転生奴隷チートハーレムの後は幸せですか?

文字の大きさ
上 下
15 / 34

第15話 回想4

しおりを挟む
「他には仕事ってあるんですか?」

「あることにはあるが、お前さん、手に職は?」

「ない、ですかね」

 蒼太は軽く嘘をついた。おおよそのことなら今はこなせる自信があったが、誰かの下について仕事をする気にはなれなかったからだ。
 どうせチート能力があるのならば枠に縛られない生き方がしたい。人の下につくのはそれを堪能してからでいいだろうと。
 男性は困ったように眉を寄せてから、

「じゃあ……傭兵かなぁ」

「傭兵?」

 眉が上がる。
 これはもしかすると、と胸に期待を抱いていたが、男性は暫く苦々しい表情をしていた。

「傭兵って言っても平時は何でも屋だよ。ガラの悪い奴らのセーフティってだけで、お前さんみたいな奴には向かないぞ?」

「いえ、仕事が出来るならなんでもやります!」

「うーん、やめといた方が──」

「大丈夫です。根気だけは自信があるんで」

 よく分からない理屈を並べる蒼太に、男性は顎に手を当てて考え込んだ後、

「……わかった。宿の人に話せば斡旋所まで案内してくれるはずだ。くれぐれも無理はするなよ」

「分かりました」

 蒼太は深深と礼をする。
 男性は手元の紙にサラサラと文字を書くと、破り手渡してくる。
 ──解読。
 殴り書きでも魔法によって宿の位置がわかる。

「ありがとうございます!」

 蒼太はまた礼を言ってその場を後にしていた。




 紹介状を見せると、宿では暖かく迎え入れられた。
 簡単に自己紹介をしても怪訝そうな顔をされなかったことに蒼太はほっと安堵していた。
 とりあえず一週間分の個室を予約していた。食事は朝食分は含まれているが夕食は別料金となっていて、蒼太はその分も上乗せして支払っていた。
 全て言い値だが、相場を知らないため快く支払う。金に困っているわけではなかったのとけち臭く思われたくなかったからだ。
 大仰に笑う受付のおばちゃんに一礼した後、蒼太はこれからの拠点となる部屋に向かっていた。三階の角部屋、同じ価格帯では一番上等な部屋と彼女は言っていた。
 その言葉どおりかどうかは別として、部屋はベッドが一台とテーブル、他にスペースはないがよく手入れがされているようだった。変な匂いもせず、よく干されたベッドからは陽の香りが立ち上る。
 風呂とトイレはないが不満は無い。どちらも蒼太にとって必要がなかったからだ。
 ──洗浄。
 汗ひとつかいていない身体が微かに発光する。それだけで全身の表面の汚れは綺麗に落ちていた。
 それとは別に風呂には入りたいなと思いつつ、ベッドに横たわる。ぐっと沈む身体に肉体よりも精神が疲弊していることが伝わっていた。
 ──解除。解除。解除……
 自分にかけていた精神系の魔法を1つずつ解除していく。途端に不安感や不快感に襲われるがそのギリギリを確かめていた。
 奥歯を強く噛み締める。そうしていないと吐き気と恐怖で暴れてしまいそうだった。
 目に涙をため、深呼吸を繰り返す。今日見た惨状がフラッシュバックして激しい動悸に襲われていた。
 ……まだ、まだ大丈夫。
 ──解除。解除……

「だぁっ! もう無理!」

 三十個あったうち二十までを解除し終えたところで蒼太は根を上げていた。息がつまり震えと寒気が止まらない。即座に魔法を掛け直すが、地の底まで落ちたテンションは上がることはなかった。

「ひぐっ、えぐっ」

 布団に顔を押し付けて泣く。家族が恋しい、友達が恋しい。自分が死んだなんて信じられない。
 肩を震わせて枕に悲しみの声を吸わせる。怨嗟の呪文を唱えているうちに蒼太はいつの間にか深い眠りへと誘われていた。




 翌朝。
 蒼太は気持ちを吐露してクリアになった頭で斡旋所の前に来ていた。
 ……これ、が?
 朝食を食べて蒼太は九時頃、外に出ていた。
 既に日はずいぶん高いところに上っている。遅めの出勤にも関わらず足は陽気に歩を進めていた。
 斡旋所についてまず目に入ったのが建物の外に立ち並ぶ立ち看板だった。
 いくつも紙面が張られたそれに人々が群がっている。装備をしている者もいればほとんど浮浪者のような恰好まで様々。
 それが依頼書の確認だとわかるまでそう時間はかからなかった。
 ――遠視。
 人ごみを嫌って蒼太は外周部から依頼書を見ていた。
 ……へえ。
 依頼書の内容は驚くほど落差が激しかった。子供のお使いかと見間違えるものから軍隊が必要なのではと思うものまで。そのほとんどが早い者勝ちとなっていることがまたいやらしい。
 しばらく依頼書を眺めていると人の波が徐々に少なくなっているのに蒼太は気付いた。皆、斡旋所の中には入らずに何処かへ散っていく。なんだろうなあと思っているととうとう数えるほどしか人の姿はなくなっていた。
 ――記憶。
 いつまでも突っ立っているわけにはいかず、ある程度興味があるものを覚えた後、蒼太は隣に立つ小屋に向かっていた。
 外見はほとんどログハウスに近い。しっかりした建物というよりは掘っ立て小屋といったほうが正しい外見のそこは、扉などという上等なものはなく、西部劇で見るような押せば簡単に入れるものがあるだけだった。

「すみませーん……」

 蒼太は中に足を踏み入れる。中は採光窓だけが光源となっていて薄暗い。

「はーい。もう依頼が終わったのかい?」

 斡旋所の中には小さな一本足のテーブルと椅子が数脚、そしてバーのようなカウンターがあった。そこに座る一人の男性が蒼太の声に反応を返していた。
 蒼太は彼に近づいていた。殴られたらただじゃすまなそうながっちりとした体型の男性は蒼太よりも頭一つ大きく、威圧感を感じざる得ない。

「えっと、初めてなんですけどシステムを教えてほしいんです」

「……ふーん」

 じろじろと見られている。それが蒼太は微妙に不快に感じていた。
 ひとしきり見られている間、背筋を伸ばして直立不動の体勢を取る。満足したのか視線を逸らした男性は、

「外の依頼書はみたか?」

「はい、見ました」

「んじゃ、それをこなしたら証拠を持ってこい。それで依頼金が出る」

 ……雑!
 冗談かと思うほど簡素な説明に、蒼太は苦笑いを浮かべていた。
 一瞬そのまま回れ右して帰ってしまおうかと頭によぎるが、

「あ、採取依頼なんですけど、規定数以上持ってきた場合ってどうなりますか?」

「ん、あぁ。依頼以上の場合はこっちで預かる。その分割安になるけどな」

 だから早くしたほうがいいぞ、と男性は笑みを浮かべていた。そこに悪意や嘲笑などはなく、ただ淡々とした事務的なものを感じていた。
 ……困ったな。
 明らかに出遅れていることを考えると今から焦っても仕方がない。土地勘もない街では依頼完遂できるかどうかすら怪しかった。そこはチートでどうにかなるかもしれないがあまり便利に慣れすぎるのもどうかと思う。
 ……コピー使ってる時点で大差ないんだけどね。
 金には困っていないが出所不明の金にいつまでも頼るのはどうかという懸念もある。なにより楽しくない。
 これからどうするか。蒼太は頭をひねっていた。今日のところは依頼を諦めて情報収集に精を出したほうがいいのかもしれない。明日朝早くきてよさげな依頼に手を出したほうが実りも多いだろう。
 と、記憶を整理していると気になることに気付いて、蒼太は斡旋所を出ようとする足を止めていた。そのまま踵を返してまた男性の元へと向かうと、テーブルに手をついて、

「あの、誰もやってない依頼ってありますか?」

 男性は怪訝そうな顔色をより一層強くしていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

処理中です...