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第2章 メイドな隊長、誕生
第24話 いわゆる、【お風呂回】
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訓練所に着いたレオナは、馬車を降りるとそのまま建物内の一角に案内され、服を脱がされた。
それだけではなく、全裸の隊員十五名(プラス一名)に囲まれた。
そして着任の挨拶をさせられた。
――白い湯気が立ち籠める、大浴場の湯船の中で。
「なぜ、お風呂……」
主に訓練所に残っていて初見だった隊員たちからの(全裸の)歓迎を受けたレオナは、お湯に肩まで浸かりながら、顔を真っ赤にしていた。
温まりすぎたからではない。
天然の温泉水らしい――全裸な状態をある程度隠してくれるほどの乳白色のお湯は、隊員達(全裸)の視線に曝されている今のレオナには、まあ若干の安心材料ではあった。
とはいえ、あくまで若干でしかなく、完全に平静でいられるはずもない。
さらに、大浴場の名に相応しい広さのスペースのあちこちで、湯を流す音や笑い声が響いてくる。
どこに目を向けても、視界に必ず一糸纏わぬ隊員が、(湯気が立ち籠めているとはいえ)無防備に存在しているのだ。
それを意識するなという方が難しい。
とくに、隣。
「ここは、炎の古竜が棲む山の麓なので、竜の発する火の精霊力に熱せられた地下水が温泉として湧き出ているのです」
湯の中で、レオナにぴったりと寄り添うサイカが解説してくれる。
サイカは、長い黒髪をまとめて肌の白いうなじを露わにしているが、レオナにそんなところを見ている余裕はない。
前世でも一度は夢見た状況のはずなのだが、実現してみるとというか、とくに自分が注目されてしまうと、というか――。
それに、想像には存在しなかった、肌が触れ合う『感触』というものが――。
いや、そうじゃなくて。
「いや、そうじゃなくて。なぜ全員でお風呂に入ってるのかってことで……」
「そりゃ、ここに残ってた連中は、ずっと訓練してたからな。ちょうど訓練終わって汗流すタイミングだったんだ。オレたちは、いわゆるついでってやつだ」
声のする方へ目を向けると。
向い側にいるカーラが、天井を見上げた状態でリラックスしまくっていた。
女戦士のカーラは、その褐色の肌に、独特の刺青を施している。
それは顔や腕や胸元だけでなく、ふだんは服――女戦士特有の面積が少ない布――に隠れている箇所も例外ではない。
(ふだん見慣れない箇所の、刺青が気になっただけ、刺青が気になっただけ……)
レオナは、綺麗に刺青が施された、カーラの水面に浮かんでいる二つのものから、必死に視線を戻した。
「だからって、全員で入らなくても。訓練組が出てくるのを待っててもよかったんじゃ……」
「これも任務ですよー、隊長」
少し離れた位置から声がしたかと思ったら、屈んだ状態のまま、水面から胸元を覗かせてザバザバとお湯をかき分け、訓練所待機組の一人、エイルが近づいてきた。
エイルはこの世界に存在する多種多様な獣人のひとつである犬人で、茶色い髪の上で三角の耳がヒコヒコしている。水面下では、おそらく茶色の毛に覆われた長い尻尾が、ユラユラしているだろう。
耳と尻尾、種族によっては他に瞳や舌など、よく見れば種族らしい特徴があったりもするが、目立つ特徴は言ってみればそれだけで、他は人間と同じだ。
つまりは、お湯をかき分けているエイルの二つのものも、レオナにとっては――であって。
つまりは、胸元は水面から出ているのに、肝心な――ではなく、レオナがつい視線を向けてしまう部分から下は真っ白な濁り湯の中で、でも移動するときのわずかな上下であわや……。
(って、わざとじゃないよね!?)
本能が思わず見えるか見えないかの部分に向けてしまう視線を、レオナは前世も含めた理性を総動員して、エイルの顔に向ける。
テンパっているレオナは、エイルの表情に微かに悪戯っぽさが混じっていることになど、気付く余裕はもちろんなかった。
「に、任務って?」
「ちゃんと部下の身体を、隅々までじっくり目に焼き付けるのは、隊長の義務ってことですよ~」
「それ、どんな義務っ!?」
思わず立ち上がりかけ、レオナは一瞬の差で思い止まる。
危うく、隊員たちに自分の身体を隅々までじっくり目に焼き付けてもらう羽目に陥るところだった。
そんなレオナにエイルはニッコリと微笑みかけ、人差し指をピンと立てる。
「たとえば、敵の魔法で四散した部下の顔のない遺体を見つけ出して、ちゃんと連れ帰ろうと思ったら、全身の小さな特徴まで全部覚えておく必要があるじゃないですか」
「って、思ってたより重い話だった!」
「そりゃあ、命かけて戦う部隊ですからね~――ってことで、まずはわたしの特徴覚えてくださいね。例えば、左の乳輪の横のほくろなんですけど――」
「ヒトの目の前で、役立たずの脂肪を揺らすなっ!」
スパァンッ、と。
水面から全てを現そうとしたエイルの脂肪を、サイカが電光の速度で叩いた。
湯気の向こうで、エイルの脂肪が、大きく揺れる。
「いった~。サイカってば、いつにもまして、わたしの胸の扱いヒドくない?」
「千切り取られないだけありがたいと思え」
「痛いし、自分で治すの大変だからやめてよね~」
エイルは立ち上がって胸をかばうようにして一歩距離を取った。
(ど、どこまで本気なんだろう……)
エイルはかなり腕のいい治癒術士だ。
馬車の中で読んだ資料には、信じられないことまで書いてあった。
とはいえ、千切り取られて「痛いし、自分で治すの大変」で済むものなのだろうか。
(まあ、サイカに向けて、おさえてる腕でわざと挑発してみせてるし、たぶんふたりとも冗談なんだろうけど)
だが、サイカの次の言葉で、エイルの動きが止まった。
悪戯っぽく浮かべていた笑みがヒキッと凍りつく。
「安心しろ。やるときは、くっつける手間が省けるように、責任持って焼却処分してやる」
……どこまで本気なんだろう。
それだけではなく、全裸の隊員十五名(プラス一名)に囲まれた。
そして着任の挨拶をさせられた。
――白い湯気が立ち籠める、大浴場の湯船の中で。
「なぜ、お風呂……」
主に訓練所に残っていて初見だった隊員たちからの(全裸の)歓迎を受けたレオナは、お湯に肩まで浸かりながら、顔を真っ赤にしていた。
温まりすぎたからではない。
天然の温泉水らしい――全裸な状態をある程度隠してくれるほどの乳白色のお湯は、隊員達(全裸)の視線に曝されている今のレオナには、まあ若干の安心材料ではあった。
とはいえ、あくまで若干でしかなく、完全に平静でいられるはずもない。
さらに、大浴場の名に相応しい広さのスペースのあちこちで、湯を流す音や笑い声が響いてくる。
どこに目を向けても、視界に必ず一糸纏わぬ隊員が、(湯気が立ち籠めているとはいえ)無防備に存在しているのだ。
それを意識するなという方が難しい。
とくに、隣。
「ここは、炎の古竜が棲む山の麓なので、竜の発する火の精霊力に熱せられた地下水が温泉として湧き出ているのです」
湯の中で、レオナにぴったりと寄り添うサイカが解説してくれる。
サイカは、長い黒髪をまとめて肌の白いうなじを露わにしているが、レオナにそんなところを見ている余裕はない。
前世でも一度は夢見た状況のはずなのだが、実現してみるとというか、とくに自分が注目されてしまうと、というか――。
それに、想像には存在しなかった、肌が触れ合う『感触』というものが――。
いや、そうじゃなくて。
「いや、そうじゃなくて。なぜ全員でお風呂に入ってるのかってことで……」
「そりゃ、ここに残ってた連中は、ずっと訓練してたからな。ちょうど訓練終わって汗流すタイミングだったんだ。オレたちは、いわゆるついでってやつだ」
声のする方へ目を向けると。
向い側にいるカーラが、天井を見上げた状態でリラックスしまくっていた。
女戦士のカーラは、その褐色の肌に、独特の刺青を施している。
それは顔や腕や胸元だけでなく、ふだんは服――女戦士特有の面積が少ない布――に隠れている箇所も例外ではない。
(ふだん見慣れない箇所の、刺青が気になっただけ、刺青が気になっただけ……)
レオナは、綺麗に刺青が施された、カーラの水面に浮かんでいる二つのものから、必死に視線を戻した。
「だからって、全員で入らなくても。訓練組が出てくるのを待っててもよかったんじゃ……」
「これも任務ですよー、隊長」
少し離れた位置から声がしたかと思ったら、屈んだ状態のまま、水面から胸元を覗かせてザバザバとお湯をかき分け、訓練所待機組の一人、エイルが近づいてきた。
エイルはこの世界に存在する多種多様な獣人のひとつである犬人で、茶色い髪の上で三角の耳がヒコヒコしている。水面下では、おそらく茶色の毛に覆われた長い尻尾が、ユラユラしているだろう。
耳と尻尾、種族によっては他に瞳や舌など、よく見れば種族らしい特徴があったりもするが、目立つ特徴は言ってみればそれだけで、他は人間と同じだ。
つまりは、お湯をかき分けているエイルの二つのものも、レオナにとっては――であって。
つまりは、胸元は水面から出ているのに、肝心な――ではなく、レオナがつい視線を向けてしまう部分から下は真っ白な濁り湯の中で、でも移動するときのわずかな上下であわや……。
(って、わざとじゃないよね!?)
本能が思わず見えるか見えないかの部分に向けてしまう視線を、レオナは前世も含めた理性を総動員して、エイルの顔に向ける。
テンパっているレオナは、エイルの表情に微かに悪戯っぽさが混じっていることになど、気付く余裕はもちろんなかった。
「に、任務って?」
「ちゃんと部下の身体を、隅々までじっくり目に焼き付けるのは、隊長の義務ってことですよ~」
「それ、どんな義務っ!?」
思わず立ち上がりかけ、レオナは一瞬の差で思い止まる。
危うく、隊員たちに自分の身体を隅々までじっくり目に焼き付けてもらう羽目に陥るところだった。
そんなレオナにエイルはニッコリと微笑みかけ、人差し指をピンと立てる。
「たとえば、敵の魔法で四散した部下の顔のない遺体を見つけ出して、ちゃんと連れ帰ろうと思ったら、全身の小さな特徴まで全部覚えておく必要があるじゃないですか」
「って、思ってたより重い話だった!」
「そりゃあ、命かけて戦う部隊ですからね~――ってことで、まずはわたしの特徴覚えてくださいね。例えば、左の乳輪の横のほくろなんですけど――」
「ヒトの目の前で、役立たずの脂肪を揺らすなっ!」
スパァンッ、と。
水面から全てを現そうとしたエイルの脂肪を、サイカが電光の速度で叩いた。
湯気の向こうで、エイルの脂肪が、大きく揺れる。
「いった~。サイカってば、いつにもまして、わたしの胸の扱いヒドくない?」
「千切り取られないだけありがたいと思え」
「痛いし、自分で治すの大変だからやめてよね~」
エイルは立ち上がって胸をかばうようにして一歩距離を取った。
(ど、どこまで本気なんだろう……)
エイルはかなり腕のいい治癒術士だ。
馬車の中で読んだ資料には、信じられないことまで書いてあった。
とはいえ、千切り取られて「痛いし、自分で治すの大変」で済むものなのだろうか。
(まあ、サイカに向けて、おさえてる腕でわざと挑発してみせてるし、たぶんふたりとも冗談なんだろうけど)
だが、サイカの次の言葉で、エイルの動きが止まった。
悪戯っぽく浮かべていた笑みがヒキッと凍りつく。
「安心しろ。やるときは、くっつける手間が省けるように、責任持って焼却処分してやる」
……どこまで本気なんだろう。
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