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第2章 メイドな隊長、誕生
第41話 いわゆる、【飲み回】
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夜。
ここは、屋敷から地下水道で繋がっている例の酒場である。
ここに今、隊員十六名が勢揃いしていた。
なぜなら――レオナ隊の発足を記念して、店を貸し切っての飲み会の真っ最中なのだ。
「おらー、呑め呑めーっ!」
「誰かおかわり持ってきてー!!」
「自分で行け、自分で! ――あ、取りに行くんだったら、アタシ魚食べたい、魚!」
「おまえこそ、自分で行けよ! ちなみにボクは肉ね!」
「あーもーっ! 全員で行くよ!! ――マスター、ごはんちょーだーい!!」
しかも、普段は隊員が交代で店員を務めている店なので、もう勝手知ったる好き放題。酒場のマスターも「メシは作ってやるから、酒もメシも勝手に持っていけ」と言って厨房に籠っている。
「ねー、干しワカメない~!?」
「出されたモン黙って食っとけ!」
「おいしーっ! これ、なんかキレイ! これもおいしーんですけどー!」
とどめとばかりに、ここのお代については「全部持ってやる」とティアが冒頭に宣言して帰ったものだから。
「あははははっ! たのしー!!」
「優勝~~~~!!」
「酒を頭から被ってんじゃねー! 全部口の中へ入れやがれっ! 口から飲まねーんなら、あたしに樽ごと寄越せーっ」
……こんなどこにも歯止めがかかってない宴会など、行く末は誰の目にも明らかというものだった。
■■■
「そんなわけで、屋敷に戻ってからがもう大変だったんですよぅ……」
未だどんちゃん騒ぎの喧騒が上がる一方な店内。
レオナがテーブルにあごを乗せて涙目になっている。
頭の上のホワイトブリムも、心なしか元気なさそうに萎れていた。
「あっはっは。隊長と使用人の二足の草鞋も楽じゃねーな」
テーブルをはさんでレオナの正面に座るカーラは、笑いながら自分の木製ジョッキを一気に空けた。
レオナも釣られるようにジョッキを傾け、中身を空にする。
ジョッキをテーブルに置くと、すぐさま隣から伸びた手が持つピッチャーからエールが注がれる。
カーラの方は面倒くさいとばかりに、テーブル横の樽へジョッキを突っ込み、直にエールを汲み上げていた。
普段なら、店の地下にある樽から店員がいちいち汲んで運んでくる。
だが、今回は他に客のいない貸し切りなのをいいことに、「店の中央に樽を置き、一旦どでかいピッチャーに汲んで各テーブルへ配り、あとはピッチャーから呑む分だけ各々のジョッキに注ぐ」というドワーフ文化に倣っていた。
なお、調子に乗ったやつがピッチャーから直接飲み始めるのも、この文化の伝統だ。
「ほんとですよーもーーー」
レオナは、ジョッキの取っ手に手を掛け、なみなみと注がれたエールをグイっと呷った。
ゴンと、勢いよくテーブルに置かれたジョッキに、隣からまたエールが注がれる。
「おー、いい飲みっぷりじゃねーか。ホントに今日が人生初めての酒かよ?」
「ホントですよぅ。わたしは、成人してまだ一年経ってない年齢なんですからぁ」
嘘偽りなく、レオナとしては人生初めてのアルコール摂取だ。
だが、今日のレオナは、前世の記憶が「今日はトコトン飲め!」と全力で叫んでいた。
命のやり取りまで含むとんでもない大仕事が終わった後の、この解放感と疲労感。
それが合わさり、ただただ喉越しとアルコールによる酩酊を、心が求めているのだ。
初めてにも関わらず熟練の呑みっぷりになるのも当然というもの。
ただ誤算があったとすれば、呑む感覚は前世のものでも、呑んだ酒を収めるのは現在の小柄なレオナの身体だった、というところだろう。
「おーい隊長。初めて酒飲むってのに、そんな勢いで飲んで大丈夫かよ」
傍を通りかかったクレアが、心配そうに声をかけてきた。
もちろん、心配そうに声をかけられたら、答えは決まっている。
「だいじょーぶですよぅ」
もちろん、酒を飲んでるヤツの『大丈夫』が、大丈夫なわけはなかった。
「う~……」
レオナが、何の前触れもなく立ち上がる。
「なんだよ、急にどうしたんだ隊長?」
「花に水やりしなくちゃ……」
「ちょ、どこに花なんかあるんだよ――って、店の外行くんじゃねーって。とにかく座って座って!」
「ん~……乾いてるのにぃ……」
「なにがっ」
クレアにツッコまれつつムリヤリ元の席に座らされると、今度はなぜかユラユラと左右に揺れ始めた。
「……おーい、隊長? 大丈夫かー?」
「だいじょうぶですよぅ。何年、お酒と付き合ってきたと思ってるんですか」
「今日初めてだろーがっ」
「だいじょうぶ……たいちょーだし……」
「おーい」
「…………」
クレアがレオナの顔の前で手をヒラヒラさせていると、突然レオナの揺れがぴたりと止まった。
そして。
ごんっ。
いきなりテーブルに額を打ち付け、突っ伏してしまう。
そして、そのままピクリとも動かなくなった。
「おい、隊長。ホントに大丈夫か?」
だが、心配になってクレアが手を伸ばしたところで、無事(?)可愛い寝息が聞こえ始める。
とりあえず逆流の気配はないことを確認し、クレアはほっと胸を撫で下ろした。
「あーあ、言わんこっちゃない――オマエら、初心者に呑ませ過ぎだっちゅーの」
「そーか? オレが子供の頃は、もっと呑んでたぜ? それに、酒なんて潰れるまで呑んでナンボじゃね?」
「女戦士基準で呑ませるなっつーの! サイカも、副官なら黙って見てないで止めろよな」
「そいつなら、黙って見てたどころか、隊長のジョッキに横から酒注ぎまくってたぜ?」
「サーイーカー、オマエなー」
「うふふ、大丈夫ですよ。隊長が潰れてからが、副官の出番じゃないですか。じゅるり」
「サイカ。お前、ヨダレたれてるぞ?」
「ふくたいちょー、助けてー! サイカがおかしいんだってばよーっ」
これは手に負えないと、クレアは副隊長のマリアに泣きついた。
カウンターの隅で、ひとり静かになにやらキツそうな酒を呷っていたマリアがヤレヤレと席を立ち、クレアたちの方へ歩いてくる。
「サイカがおかしいのは、今に始まったことじゃないだろう?」
「いや、今日のサイカはいつもどころじゃないって。このままじゃ、隊長がナニされるか……」
「何もしませんよ。失礼な……うふふ」
「サイカ。お前、ヨダレたれてるぞ?」
「安心しろ、クレア。コイツは、相手の同意なしになにかする根性も胸もない」
「……マリア? 今、なにか最後に余計なものを付け加えませんでした?」
「いいや? お前の胸には、余計なモノなんて付いてないだろ? ――私と違ってな」
「……」
「わーっ! サイカ、笑顔で刀抜いてんじゃねーよ!! 怖えーよ! ってか、副隊長も酔ってたー!!」
「う~ん……アイシャ、ゴメンってばぁ……」
ここは、屋敷から地下水道で繋がっている例の酒場である。
ここに今、隊員十六名が勢揃いしていた。
なぜなら――レオナ隊の発足を記念して、店を貸し切っての飲み会の真っ最中なのだ。
「おらー、呑め呑めーっ!」
「誰かおかわり持ってきてー!!」
「自分で行け、自分で! ――あ、取りに行くんだったら、アタシ魚食べたい、魚!」
「おまえこそ、自分で行けよ! ちなみにボクは肉ね!」
「あーもーっ! 全員で行くよ!! ――マスター、ごはんちょーだーい!!」
しかも、普段は隊員が交代で店員を務めている店なので、もう勝手知ったる好き放題。酒場のマスターも「メシは作ってやるから、酒もメシも勝手に持っていけ」と言って厨房に籠っている。
「ねー、干しワカメない~!?」
「出されたモン黙って食っとけ!」
「おいしーっ! これ、なんかキレイ! これもおいしーんですけどー!」
とどめとばかりに、ここのお代については「全部持ってやる」とティアが冒頭に宣言して帰ったものだから。
「あははははっ! たのしー!!」
「優勝~~~~!!」
「酒を頭から被ってんじゃねー! 全部口の中へ入れやがれっ! 口から飲まねーんなら、あたしに樽ごと寄越せーっ」
……こんなどこにも歯止めがかかってない宴会など、行く末は誰の目にも明らかというものだった。
■■■
「そんなわけで、屋敷に戻ってからがもう大変だったんですよぅ……」
未だどんちゃん騒ぎの喧騒が上がる一方な店内。
レオナがテーブルにあごを乗せて涙目になっている。
頭の上のホワイトブリムも、心なしか元気なさそうに萎れていた。
「あっはっは。隊長と使用人の二足の草鞋も楽じゃねーな」
テーブルをはさんでレオナの正面に座るカーラは、笑いながら自分の木製ジョッキを一気に空けた。
レオナも釣られるようにジョッキを傾け、中身を空にする。
ジョッキをテーブルに置くと、すぐさま隣から伸びた手が持つピッチャーからエールが注がれる。
カーラの方は面倒くさいとばかりに、テーブル横の樽へジョッキを突っ込み、直にエールを汲み上げていた。
普段なら、店の地下にある樽から店員がいちいち汲んで運んでくる。
だが、今回は他に客のいない貸し切りなのをいいことに、「店の中央に樽を置き、一旦どでかいピッチャーに汲んで各テーブルへ配り、あとはピッチャーから呑む分だけ各々のジョッキに注ぐ」というドワーフ文化に倣っていた。
なお、調子に乗ったやつがピッチャーから直接飲み始めるのも、この文化の伝統だ。
「ほんとですよーもーーー」
レオナは、ジョッキの取っ手に手を掛け、なみなみと注がれたエールをグイっと呷った。
ゴンと、勢いよくテーブルに置かれたジョッキに、隣からまたエールが注がれる。
「おー、いい飲みっぷりじゃねーか。ホントに今日が人生初めての酒かよ?」
「ホントですよぅ。わたしは、成人してまだ一年経ってない年齢なんですからぁ」
嘘偽りなく、レオナとしては人生初めてのアルコール摂取だ。
だが、今日のレオナは、前世の記憶が「今日はトコトン飲め!」と全力で叫んでいた。
命のやり取りまで含むとんでもない大仕事が終わった後の、この解放感と疲労感。
それが合わさり、ただただ喉越しとアルコールによる酩酊を、心が求めているのだ。
初めてにも関わらず熟練の呑みっぷりになるのも当然というもの。
ただ誤算があったとすれば、呑む感覚は前世のものでも、呑んだ酒を収めるのは現在の小柄なレオナの身体だった、というところだろう。
「おーい隊長。初めて酒飲むってのに、そんな勢いで飲んで大丈夫かよ」
傍を通りかかったクレアが、心配そうに声をかけてきた。
もちろん、心配そうに声をかけられたら、答えは決まっている。
「だいじょーぶですよぅ」
もちろん、酒を飲んでるヤツの『大丈夫』が、大丈夫なわけはなかった。
「う~……」
レオナが、何の前触れもなく立ち上がる。
「なんだよ、急にどうしたんだ隊長?」
「花に水やりしなくちゃ……」
「ちょ、どこに花なんかあるんだよ――って、店の外行くんじゃねーって。とにかく座って座って!」
「ん~……乾いてるのにぃ……」
「なにがっ」
クレアにツッコまれつつムリヤリ元の席に座らされると、今度はなぜかユラユラと左右に揺れ始めた。
「……おーい、隊長? 大丈夫かー?」
「だいじょうぶですよぅ。何年、お酒と付き合ってきたと思ってるんですか」
「今日初めてだろーがっ」
「だいじょうぶ……たいちょーだし……」
「おーい」
「…………」
クレアがレオナの顔の前で手をヒラヒラさせていると、突然レオナの揺れがぴたりと止まった。
そして。
ごんっ。
いきなりテーブルに額を打ち付け、突っ伏してしまう。
そして、そのままピクリとも動かなくなった。
「おい、隊長。ホントに大丈夫か?」
だが、心配になってクレアが手を伸ばしたところで、無事(?)可愛い寝息が聞こえ始める。
とりあえず逆流の気配はないことを確認し、クレアはほっと胸を撫で下ろした。
「あーあ、言わんこっちゃない――オマエら、初心者に呑ませ過ぎだっちゅーの」
「そーか? オレが子供の頃は、もっと呑んでたぜ? それに、酒なんて潰れるまで呑んでナンボじゃね?」
「女戦士基準で呑ませるなっつーの! サイカも、副官なら黙って見てないで止めろよな」
「そいつなら、黙って見てたどころか、隊長のジョッキに横から酒注ぎまくってたぜ?」
「サーイーカー、オマエなー」
「うふふ、大丈夫ですよ。隊長が潰れてからが、副官の出番じゃないですか。じゅるり」
「サイカ。お前、ヨダレたれてるぞ?」
「ふくたいちょー、助けてー! サイカがおかしいんだってばよーっ」
これは手に負えないと、クレアは副隊長のマリアに泣きついた。
カウンターの隅で、ひとり静かになにやらキツそうな酒を呷っていたマリアがヤレヤレと席を立ち、クレアたちの方へ歩いてくる。
「サイカがおかしいのは、今に始まったことじゃないだろう?」
「いや、今日のサイカはいつもどころじゃないって。このままじゃ、隊長がナニされるか……」
「何もしませんよ。失礼な……うふふ」
「サイカ。お前、ヨダレたれてるぞ?」
「安心しろ、クレア。コイツは、相手の同意なしになにかする根性も胸もない」
「……マリア? 今、なにか最後に余計なものを付け加えませんでした?」
「いいや? お前の胸には、余計なモノなんて付いてないだろ? ――私と違ってな」
「……」
「わーっ! サイカ、笑顔で刀抜いてんじゃねーよ!! 怖えーよ! ってか、副隊長も酔ってたー!!」
「う~ん……アイシャ、ゴメンってばぁ……」
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