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第3章 続・メイドな隊長

第45話 突入(前編)

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 ここは、深夜の地下室。

「ひっ……!」

 少女に、背丈が二倍もあろうかという大男が覆い被さってくる。
 男の下卑げびた表情の意味など解るはずもない年齢ではあるが、これから恐ろしいことが待っていることだけは、少女にも理解できた。

「あ……あ……」

 少女は恐怖に凍り付き、何もできない。
 周りにいる同じ境遇の少女たちも、同じだった。

 村の仕事として森で食材の採取をしていたところを襲われ、さらわれた。
 明日には奴隷として売られる身だ。

 この部屋にいる男たちはみな、この館の主である奴隷商に雇われている、その道裏稼業のプロだった。
 彼女たち、もうどうしようもない――。

 そんな中。

 ドガンッ!

 突然ドアが蹴破られ、影がひとつ飛び込んできた。
 中から掛けていた閂はなぜか外れ、ガランガランと床を跳ねている。

 だが、男たちもプロ。
 一瞬虚を突かれつつも、腰に帯びていた剣を即座に抜き放つ。
  そして、固まる。

「え……?」

 少女を襲おうとしていて反応が一歩遅れたリーダー格の男が、ズボンに手を掛けたまま振り返った状態のまま、呆然と声を漏らした。
 他の男たちも、改めて虚を突かれて呆然としている。

 男の一人が、ボソリとつぶやいた。

「お、女……っていうか、メイド!?」

 破れた扉から勢いよく飛び込み、その勢いを止め……切れずに、床にベシャリと勢いよく突っ伏す――それは、メイド服姿の、少女だった。
 スカートの状態が、突っ伏した時の勢いを物語っていた。

て……死にたくなければ、全員動くな!」

 床から顔を上げた少女は、少女らしい声で、男たちに警告を発する。
 両手に小振りの鋭い双剣。
 でも、メイド服。

 少女に、男たちはたしかに意表を突かれていた。
 だが繰り返すが、男たちは裏稼業のプロだ。

 床に膝をついて起き上がりかけていた少女の両手に武器を認めた時点で、男たちは躊躇ためらいなくメイド服の少女へと襲い掛かっていった。

    空気の妖精    風の盾を!」

 だが、刃が届く前に少女の口から異質な言葉が紡がれる。
 すると、全ての剣が少女の背中に届かず、途中で何かに弾かれるように軌道を反らされ、そのまま木の床に切っ先を食い込ませてしまった。

「グッ……!」

 直後、剣を引き抜こうと足掻あがいていた男たちが仰け反る。

「動くなって言ったのに……」

 メイド服の少女――ことレオナは、ゆっくり立ち上がると服の前面に付いた埃を払った。
 男たちは、仰け反った姿勢のまま動かない。
 いや。

 直後に一人の例外もなく、まるで糸が切れたようにドシャリと床へ崩れ落ちていった。

「そんな登場で警告しても説得力皆無ですよ、隊長」

 男たちの向こうで、腰まで届く艶のある黒髪を揺らしながら、女性がクスクスと笑っている。

 その容姿は、街で見かければ『深窓の令嬢』と評されるだろう雰囲気を感じさせた。
 だが、身にまとった実用性重視の軽防具や、よく見ればその肌の白さに目を引かれる顔には点々と赤い返り血がついていて、そんなイメージ深窓の令嬢は、今は見事に塗り潰されていた。

 レオナの副官、サイカである。

 その手には、反りのある片刃の剣が握られている。
 この辺りでは見ない武器だが、『刀』と称される武器だった。
 そして、ここにいる男たち全員を倒した武器だった。

「あ、あはは……」

 床に打ち付けた跡を顔面に残したレオナは、照れ隠しに笑って誤魔化すと、咳払いを一つして意識を切り替える。

「しっかし。プロの犯罪集団かと思ってたら、やっぱ馬鹿がいるんだねー……」

 ズボンを半ば下した状態で倒れている男に目を遣り、レオナは溜息をいた。

「雇う金をケチったんでしょう。こんなクズを使うとは、ここの主も思った以上に小物ですね」

 ナメクジを見るような目で男を見下ろすサイカの言葉も、容赦がない。

「ホント、シェラの使い魔に、ずっと監視してもらっておいてよかったよ……」

(シェラから報告を受けた時は、さすがに焦ったもんねぇ……)

 この男のせいで、突入が予定より早まってしまったのだ。
 内心慌ててしまったおかげで、格好カッコ悪い突入になってしまった。
 原因は、あくまでこの男の馬鹿な行動にある。

(自分は、悪くない!)

 内心で拳を握りしめ、自己弁護を終えたレオナに、サイカが声をかけてきた。

「隊長、ボーっとしてる時間はありません。すぐに次へかかりましょう。マリアたちが上で時間を稼ぐのにも限度があります」
「あ、ゴメ……ああ、そうだね」

 思わず素に戻って「ゴメンナサイ」とか言いかけたメイド服の少女は、慌てて気持ちと口調を切り替え直し、少女から手を離して立ち上がった。

「(ゴホン)じゃあ、あとは予定通り任せよう――エイル!」
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