48 / 53
第3章 続・メイドな隊長
第47話 エントランス
しおりを挟む
「お」
階段を駆け上がってくる足音が、エントランスホールにいるクレアの頭の上にある耳に届いた。
今しがた倒したばかりの男に片足をかけたまま、猫人の獣人族であるクレアは長い尻尾をピンと立て、先っぽをピクピクさせる。
足音は、自分が脇に立つこの扉の向こう、通路を隔てて正面にある部屋からだ。
その部屋には、地下室へとつながる階段がある。
「おー、さすが隊長。もう片付けたんだ」
地下室の方は無事解決したらしい――よく知る足音二人分に乱れがないことを頭上でピクピクしている三角の猫耳で聞き取り、クレアはエントランスホール中央にある階段上で警戒している仲間に合図を送った。
【救出完了】
ショート丈のシャツにミニスカートのリルダは、暗褐色の肌と先の尖った耳を持つダークエルフと呼ばれる種族だ。
ダークエルフは視力が良い。
クレアの小さなハンドサインを受け、すぐに同じ形で応答を返してくる。
【移動経路上、異常ナシ】
向こうから返された合図を確認し、クレアは続いて扉の中へ向かって親指を立てる。
そして、奥から響く足音でその走る速度に変化がない――つまりはこちらの「計画通り=敵影なし」の合図に気づいたということだ。
親指を立てた手を引っ込めるのと入れ違いに、二人分の人影が飛び出してきた。
走る速度を落とすことなく、クレアの横を駆け抜けていく。
前を走るのは、メイド服の少女。
頭にはホワイトブリムも装備されている。
クレアはそれを微笑ましそうに小さく手を振って見送った。
「慌てて転ばないよーにねー」
メイド服の少女が軽く腕を上げ、クレアの言葉に親指を立てて応える。
メイド服の女の子は隊長その人、レオナ。
一応、成人の儀は終えているので大人扱いだが、まだ成人していない者も普通にいる年齢なので、女の子という方がクレアにはしっくりくる。
「あ、こけた」
階段を上ろうと上を見上げた瞬間に、なぜかズベッと勢いよく転んだレオナを見て、クレアはあーあといった表情を浮かべる。
「絶対、スカートで走り回っちゃいけないタイプだよね、隊長って」
レオナは顔を手で押さえながら立ち上がった。
階段の上から、しゃがみ込んで心配そうな表情を見せているリルダに、「大丈夫」と片手を上げる。
顔を背けるようにして目の辺りを手で覆っているのがちょっと気になるが、あの様子なら大きな怪我はなさそうだ。
「なんで、あんなところで転ぶかなー。階段の上にいるリルダを見上げて驚いてたような気もするけど……」
あの場所を保持しておくよう事前に指示していたのはレオナ自身だ。
見て驚くようなことなんて、なにもないはずなのだが。
「さぁて次は、と……」
再度、奥の部屋へ(物理的に)耳を向ける。
少し間があいて、奥の部屋から、今度はさらに軽い、しかし大勢が階段を上ってくる足音が聞こえてきた。
階段を駆け上がってくる足音が、エントランスホールにいるクレアの頭の上にある耳に届いた。
今しがた倒したばかりの男に片足をかけたまま、猫人の獣人族であるクレアは長い尻尾をピンと立て、先っぽをピクピクさせる。
足音は、自分が脇に立つこの扉の向こう、通路を隔てて正面にある部屋からだ。
その部屋には、地下室へとつながる階段がある。
「おー、さすが隊長。もう片付けたんだ」
地下室の方は無事解決したらしい――よく知る足音二人分に乱れがないことを頭上でピクピクしている三角の猫耳で聞き取り、クレアはエントランスホール中央にある階段上で警戒している仲間に合図を送った。
【救出完了】
ショート丈のシャツにミニスカートのリルダは、暗褐色の肌と先の尖った耳を持つダークエルフと呼ばれる種族だ。
ダークエルフは視力が良い。
クレアの小さなハンドサインを受け、すぐに同じ形で応答を返してくる。
【移動経路上、異常ナシ】
向こうから返された合図を確認し、クレアは続いて扉の中へ向かって親指を立てる。
そして、奥から響く足音でその走る速度に変化がない――つまりはこちらの「計画通り=敵影なし」の合図に気づいたということだ。
親指を立てた手を引っ込めるのと入れ違いに、二人分の人影が飛び出してきた。
走る速度を落とすことなく、クレアの横を駆け抜けていく。
前を走るのは、メイド服の少女。
頭にはホワイトブリムも装備されている。
クレアはそれを微笑ましそうに小さく手を振って見送った。
「慌てて転ばないよーにねー」
メイド服の少女が軽く腕を上げ、クレアの言葉に親指を立てて応える。
メイド服の女の子は隊長その人、レオナ。
一応、成人の儀は終えているので大人扱いだが、まだ成人していない者も普通にいる年齢なので、女の子という方がクレアにはしっくりくる。
「あ、こけた」
階段を上ろうと上を見上げた瞬間に、なぜかズベッと勢いよく転んだレオナを見て、クレアはあーあといった表情を浮かべる。
「絶対、スカートで走り回っちゃいけないタイプだよね、隊長って」
レオナは顔を手で押さえながら立ち上がった。
階段の上から、しゃがみ込んで心配そうな表情を見せているリルダに、「大丈夫」と片手を上げる。
顔を背けるようにして目の辺りを手で覆っているのがちょっと気になるが、あの様子なら大きな怪我はなさそうだ。
「なんで、あんなところで転ぶかなー。階段の上にいるリルダを見上げて驚いてたような気もするけど……」
あの場所を保持しておくよう事前に指示していたのはレオナ自身だ。
見て驚くようなことなんて、なにもないはずなのだが。
「さぁて次は、と……」
再度、奥の部屋へ(物理的に)耳を向ける。
少し間があいて、奥の部屋から、今度はさらに軽い、しかし大勢が階段を上ってくる足音が聞こえてきた。
30
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
追放された武闘派令嬢の異世界生活
新川キナ
ファンタジー
異世界の記憶を有し、転生者であるがゆえに幼少の頃より文武に秀でた令嬢が居た。
名をエレスティーナという。そんな彼女には婚約者が居た。
気乗りのしない十五歳のデビュタントで初めて婚約者に会ったエレスティーナだったが、そこで素行の悪い婚約者をぶん殴る。
追放された彼女だったが、逆に清々したと言わんばかりに自由を謳歌。冒険者家業に邁進する。
ダンジョンに潜ったり護衛をしたり恋をしたり。仲間と酒を飲み歌って踊る毎日。気が向くままに生きていたが冒険者は若い間だけの仕事だ。そこで将来を考えて錬金術師の道へ進むことに。
一流の錬金術師になるべく頑張るのだった
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~
延野 正行
ファンタジー
第七王子ルヴィンは王族で唯一7つのギフトを授かりながら、謙虚に過ごしていた。
ある時、国王の代わりに受けた呪いによって【料理】のギフトしか使えなくなる。
人心は離れ、国王からも見限られたルヴィンの前に現れたのは、獣人国の女王だった。
「君は今日から女王陛下《ボク》の料理番だ」
温かく迎えられるルヴィンだったが、獣人国は軍事力こそ最強でも、周辺国からは馬鹿にされるほど未開の国だった。
しかし【料理】のギフトを極めたルヴィンは、能力を使い『農業のレシピ』『牧畜のレシピ』『おもてなしのレシピ』を生み出し、獣人国を一流の国へと導いていく。
「僕には見えます。この国が大陸一の国になっていくレシピが!」
これは獣人国のちいさな料理番が、地元食材を使った料理をふるい、もふもふ女王を支え、大国へと成長させていく物語である。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
黒白の魔法少女初等生(プリメール) - sorcier noir et blanc -
shio
ファンタジー
神話の時代。魔女ニュクスと女神アテネは覇権をかけて争い、ついにアテネがニュクスを倒した。力を使い果たしたアテネは娘同然に育てた七人の娘、七聖女に世の平和を託し眠りにつく。だが、戦いは終わっていなかった。
魔女ニュクスの娘たちは時の狭間に隠れ、魔女の使徒を現出し世の覇権を狙おうと暗躍していた。七聖女は自らの子供たち、魔法少女と共に平和のため、魔女の使徒が率いる従僕と戦っていく。
漆黒の聖女が魔女の使徒エリスを倒し、戦いを終結させた『エリスの災い』――それから十年後。
アルカンシエル魔法少女学園に入学したシェオル・ハデスは魔法は使えても魔法少女に成ることはできなかった。異端の少女に周りは戸惑いつつ学園の生活は始まっていく。
だが、平和な日常はシェオルの入学から変化していく。魔法少女の敵である魔女の従僕が増え始めたのだ。
領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~
黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。
※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる