転生奴隷チートハーレムの後は幸せですか?

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第2話 千年戦争

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 かつて千年戦争と呼ばれる戦争があった。
 終わらない戦争とも呼ばれ、つい十年前まで行われていたそれは、一人の異世界人と彼に集いし七人の英雄によって終結を迎えていた。
 ソウタ カツラギ。異世界より現れた彼を誰も傷つけることはできず誰も立ちふさがることはできない。未知なる力で山を削り、海を割り、未知の技術で病を治し、食糧を生み出す。誰もが彼に心酔し、いつしか統一王として崇め奉るようになっていた。
 そんな彼は戦争を終結させたのちは穏やかな生活を送っていた。世界中から女性を集め後宮を作り、片時もそばを離れるものがいないという。女性の園で 男一人。全ては統一王のために咲き誇る花でしかなかった。
 時折新しい技術を下賜する以外はめっきりと下界に姿を見せなくなった統一王の名声は非常に高い。女に生まれたからには誰もがそばに使えることを憧れ、寵愛を受けるために磨きをかける。もし気に入られでもすればそれは世界を己の者にすることと同じなのだから。
 というのがもっぱら町中で話されていることだった。
 後宮に行くということは子を成すことが目的であり、数多のライバルを蹴散らして正妻の座を勝ち取ることと等しい。それなのに長老の言葉を思い出して、

「じゃあ何しに行くんだよ!」

 がたがたと揺れる馬車の中でカーサは叫んでいた。
 カーサの村から後宮のある王都までは馬車を乗り継いで二週間はかかる道のりだった。休憩の時間以外はひたすらに乗り心地の悪い車内で寝ているか景色を眺めているかしかない。
 飽きたなあ……
 何度目かわからないため息をつくついでに不満も漏らす。
 すると前方から御者が幌の隙間から首をのぞかせて、

「どした?」

「あ、いや、何でもないです」

 独り言を聞かれていたことに、カーサは恥ずかしそうに肩を寄せて答えていた。
 馬車には他に客は乗っていなかった。代わりに王都で降ろす木箱がうずたかく積まれ、その上に器用に座るカーサの姿があった。
 人を乗せる駅馬車もあったのだが、風情に合わないと無理を言って王都行きの荷馬車に乗っていた。本当なら徒歩で探検しながらがよかったのだが旅路で何かあってはいけないと、それだけは長老から固く禁じられていた。
 後ろが開いている荷馬車からは何もない草原が広がっているのが見える。乾いた空気が草木を揺らし、空を小さな雲がのんびりと泳いでいた。
 絶好の探索日和だというのにと、頬を膨らませていたカーサに、

「嬢ちゃん、後宮勤めかい?」

「そうよぉ」

 御者の声に気のない返事で返す。

「そうかそうか、主上にあったらよろしく言ってくんな」

「よろしくって何を?」

「おらたちがこうして安全に行商が出来てるのも主上が道を拓いて戦を鎮めてくれたおかげだ。毎日感謝してもしたりねえよ」

「そ、伝えておくわ」

 逢えたらね、と心の中で付け足す。
 小人種は名前の通り総じて背丈が小さい。主上は人間族のため、その腰くらいしかないカーサに食指が伸びるかという疑問があった。一部の昆虫種や妖精種、花種よりかはまだ望みがあるかもしれないが例外の中で争っていても仕方がない。
 一目会って話すくらいはできるかもね、と思いながらまた景色を眺めていると、

「おーい、見えてきたぞ」

 御者の声にカーサは飛び降りて、ヤモリのように荷物をかき分けていくと、御者台に座る。

「お、おお!」

 目に入る景色に思わず声が漏れる。
 そこはまさに異世界であった。どうすれば倒れずに立っていられるのかわからないほど、遠目からも確認できる建物が立ち並んでいる。
 夜になれば蝋や油ではない光が街を照らし、煙を吐く乗り物が猛スピードで駆けまわる。見たことのない楽器が奏でる音色は騒々しくも新鮮で、常夏の果物も雪下の魚も味わうことができると語り人が話していたことが真実味を増していた。

「すごい……」

「統一王のお膝元だからな。近くに行ったらもっと驚くぞ」

 そう話す御者は得意げに馬を走らせる。
 ……いいなあ。
 御者は旅人だ。彼ら以上に街を移動するものはいない。誰も知らない土地に行き、知らない物を見て、買っては別のところで売りさばく。ロマンとスリル溢れる生活が羨ましくてたまらなかった。
 後宮勤めなど嫌でたまらなかった。主上の顔は一度拝んでみたいとは思うがそれが出来てしまえばいる意味などない。それよりも名を残す程の冒険の方が数千倍は楽しいように思えていた。
 道半ばで死んだとしても後悔はない。それよりも後宮に閉じ込められて朽ちていく方がカーサにとって何よりも恐ろしいことであった。

「いいもん食っていいもん着て。羨ましいなあ」

「なら代わってくれない?」

 そりゃ無理だと御者は豪快に笑うと馬を走らせる。
 冗談と取られたのだろうか。不満げに頬杖をつくカーサは風を切る馬車から王都の姿を眺めていた。
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