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第2章 メイドな隊長、誕生
第27話 敵、襲来(後編)
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「敵は竜牙兵が五十と使役するローブの男が一名! バックアップの四人はティア様を護衛して倉庫まで後退! ルックア、サイカとクレアはわたしの指揮下! マリア、残りを二班にまとめて正門へ展開!」
レオナは自らも正門へ走りつつ、ひとまず全員に指示を出す。
それに戸惑うことなく、全隊員がレオナの命令通りに遅滞なく動き始めた。
「ルックア。竜牙兵が五十体もいるのに、男が一人?」
『他に見当たらない』
「…………」
「竜牙兵も、自立性もなく一斉に動いてる感じだから――これは【男の持ってる異様な杖が、じつは魔法の遺物】に一票』
「魔法の遺物!?」
魔法の遺物は、現在には伝わっていない技術で作成された、古代の道具と言われている。
特徴としては、現在の技術や魔法の体系では説明できない強大な性能を秘めているという点が挙げられるだろう。
ルックアの報告通りの状況であれば、それを疑うのが、最も自然だ。
――それくらい、訓練所の外の状況が異常ということでもある。
「あ、やっぱり男本体は魔術師っぽい……火球を撃ってきた」
「ええ!?」
レオナの声へ重なるように、正門で『ドォンッ』という衝撃音が響く。
さらに続いて、もう一度衝撃音。
魔法の火球が、正門に命中したようだ。
竜牙兵を引き連れている男は、やはり魔術師らしい。
となると、竜牙兵はルックアの見立て通りか。
『跳ね橋を落とされた』
ルックアの報告を待つまでもなく、引き上げる鎖を固定した部分が壊されたらしく、正門を兼ねた跳ね橋がゆっくり倒れていき、最後に堀の向こう側の地面をドンッと叩いた。
竜牙兵たちの前で、堀に橋が架かってしまう。
「ふははははははははははははっ!」
落ちた跳ね橋の向こうに現れたのは、ルックアの報告通り、竜牙兵の群れ――その先頭に立つローブ姿の男が、哄笑を上げた。
「砦を落とせと言われて来てみれば、中にいるのはただの女子供、それもほとんど蛮族ではないか。アザリア正規軍を相手にするつもりで来たのに、拍子抜けもいいところだ」
顔を歪めて笑う男の目は血走り、その精神が尋常にないことが知れる。
こちらへ聞かせるつもりの大声なのは承知した上で、レオナはそれに応えず、ただ相手を観察した。
黒いローブから覗いている顔や手先の肌は青白く、目も落ち窪んだやや背の高いこの男は、その言葉の内容を鑑みればおそらく人間だろう。
後ろにいる竜牙兵は、ルックアの報告通り五十体ほど。すべて片手剣と盾を装備している。
注意深く観察してみても、それ以上の気配はない。
(ルックアのことも計算に入れればいけそうだし、保険掛けとくか……マリアは大変かもだけど)
まあ勘が外れてたら、マリアに笑ってゴメンナサイしようと、レオナは作戦を決めた。
「マリア、二班で門を死守。一体も中へ入れないで」
「はっ」
「サイカはわたしと裏門――それからクレア!」
レオナはクレアに指示を伝えると、サイカと共に踵を返し、敷地の裏手へと向かう。
残されたのは、マリア以下の二班。
この世界での人間の軍組織において一班は四名で構成される。二班ということは八名だ。
つまりは、五十体ほどの竜牙兵と魔術師を八名で抑えろということ。
「ふははははっ。あんな子供の使用人に命令され、大魔術師を相手に捨て石か。哀れなものだな!」
「……」
マリアもレオナ同様に無駄な問答の相手はせず、二班八名で正門を守る陣形を取った。
そこに迷いはない。
男の言葉通りに捨て石にされたなどとは、露ほどにも思っていなかった。
マリアは目の前の状況とレオナの命令、そして何より彼女自身の行動を合わせ、彼女の意図に気づいていた――ならば、これが最善だ。
(レオナの命令がなきゃ、気付くのが遅れていたな――しかし、こんな突然の状況で、いきなりここまでやれるとは、これまで一体どんな人生を送ってきたんだか……)
レオナの剣は、たしかにその辺の戦士とやり合える腕だ。
魔法も使える。
隊長としてやれる才能を持っていることも、先日確認した。
それだけでも内心驚愕ものだというのに、就任当日で隊員個々を把握する間もないまま、すでにここまで状況を把握して的確な判断を下せるなど、予想を遥かに超えていた。
こうなると、この場を任された自分が期待に応えない訳にはいかない。
「おまえら、間違えるなよ」
マリアは剣を抜き放ち、隣のカーラと背後の隊員に声をかける。
隊員には、種族の特性もあり、血気に逸り易い者もいる。
それを抑えるのも、ここを任された自分の役目だ。
レオナの命令を完遂できるよう、マリアはこの場に残っている隊員たちに念を押した。
「隊長の命令は『正門を死守』だ」
今回のレオナの命令は的確だ。
今になって後追いで検討してみれば、現時点でこれが最善だろうとマリアも思える。
だが、それは隊員が命令を順守することを前提としている。
もし、命令から外れた行動をとる隊員がいれば、人数が少ない分、それが致命的になりかねない。
隊長命令を守ろうとしない馬鹿はさすがにいないが、命を懸けた戦闘の中で逸って命令を忘れることはあり得るのだ。
そこで命令を思い出させるのが、この場を任された自分の役目だと、マリアは改めて肝に銘じる。
「もちろん、勝手に飛び出して、陣形に穴を空ける莫迦はいないだろうな?」
副隊長のマリアの、これまでの訓練を思い起こさせる声と鋭い視線に、この場にいる隊員たちは皆「当然」と笑って答えつつも、顔がやや引き攣っていた。
全員「莫迦はどうなるか?」を、その身体でよく知っているからだ。
これまでの訓練とは、そういうものだった。
「行けっ!」
男が杖の石突を地面にドンッと突き立てると、先端から複数ぶら下がる紐に括りつけられた獣らしき大きな牙がジャランと鳴り、同時に杖の先端に付けられた怪しい宝玉が輝く。
それに呼応するように、背後の竜牙兵たちの目が宝玉と同じ色に怪しく光り、一斉に突撃を始めた。
「目の前の敵を蹴散らし、砦の中にいる者も一人残らず蹂躙しろ!」
竜牙兵その数五十体が男の命を受け、マリアたち八名が守る門へと殺到する――。
レオナは自らも正門へ走りつつ、ひとまず全員に指示を出す。
それに戸惑うことなく、全隊員がレオナの命令通りに遅滞なく動き始めた。
「ルックア。竜牙兵が五十体もいるのに、男が一人?」
『他に見当たらない』
「…………」
「竜牙兵も、自立性もなく一斉に動いてる感じだから――これは【男の持ってる異様な杖が、じつは魔法の遺物】に一票』
「魔法の遺物!?」
魔法の遺物は、現在には伝わっていない技術で作成された、古代の道具と言われている。
特徴としては、現在の技術や魔法の体系では説明できない強大な性能を秘めているという点が挙げられるだろう。
ルックアの報告通りの状況であれば、それを疑うのが、最も自然だ。
――それくらい、訓練所の外の状況が異常ということでもある。
「あ、やっぱり男本体は魔術師っぽい……火球を撃ってきた」
「ええ!?」
レオナの声へ重なるように、正門で『ドォンッ』という衝撃音が響く。
さらに続いて、もう一度衝撃音。
魔法の火球が、正門に命中したようだ。
竜牙兵を引き連れている男は、やはり魔術師らしい。
となると、竜牙兵はルックアの見立て通りか。
『跳ね橋を落とされた』
ルックアの報告を待つまでもなく、引き上げる鎖を固定した部分が壊されたらしく、正門を兼ねた跳ね橋がゆっくり倒れていき、最後に堀の向こう側の地面をドンッと叩いた。
竜牙兵たちの前で、堀に橋が架かってしまう。
「ふははははははははははははっ!」
落ちた跳ね橋の向こうに現れたのは、ルックアの報告通り、竜牙兵の群れ――その先頭に立つローブ姿の男が、哄笑を上げた。
「砦を落とせと言われて来てみれば、中にいるのはただの女子供、それもほとんど蛮族ではないか。アザリア正規軍を相手にするつもりで来たのに、拍子抜けもいいところだ」
顔を歪めて笑う男の目は血走り、その精神が尋常にないことが知れる。
こちらへ聞かせるつもりの大声なのは承知した上で、レオナはそれに応えず、ただ相手を観察した。
黒いローブから覗いている顔や手先の肌は青白く、目も落ち窪んだやや背の高いこの男は、その言葉の内容を鑑みればおそらく人間だろう。
後ろにいる竜牙兵は、ルックアの報告通り五十体ほど。すべて片手剣と盾を装備している。
注意深く観察してみても、それ以上の気配はない。
(ルックアのことも計算に入れればいけそうだし、保険掛けとくか……マリアは大変かもだけど)
まあ勘が外れてたら、マリアに笑ってゴメンナサイしようと、レオナは作戦を決めた。
「マリア、二班で門を死守。一体も中へ入れないで」
「はっ」
「サイカはわたしと裏門――それからクレア!」
レオナはクレアに指示を伝えると、サイカと共に踵を返し、敷地の裏手へと向かう。
残されたのは、マリア以下の二班。
この世界での人間の軍組織において一班は四名で構成される。二班ということは八名だ。
つまりは、五十体ほどの竜牙兵と魔術師を八名で抑えろということ。
「ふははははっ。あんな子供の使用人に命令され、大魔術師を相手に捨て石か。哀れなものだな!」
「……」
マリアもレオナ同様に無駄な問答の相手はせず、二班八名で正門を守る陣形を取った。
そこに迷いはない。
男の言葉通りに捨て石にされたなどとは、露ほどにも思っていなかった。
マリアは目の前の状況とレオナの命令、そして何より彼女自身の行動を合わせ、彼女の意図に気づいていた――ならば、これが最善だ。
(レオナの命令がなきゃ、気付くのが遅れていたな――しかし、こんな突然の状況で、いきなりここまでやれるとは、これまで一体どんな人生を送ってきたんだか……)
レオナの剣は、たしかにその辺の戦士とやり合える腕だ。
魔法も使える。
隊長としてやれる才能を持っていることも、先日確認した。
それだけでも内心驚愕ものだというのに、就任当日で隊員個々を把握する間もないまま、すでにここまで状況を把握して的確な判断を下せるなど、予想を遥かに超えていた。
こうなると、この場を任された自分が期待に応えない訳にはいかない。
「おまえら、間違えるなよ」
マリアは剣を抜き放ち、隣のカーラと背後の隊員に声をかける。
隊員には、種族の特性もあり、血気に逸り易い者もいる。
それを抑えるのも、ここを任された自分の役目だ。
レオナの命令を完遂できるよう、マリアはこの場に残っている隊員たちに念を押した。
「隊長の命令は『正門を死守』だ」
今回のレオナの命令は的確だ。
今になって後追いで検討してみれば、現時点でこれが最善だろうとマリアも思える。
だが、それは隊員が命令を順守することを前提としている。
もし、命令から外れた行動をとる隊員がいれば、人数が少ない分、それが致命的になりかねない。
隊長命令を守ろうとしない馬鹿はさすがにいないが、命を懸けた戦闘の中で逸って命令を忘れることはあり得るのだ。
そこで命令を思い出させるのが、この場を任された自分の役目だと、マリアは改めて肝に銘じる。
「もちろん、勝手に飛び出して、陣形に穴を空ける莫迦はいないだろうな?」
副隊長のマリアの、これまでの訓練を思い起こさせる声と鋭い視線に、この場にいる隊員たちは皆「当然」と笑って答えつつも、顔がやや引き攣っていた。
全員「莫迦はどうなるか?」を、その身体でよく知っているからだ。
これまでの訓練とは、そういうものだった。
「行けっ!」
男が杖の石突を地面にドンッと突き立てると、先端から複数ぶら下がる紐に括りつけられた獣らしき大きな牙がジャランと鳴り、同時に杖の先端に付けられた怪しい宝玉が輝く。
それに呼応するように、背後の竜牙兵たちの目が宝玉と同じ色に怪しく光り、一斉に突撃を始めた。
「目の前の敵を蹴散らし、砦の中にいる者も一人残らず蹂躙しろ!」
竜牙兵その数五十体が男の命を受け、マリアたち八名が守る門へと殺到する――。
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