上 下
16 / 53
第1章 メイドな日常の終わり

第15話 部屋に帰るまでが、お仕事です

しおりを挟む
 ティアの執務室。
 レオナたち三人はなんとか閉まる前に州都レージュの城門を通り抜け、就寝前のティアの下へと無事辿り着き、メイド長の恐怖から脱することができていた。

「なるほど。ご苦労だった」

 執務机を挟んで三人からの報告を受け、ねぎらうティアの声は満足そうだった。

「…………」

 ジトー、っと。
 レオナが、そんなティアに視線を向けている。

 馬車の中で、サイカとマリアにマッサージを受けたレオナは、なんとか自分で歩けるほどに回復していた。

「ん? どうした、レオナ?」

 ティアは表情一つ変えず、レオナに声をかける。
 レオナの方は、ジト目をやめない。

「……騙しましたね」

 使用人メイドとして、マリアとサイカ使者の二人の世話をするために付いていけ――そう言われて行ってみれば。

 馬車の中では、マリアとサイカに猫かぬいぐるみの如く(いやそれ以上に)可愛がりに可愛がられてスキンシップ塗れにされた。
 しかも、それがマリアとサイカが今回の任務を引き受ける条件として、レオナの与り知らぬところで密約が結ばれていたという事実。

 おかげで、大人(の男である前世)のプライドが微妙に傷つくやらマリアとサイカはレオナの好みタイプで嬉し恥ずかしいやら仕事中にそう感じて受け入れてしまっている自分に気づいて若干哀しいやらでも今の年齢若さで本能に抗えるわけがないだろうと居直るものの自分はもう大人でさらに前世の大人の男としての記憶だってあるからプライドが微妙に傷つくやらマリアとサイカは美人で嬉し恥ずかしい……(以下略)。

「ははっ、まあ許せ」

 それを事前の想像通り、ティアは明るく笑って済ませようとする。
 レオナのジト目が消えるはずもなかった。

「ダメです。ここで許したら、また……」
「そう言うな。この二人が、道中レオナを可愛がれないなら、今回の任務を引き受けないと言い張ったんだ。立場の弱い私にはどうしようもなかったんだよ」
「あなた、ここで一番偉い人でしょうがっ」

 こんなことで許すものかとレオナが決意して机越しに詰め寄ると、ティアが仕方ないといった表情で不意に立ち上がった。
 執務机を回り込み、つかつかとレオナに近づいてくる。
 そして。

「全てを明かせずにいたことは詫びよう。だから許せ」

 レオナの頭を引き寄せ、自分の胸に抱え込むと、そう囁いた。

「~~~~~~~~~っ!!!」

 胸の谷間に埋もれて真っ赤な顔でジタバタするレオナだったが、ティアは離そうとはしない。
 マリアとサイカも、楽しそうに見ているだけで、助ける気はないらしかった。

 当然だろう。
 ティアは、レオナが逃げようとするのを無理矢理抑え込むほどには、力を入れていないのだから。

「さて」

 レオナがジト目に戻らない(戻る気力を奪われた)ことを確認してから、ようやくティアはレオナを離した。

「三人とも、大儀だった。今日はもう休むがいい」



   ■■■



(つ、疲れた……)

 ティアの私室へ戻って着替えさせた後、レオナはフラフラと疲労困憊のまま、自分の部屋へと戻る。

「おかえり、レオナ」

 部屋に入ると、いつもなら寝ているはずのアイシャ同僚がまだ起きていた。

「ただいま……待っててくれたんだ」
「そりゃ、レオナが強いのは知ってるけど、女の子がゴブリン討伐に行くなんて言って出ていったら、心配で寝てられないでしょ」
「ありがと。別に自分でゴブリンを退治してたわけじゃないから、大丈夫。使者の人に付いていってお世話しろって言われただけだから」

 ギリギリ嘘は言ってない。
 言ってない部分が言えない部分というだけだ。

「怪我とかなさそうで安心したけど――なんだかすっごく疲れてない? 大丈夫?」
「うん。ほんっとーっ、に疲れた……もう、寝る」
「ダメだよ!」

 メイド服のままベッドへ倒れこもうとするレオナを、アイシャは後ろから抱き着いて止める。

「え~……」

 小柄なレオナをギュッと抱え込み、レオナが倒れこむのを諦めて自分の足で立つことを確認してから、やっと離した。

「ちゃんと着替えてからでしょ。もうちょっと我慢しなさい!」

 アイシャは、勝手知ったるレオナの収納箱からあらかじめ取り出しておいた、きちんと畳まれた寝間着パジャマをベッドの端から拾い上げる。

「う~~……面倒メンドくさい」
「ダメ」

 ホワイトブリムを外され、メイド服を半ば強制的に脱がされ、寝間着に着替えさせられる。

「も……だめ……」

 半ば意識を飛ばした状態で、自分のベッドに倒れこむレオナ。
 そのベッドがちゃんと整えられていることに、気づいてもいない。

「明日は自分で起きられる? 起こそうか?」
「うん。お願い……明日はさすがに自信ない…………」
「はいはい。じゃあ明かり消すよ」
「うん……おやすみアイシャ…………」
「おやすみ、レオナ」

 髪をそっと撫でられ、額に優しく口づけされたことに気づくことなく、レオナは深い眠りに落ちていった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。 誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。 そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。 剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。 そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。 チートキタコレ! いや、錆びた鉄のような剣ですが ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。 不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。 凸凹コンビの珍道中。 お楽しみください。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

坊っちゃまの計画的犯行

あさとよる
恋愛
お仕置きセックスで処女喪失からの溺愛?そして独占欲丸出しで奪い合いの逆ハーレム♡見目麗しい榑林家の一卵性双子から寵愛を受けるこのメイド…何者? ※性的な描写が含まれます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クリ責めイド

めれこ
恋愛
----------  ご主人様は言いました。  「僕は、人が理性と欲求の狭間で翻弄される姿が見たいのだよ!」と。  ご主人様は私のクリトリスにテープでロータを固定して言いました。  「クリ責めイドである君には、この状態で広間の掃除をしてもらおう」と。  ご主人様は最低な変態野郎でした。 -----------  これは、あらゆる方法でクリ責めされてしまうメイド「クリ責めイド」が理性と欲求の狭間で翻弄されるお話。  恋愛要素は薄いかも知れません。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

シャルル変態伯のいとも淫靡なる生活 ~メイドハーレム~

寺田諒
恋愛
男が権力に任せていやらしいことばかりする小説です。 シャルル・マジ・ド・クズはとある辺境を治める領主であった。歳は二十の半ばにまで達していたが未だに妻を持たず、受け継いだ土地を一人で治めている。 有能にして有望なシャルルだが、彼にはひとつ困ったところがあった。彼の性欲は著しく高かったのだ。 今日もシャルルは屋敷のメイドたちを相手にいやらしい行為に勤しむ。この話はそんなシャルル変態伯の生活を描いた18禁の物語。

処理中です...