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第1章 メイドな日常の終わり

第17話 大事なことは、夜決まる

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「……なぜだ?」

 あっさりとノー不可を宣告するマリアに、ティアは問う。

「あれは事前にティア様が評価されていた通り――いや、それ以上の才能ちからを持っています。魔法を使えるというだけでも充分戦力になりますし、たとえ戦場に出るとしても無能とは縁遠い活躍ができるでしょう」

 ティアが二人へ事前に提示していた才能と技術を持っているということは、マリアも否定しない。それ以上だとすら評価している。
 だがしかしだからこそ、とマリアは続ける。

「これは半ば勘ですが、いざという時、あいつはわたしより早く的確に判断するでしょう――そんな下っ端がいると、本人がどう頑張っても、組織としてお互いやり難いだけですよ」

 もちろん、わたしも含めて――と、マリアは締めくくって再びジョッキをあおった。
 つまり下っ端に向いていないのだ、と。

「ほう、あの年齢としでか?」
「ええ。これも勘でしかないのですが……あいつはあの年齢にも関わらず、おそらく実戦経験がケタ外れています」

 ティアの表情は変わらない。
 ただ、じっとマリアの言葉を聞いていた。

「長年冒険者パーティのリーダーでもやってたのか、それとも一級の戦闘指揮者の下で経験を積んだのか――少なくとも、命のやり取りをする場での瞬時の判断は、わたしやサイカでは足元にも及びませんね」
「……なるほどな」

玄人プロフェッショナルってのは、これだから油断できん)

 レオナの過去のこと子供時代は、マリアたちにも話していない。
 それを、一日一緒にいただけで、嗅ぎ当ててしまう。

(――ま、程度に思っていたが、今回は運よくうまくいったようだ)

 ティアは、元々を考えていた。
 レオナをするには、しかないと。

 能力に見合わない地位に就けるのも、能力に見合った地位に就けないのも、どちらも本人のみならず、組織にとっても百害あって一利なしだ。
 それ百害のみを体現しているのが、家柄で出世が決まるこの州の官僚制度であり、その頂点トップにいるティアには、日々それを痛感している。

 だから、この想定していた中でそれ最善の結論へ至ろうとする話の流れに、ティアは内心ほくそ笑んでいた。
 最後に、マリアがを口にする。

「ということで、レオナがになるのであれば、隊に受け入れましょう。ただし――」

 表情も変えず「そうか」と重々しく承諾を与えようとしたティアだったが、マリアの言葉にはまだ続きがあった。
 内心の意外さを表に出さず、ティアは自身の言葉を飲み込んでそれ続きを聞く。

「ちょっとしたを付けさせていただきます」
「条件?」

 ティアは思わず聞き返す。
 いったいこの二人プロフェッショナルが、わざわざ何を求める?

 そこでマリアが、サイカに視線を送った。
 サイカが軽くうなずき、話を引き継ぐ。

「ええ、たいしたことではありません。わたくしとマリアで一致した意見なのですが――」

 しばらく黙ってその条件を聞いていたティアが、最後に破顔した。

「ハハハッ! なるほど。そっちの方がいいかもしれん」
「はい。あいつは、威厳や恐怖で部下を従えるにしては――可愛すぎます。おそらくこれまでも、力ずくで人を動かしていたわけではないでしょう」
「たしかにそうだな。いいだろう」

 それで決定だった。
 ただ、そうなると。

「隊長の予定だったお前はどうするんだ?」
「副隊長にでもしてもらいましょうか。隊長に必要なのは戦闘経験だけじゃない。まだ尻に殻が付いているヒヨッコレオナには、なにかとサポートが必要でしょう」

 レオナをで使うのであれば、たしかにマリアやサイカがそこ副隊長にいた方がいい。
 さすがのレオナも、を意識的にうまく使えるほど、人生経験はない。

「レオナが隊長で、マリアとサイカが副隊長か……」
「いえ、わたくしはレオナの副官として、彼女を支えることにします。副隊長はマリアだけで充分でしょう」
「なっ!?」

 サイカの言葉を聞いたマリアが驚きの声を上げた。
 副隊長は隊長に次ぐ権限を持つが、副官というのはただの役割で、委任されない限り特別な権限はない――マリアが驚くのも無理はないなと、ティアも内心驚いていた。
 まぁそれも、マリアが次に口を開くまでだったが。

「ちょっと待て。まさかお前、レオナを独り占めする気か?」

 ――ん?

「気づくのが遅いですよ、マリア。あなたはもう、副隊長を自ら選んだんです。作戦は班に分かれてそれぞれの役割を受け持つのが通常つねですから、副官のわたくしはいつも隊長のレオナと一緒。これからは、レオナ不在の現場で隊長の代行を頑張ってくださいね、副隊長♡」
「キサマ、作戦中もレオナとイチャつくつもりか!?」

 ――んん?

「作戦中だけじゃないですよ。どんなときも隊長のかたわらで補佐するのが副官の務めです。副隊長殿は、わたくしとレオナが仲良くしているのを、指をくわえて見ていてください」

 ニッコリ微笑むサイカに、マリアも微笑みを返す。
 そして、サイカの腰に手を回して引き寄せ、顔をグッと近づける。

「…………なあ、サイカ。副隊長と副官の肩書、交換しないか?」
「お断りします。レオナの副官の座は、もう永遠にわたくしのものです」
「おい、それはズル――」
「そこまでだ」

 なにやら妙な方向へ脱線しかかっている酔っ払い二人の会話を、ティアは制止した。

 後半は話の流れがおかしな方向へ進んでいたが、最初の結論自体レオナ隊長はティアも当初から望んでいたことだ。

「……いいだろう。レオナを隊長とする。副隊長はマリア。サイカはレオナの副官だ。だが、レオナが屋敷うちで使用人として働くために、急いで成人の儀をすませたような年齢としだということを忘れるな。隊長にするというなら、戦場の外も、お前たちでキッチリと支えろよ」
「お任せあれ。さっきも言った通り、そのための副隊長です」
「もちろんですっ。わたくしも、副官としてそれはもう、おはようベッドの中からおやすみベッドの中まで、レオナを見つめる、いえ、支え続けることを誓います!」
「……ちょっと待て」

 興奮気味に妙な宣言をするサイカに、ティアが待ったをかける。

「勘違いしているところ悪いが、レオナはこれまで通り私付きの使用人を続けてもらう。というか、そっちが本職だ。お前たちと同じく、隊としての行動は、訓練を含む作戦行動中のみだからな。副官としての役割は、そのときだけだぞ?」
「……では、一緒に食事したり、一緒にお風呂に入ったり、毎晩一緒に寝たりする副官の任務、は?」
「風呂に入ったり寝たりする任務など最初から、ない」
「そんな!」

 絶望の表情を見せるサイカに、ティアは心中で溜息を盛大にこぼした。
 こいつサイカはいったい、何を考えていたのか――いや、何を考えてのか。

「いえ……あの訓練所へうまく誘導すれば、せめて……」

 うつむいてブツブツと何やらつぶやき始めたサイカに、ティアは苦笑いを禁じ得ない。

あいつレオナは、見ているとなぜか無性に可愛がりたくなる、妙な可愛らしさがあるからなぁ――この分だと、あいつも色々と大変そうだ)

 それはティアの能力スキルとは何の関係もない、ただの予感だったが。
 もちろん――。

(まあ、それも人生経験……だな)

 その後、見事に的中することになる。
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