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魔法学校編

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 しかし、不自然な躊躇と沈黙は実質答えを与えてしまったようなものだった。

「いるのね」

 ミレーの言葉に、セツはまた回答に惑ってから、口を開いた。

「それを知ってどうするの。君はユーティアが見たいの。それとも、欲しいの」
「見てみたいとは思う。でも、話したくなさそうなところを無理に暴いてまでは望まない」

 なんともさっぱりとした物言いに、無意識に抱いていた緊張が解ける。

「ごめんね」
「なんで謝るの」
「いや、なんというか……花屋としてはお花が好きな子の要望は叶えてあげたいけれど、できない申し訳なさ……みたいな」
「お花が好き」

 静かな声が鸚鵡返しする。黄金の瞳が瞬かれる。

「私のこと?」
「え、うん」
「私は、お花が好きなの?」

 その言葉にセツは激しい既視感を覚えた——これ、ミレールートで主人公が何度か花をプレゼントした際に発生する、トゥルーエンドには欠かせないフラグとなるイベントのセリフでは。
 ミレーに花をプレゼントすると、無表情な顔がわずかに綻ぶ。システムとしても、他キャラに花を上げるよりも好感度の上昇率が高い。だが彼女自身にはその自覚がなく、主人公の指摘によって気づくのだ。両親に裏切られ、周囲に傷つけられ、心を閉ざし魔族を退治することだけが生きる意味だと思っていた自分の中にも何かを愛でる気持ちが残っていたのか、と。
 またうっかり花絡みのイベントを取ってしまったかもしれない。しかも今度は結構大事なやつだ。リヒトはミレールートに進んでいないからそこは問題ないだろうけれど……ただ、アリサ&ミレールートでも、ミレーへの贈り物に悩むアリサに花を提案した際に起こるイベントで似たようなシーンがある。
 アリサは照れからミレーに花を渡すだけ渡して逃げ去る。ミレーはその背を見送った後、アリサから貰った花をじっと見つめてわずかに表情を綻ばせる。そこで「ミレーはお花が好きなの? よかったね、好きなものがもらえて。今度アリサにお礼をしないと」と言う主人公に対し、ミレーは花とアリサ、それぞれへの興味を少し意識するようになる。

「えっと……花園にいると落ち着いたり、特定の花を見てみたいって思うのは、多分、そうなんじゃないかな……?」

 だがさすがにここまで踏み込んでおいて、「いや、それはちょっと分からないですね」と濁すのはかなり無理がある。イベントを奪わないようにするにはもう手遅れで、背に汗滲ませながら答えるセツをミレーはしばし見つめてから俯いた。

「そう」

(ごめん、アリサ)
 フラグに必須のイベントではないから大丈夫と信じたいが……心の中で平謝りを繰り返しているうちに、はたと閃きが降る。

「あ、あのさ」
「なに」
「俺の知り合いに、お花に興味がある子がいるんだ。ミレーと同じ学年の女の子で。よかったらその子と今度、うちの花屋に遊びに来ない?」

 ミレーはぱちりと瞳を瞬かせた。

「それって、アリサ・クライン?」
「えっ」

 ミレーの口から先にアリサの名前が出るとは思わなかった。

「どうして、知ってるの」
「最近よく図書室に来てはお花の本を読んでいるから」

 言われた瞬間、その姿が脳裏に浮かんだ。
 アリサの元来の性質は、花より団子、座学よりも実技を好む。そんな彼女が図書室に通い花の本を読んでいるのはミレーに関心があるからではないか。本当はミレー自身に話しかけに行きたいけれどその一歩が踏み出せない好きな相手にほど素直になれないツンデレな彼女は、ミレーが好む花の本を開きつつもミレーの方をちらちら窺っているに違いない。そういうところがかわいくて好きだと弟はよく言っていた。

「花屋には興味がある。でも、一緒にはいけない」
「えっ、どうして」

 魔族襲来の召集がかかるとき以外は図書室に籠りがちな彼女のことだから、花屋に訪れること自体を拒まれることはあるかもしれないとは思っていた。だが、まさかそこで引っ掛かるなんて。

「アリサと何かあったの?」

 アリサやリヒトの話だと、アリサはまだミレーとは接点を持っていないように聞こえたのだが。

「彼女は多分、私のことが嫌いだから」
「えっ!?」

 アリサの気持ちを知っている立場としてはあまりに衝撃の発言だった。つい上げてしまった驚愕の声は幸い演習の音に紛れて周囲に気にされることはなかった。

「な、なんで、そう思ったの?」
「私と目が合うと逸らすから」
「あああ……」

 おそらくセツの想像通り、アリサは花の本を開きつつも気になるミレーの方をちらちらと見ていたのだろう。そしてその視線が気になったミレーの反応が返ってきたとき、つい思いきり目を逸らしてしまっているのだ。その姿はありありと思い浮かんだ。
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