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第1章 メイドな日常の終わり
第8話 使者様は、メイドがお好き
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今、レオナはゴブリン討伐の野営地へ向かう馬車の中にいる。
この、華麗な装飾に彩られた二頭立て箱型四輪の馬車は、民間で使われている馬車とはサイズも乗り心地も全く違っていた。
なにしろ(これまた)ドワーフ謹製なので、見た目だけでなく内部構造も特別製なのだ。
人間の国の技術では想像すらされていない精巧なサスペンションその他なんかが当たり前のように装備されていて、揺れが大幅に軽減されている。
もちろん、座席はクッションもふかふか。
馬車といい、馬車の周囲を守る兵の数といい、トップクラスの待遇だった。
同乗者の二人も、非常に乗り心地よさそうにリラックスしている。
いや、小窓を閉めて外から見えなくなっているのをいいことに、リラックスし過ぎていた。
「あの、サイカ様。この馬車はそこまで狭くないと思うのですが……」
レオナは居心地悪そうにしながら、恐る恐る隣に声をかけてみる。
サイカは馬車に乗り込むとすぐ、当たり前のようにレオナを隣に座らせ、当たり前のようにぴったりとくっついて、レオナを愛で続けていた。
使者としての立場なので、サイカは近衛隊の鎧を着ていない。
つまり金属に隔てられることなく、服の布越しに身体の温もりを感じている状態。
さらに、この密着して初めて判る、微かに伝わってくる香水の匂い。
「そうですね。もっと狭くてもいいのに」
首に手を回してピッタリと抱き着き、レオナの髪に頬ずりしているサイカは、傍目から見て判るほど幸せそうだった。
まるで猫好きが猫を愛でているときのような、ハート形の幸せオーラを撒き散らしている。
レオナの頭の中では、執務室での初対面の凛としたサイカの印象が完全に吹き飛んでしまっていた。
ただ本人はそんな印象どうでもいいらしく、今度はレオナの膝に、そっと手を置いてくる。
「ちょ、あのっ……」
レオナは慌ててサイカの手を押さえる。
なんだか、スカートの中へ向かってじわりと移動してきたのだ。
「……♥」
サイカは手の動きを止めた代わりに、そのまま太ももを軽くきゅっと握る。
「~~~ッ!!」
レオナは予想外の刺激に、口から変な声が漏れそうになるのを必死でこらえた。
「あぁ、こんな可愛い子が、こんな細くてしなやかな足で戦って、大の男と渡り合えるなんて……」
「ちょ、そのこと誰から――って、決まってますね……」
レオナが戦えることを知っていて、この二人と面識がある人物など、限られている。
「剣も扱えるんだろう? 誰から教わったんだ?」
同じく情報を持っていたらしい目の前のマリアが、興味深そうに聞いてきた。
隠すほどのものでもないので、レオナは素直に答える。
「育ての母です」
「ほう。今の世で、剣を扱える女性が我々以外にいるとはな――もしや母君は近衛隊のご出身か?」
「いえ、そういうことはないと思います」
「そうか――しかし、我々の知らない女性の剣士がいたというのは興味深い。一度お会いしたいものだな」
「いえ、母は別に剣士とかそんなのではありませんから」
「そうなのか? 剣を一人前になるまで教えられるのであれば、それなりに修練を積んだ方だろう?」
「修練というか……あれは色々特別な人なので、なんというか……」
会話しながらも、レオナは視線で「それより隣の人をなんとかしてー」と、マリアに助けを求めてみる。
また、サイカの手が怪しく蠢き始めたのだ。
マリアは「判っている」とばかりに、小さく笑って頷いてくれた。
ほっとするレオナ。
「おい、サイカ。もう満足だろう――そろそろ替われ」
「ちがーうっ!」
マリアは初対面の時と変わらない態度と鋭い目ではあったが、もちろんレオナの中ではこの瞬間、当初の印象などダダ崩れとなった。
「ダメです。まだ、道のりの半分まで来てませんよ。前半は私のものだって、公平にコイントスで決めたことなんですから。ちゃんと守ってください」
(コイントスってなに!?)
「……しかたないな。半ばまで来たらちゃんと替われよ」
「あの、本人の意向は……?」
サイカに頬ずりされたまま、マリアに(無駄を承知で)聞いてみる。
「すまんな。あのトンデモ主に、面倒なことをやらされる代価だ。諦めてくれ」
いたずらっぽい笑みにウインクまでされて、レオナは諦めて全身の力を抜いた。
(わたしは、この二人を動かすエサにされたんかいっ!)
頭の中で、ティアが「まあ許せ」と軽く笑ってすませるイメージが浮かぶ。
帰ったらどんな嫌味を言ってやろう――と思ったが、そんな気はすぐに消え失せてしまった。
じつのところ、この状態はレオナにとっても、べつに悪いものではなかったりしたので。
(前世で生きてるときにも、こういう目に遭いたかったかも……)
はっきり言って、悪いものじゃないどころか――というのが正直なところだ。
お年頃のレオナに、こういう状況に平然と耐えろという方が無茶というもの。
ただ敢えて言えば。
ちょっと居心地の悪さを感じているとすれば。
(なんで、これが条件になるんだろ……解せぬ)
なぜこの二人が、自分ごときを面倒な役目を受けてまでして撫でまわしたいのか――レオナには、皆目見当がつかない。
これは仕方のないことだった。
前世の記憶に引きずられ、レオナの自己評価は今もかなり低い。
徹底的に、低い。
だから気づけなかった。
忘れていた。
転生して改めて人生をやり直した自身が獲得している『魅力』ステータス――その能力補正を。
この、華麗な装飾に彩られた二頭立て箱型四輪の馬車は、民間で使われている馬車とはサイズも乗り心地も全く違っていた。
なにしろ(これまた)ドワーフ謹製なので、見た目だけでなく内部構造も特別製なのだ。
人間の国の技術では想像すらされていない精巧なサスペンションその他なんかが当たり前のように装備されていて、揺れが大幅に軽減されている。
もちろん、座席はクッションもふかふか。
馬車といい、馬車の周囲を守る兵の数といい、トップクラスの待遇だった。
同乗者の二人も、非常に乗り心地よさそうにリラックスしている。
いや、小窓を閉めて外から見えなくなっているのをいいことに、リラックスし過ぎていた。
「あの、サイカ様。この馬車はそこまで狭くないと思うのですが……」
レオナは居心地悪そうにしながら、恐る恐る隣に声をかけてみる。
サイカは馬車に乗り込むとすぐ、当たり前のようにレオナを隣に座らせ、当たり前のようにぴったりとくっついて、レオナを愛で続けていた。
使者としての立場なので、サイカは近衛隊の鎧を着ていない。
つまり金属に隔てられることなく、服の布越しに身体の温もりを感じている状態。
さらに、この密着して初めて判る、微かに伝わってくる香水の匂い。
「そうですね。もっと狭くてもいいのに」
首に手を回してピッタリと抱き着き、レオナの髪に頬ずりしているサイカは、傍目から見て判るほど幸せそうだった。
まるで猫好きが猫を愛でているときのような、ハート形の幸せオーラを撒き散らしている。
レオナの頭の中では、執務室での初対面の凛としたサイカの印象が完全に吹き飛んでしまっていた。
ただ本人はそんな印象どうでもいいらしく、今度はレオナの膝に、そっと手を置いてくる。
「ちょ、あのっ……」
レオナは慌ててサイカの手を押さえる。
なんだか、スカートの中へ向かってじわりと移動してきたのだ。
「……♥」
サイカは手の動きを止めた代わりに、そのまま太ももを軽くきゅっと握る。
「~~~ッ!!」
レオナは予想外の刺激に、口から変な声が漏れそうになるのを必死でこらえた。
「あぁ、こんな可愛い子が、こんな細くてしなやかな足で戦って、大の男と渡り合えるなんて……」
「ちょ、そのこと誰から――って、決まってますね……」
レオナが戦えることを知っていて、この二人と面識がある人物など、限られている。
「剣も扱えるんだろう? 誰から教わったんだ?」
同じく情報を持っていたらしい目の前のマリアが、興味深そうに聞いてきた。
隠すほどのものでもないので、レオナは素直に答える。
「育ての母です」
「ほう。今の世で、剣を扱える女性が我々以外にいるとはな――もしや母君は近衛隊のご出身か?」
「いえ、そういうことはないと思います」
「そうか――しかし、我々の知らない女性の剣士がいたというのは興味深い。一度お会いしたいものだな」
「いえ、母は別に剣士とかそんなのではありませんから」
「そうなのか? 剣を一人前になるまで教えられるのであれば、それなりに修練を積んだ方だろう?」
「修練というか……あれは色々特別な人なので、なんというか……」
会話しながらも、レオナは視線で「それより隣の人をなんとかしてー」と、マリアに助けを求めてみる。
また、サイカの手が怪しく蠢き始めたのだ。
マリアは「判っている」とばかりに、小さく笑って頷いてくれた。
ほっとするレオナ。
「おい、サイカ。もう満足だろう――そろそろ替われ」
「ちがーうっ!」
マリアは初対面の時と変わらない態度と鋭い目ではあったが、もちろんレオナの中ではこの瞬間、当初の印象などダダ崩れとなった。
「ダメです。まだ、道のりの半分まで来てませんよ。前半は私のものだって、公平にコイントスで決めたことなんですから。ちゃんと守ってください」
(コイントスってなに!?)
「……しかたないな。半ばまで来たらちゃんと替われよ」
「あの、本人の意向は……?」
サイカに頬ずりされたまま、マリアに(無駄を承知で)聞いてみる。
「すまんな。あのトンデモ主に、面倒なことをやらされる代価だ。諦めてくれ」
いたずらっぽい笑みにウインクまでされて、レオナは諦めて全身の力を抜いた。
(わたしは、この二人を動かすエサにされたんかいっ!)
頭の中で、ティアが「まあ許せ」と軽く笑ってすませるイメージが浮かぶ。
帰ったらどんな嫌味を言ってやろう――と思ったが、そんな気はすぐに消え失せてしまった。
じつのところ、この状態はレオナにとっても、べつに悪いものではなかったりしたので。
(前世で生きてるときにも、こういう目に遭いたかったかも……)
はっきり言って、悪いものじゃないどころか――というのが正直なところだ。
お年頃のレオナに、こういう状況に平然と耐えろという方が無茶というもの。
ただ敢えて言えば。
ちょっと居心地の悪さを感じているとすれば。
(なんで、これが条件になるんだろ……解せぬ)
なぜこの二人が、自分ごときを面倒な役目を受けてまでして撫でまわしたいのか――レオナには、皆目見当がつかない。
これは仕方のないことだった。
前世の記憶に引きずられ、レオナの自己評価は今もかなり低い。
徹底的に、低い。
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