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極道と異世界転生

極道と異世界

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「まぁっ、あれだな、いい天気だなっ」

空は青く広がり、真っ白な雲が漂う。

その下に、一際高くそびえ立つ城。そして、城下に広がるのは、石造りの街並みに、石畳みの道。

街は、道行く人々で、賑わっている。

そんな中で、一人ポツンと立ち止まり、キョロキョロと、街を見回している巨漢。黒い上下のスーツに、白い襟付きシャツを着た大男。

異世界に転生して来た、極道の石動不動いするぎふどうだ。

二メートルを遥かに超える、それだけの身長がある人間は、この異世界でも珍しいらしく、服装と相まって、実によく目立つ。前世でも、よくバスケの選手と間違われていた。

「ここがっ、異世界ってとこかいっ」


街を見る限り、石造りの建物に、木の扉、所々には鉄が使われている。いくつかは、ガラスが使われている窓もあるようだ。

往来には、時折、馬車が通って来るので、おそらく、自動車は存在していない。

それが、この街をざっと見て分かる、文化レベル。

「まぁっ、あれだな、中世ヨーロッパ風ってやつだなっ」

ロクに学校へも行かず、まともに、勉強なんぞしたことがなかった石動には、これが、中世ヨーロッパのどの年代ぐらいに当たるのかは、まるで分からない。

「まぁっ、少なくとも、日本じゃあねえっ……」

はっきりと言えるのは、それぐらいのものだ。


一応、新米転生の女神アリエーネから、集団で、使い方のレクチャーを受けた、コンパネを開いて、マップを確認してみる。

ここは、この大陸における人間領、最大規模の国家、アロガエンス王国。その首都に当たる、王都エンダロウナ。

分かったのは、それだけたった。

「つっかえねえなあっ、こいつっ」

思わず、石動は、コンパネに文句を言った。

-

街に並ぶ露店では、様々な物が売られている。

食べ物や食材をはじめとして、衣服や装飾品、食器や家具、道具に、武具や防具なんてものまである。そのほとんどが、見た事もないような物ばかり。

これから、ここで生きて行くにあたり、一番心配されたのは、食べ物だったが、前世の世界とは、微妙に違う形の野菜、肉や魚。

ただ、サバイバル能力が、極めて高い石動からすれば、さほど問題は無さそうな範囲だった。要は、食えれば、なんでもいいのだ。


ぐぅぅぅぅぅっ

店先で焼かれている肉。漂って来る、その匂いを嗅いでいたら、どうにも、腹が減って来た。

「まぁっ、しかし、あれだな、よく考えると、金なんて持ってねえよなっ、今」

そう思うと、余計に腹が減って来る。

「あのクソあまっ、こういう時は、最初に、所持金ぐらい持たすもんだろっ、支度金とかよおっ」

「まったく、上の教育がなっちゃあいねえなっ」

今度は、転生の女神アリエーネと神々に、文句を言いはじめる。


「いっそ、店主をぶん殴って、食い物、盗むかっ?」

「まぁっ、それなら、金を盗んだほうが、はええわなっ」

もはや、犯罪行為での、問題解決しか頭にない。これが、勇者だというのだから、選抜した神々が、いろいろと、何かを間違えたとしか思えない。

-

「きゃあぁぁぁっ!!」

石動が、金を手に入れる方法を考えていると、どこかで、女の甲高い悲鳴が上がる。

「助けてえぇっ!!」

「だっ、誰か、子供をっ、子供を助けてくださいっ!!」

女の声に反応して、街の人々が声を上げる。

「人さらいだっ!!」

「子供がさらわれたぞっ!!」

石動が、声の方を振り返ると、確かに、子供を肩に担いだ男が、刃物を手にして、走ってこちらに向かって来る。

「おいおいっ、白昼堂々、こんな人混みの中で、人さらいかよっ」

それを見た石動は、ニヤリと笑う。

「まぁっ、どう考えても、治安悪めだな、こりゃっ」

刃物を手にしているため、街の男達も、迂闊には近寄れない。

「まぁっ、あれだな、俺には、おあつらえ向き、ちょうどいい感じなんじゃねえかなっ」

何が、ちょうどいいのかは、ちょっと、よく分からない。


人さらいの男が、石動の左横を、走り過ぎようとした瞬間。

「グエッ!!」

石動は、自らの長い腕を伸ばして、その大きな手のひらで、人さらいの顔面を、鷲掴みにした。

走っている最中に、強制的に急ブレーキをかけられた男は、少なくとも、首のむち打ち症は免れないだろう。

衝撃で、男が担いでいた子供が、地面に落下するところを、石動は、空いている右手で、その子の服をヒョイっとつまみ上げた。

顔面を鷲掴みにされた人さらいは、ぶらぶらと宙に浮いている。石動は、左腕一本で、楽々と、大の男を宙吊りにすることが出来る程の、腕力の持ち主。

宙吊りにしている人さらいの男を、石動は、そのまま、横に投げ捨てた。

石動にとっては、軽く投げただけのはずなのに、何故か、人さらいは、石造りの建物に、体をしたたかに打ちつけて、ピクリとも動かない。生死は不明。


この、力がすべてをねじ伏せる、異世界に転生した石動。

ぶん殴って、金を奪うのはギリセーフだが、人さらいが、子供をさらうのはアウト。

それが、この世界で、新たに生きて行く、石動の価値観。それは、あくまで、石動の個人的な判断基準に過ぎなかったが。


「本当に、本当に、ありがとうございます」

子供を助けてもらい、何度も深く頭を下げて、礼を言う母親。

まだ、泣きじゃくりながら、助けてもらった男の子も礼を言う。

「おじさん、ありがとうっ」

「おうっ」

「まぁっ、気をつけんだなっ」

礼を言う親子に背を向けて、去って行く石動。


ぐぅぅぅぅぅっ

しばらくしてから、再び、腹が鳴る。

そこで、石動は、金がなかったことを、思い出した。

「あぁっ、ちくしょうっ、助けた礼に、金よこせって、言っとくんだったなっ」
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