広がっていた。
 まじめに掃除をしたら一か所だけで今日が終わってしまう。しかし蒼太には秘策があった。
 単純に魔法でどうにかする。そんな思考停止した方法が。
 ――殺虫、消臭、洗浄。
 たった三節。それだけ魔法を唱えるだけで草原の清涼感を感じるほどにすがすがしい空気でトイレは満たされていた。
 ――保存。
 最後にこの環境を維持する魔法をかければ掃除は終わり。一分にも満たない時間で一つ目の依頼をクリアしていた。
 ……でもなあ。
 蒼太は綺麗になったトイレを見る。汲み取り式のトイレなのは仕方がない。しかし洋式でも和式でもなく渡し板二枚でだけというのは許せなかった。
 修繕とはどこまで行えばいいのかの指示もない。ただこのトイレの主な利用者は外で遊んでいる子供たちだ。そのことを考えると、もう少し環境をいい物にしたくなる。
 蒼太は目を閉じていた。数秒、瞼の裏で瞳をせわしなく動かした後、
 ……これかな。
 ――異世界通販、購入。
 次の瞬間、目の前に現れたのは 工事現場やイベント会場で見かけるよくある仮設トイレだった。
 洋式の、汲み取り式。本当は水洗トイレがよかったがそれをするには上下水道の設備から作らなければいけない。
 流石にそこまでは今はできないと、今あるトイレの隣にそのトイレを設置する。
 出来た。あとは今あるトイレを分解すれば終わりだ。――分解。たった一節、それだけ唱えて、
 ……最初から仮設トイレ設置すれば掃除する必要もなかったじゃん。
 考えの甘さに蒼太は苦笑して、次の仕事へと向かっていた。
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