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第九章 ゴーレム、体を張る

第八十五話 ゴーレム、体を張る

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 ゆっくりとした歩みではあるが、その迫力に飲まれてはいけない。
 あいつは明らかにこっちに。蟻塚に向かって来ている。

 清蓮、テイツォ。避難を急がせてくれ。少し足止めしなきゃいけないらしい。

「分かりました!」
「にゃあ!」

 オレは坂道から外れて道から下へ落下し地面へ到着。

『ズシン……!』

 あ、これはドラゴンの足音ではなくオレの落下音です。地面割れました。

 巨大化!

 落下してきたオレに群がって来る蟻を無視してオレは巨大化!!
 お、前回使った時よりも大きくなれた!
 オレのサイズはエンシェントアースドラゴンの顔と同じくらいの、場所に腹がきてる。
 以前の村で亀と戦った時よりも2倍近い大きさになれた!

 念話は通じるか!? 止まってくれ!

『んあー? 邪魔だどおめぇ』

 少し待ってくれないか? 今人間を避難させているんだ。それが終わったら食っていいから!

『あの巣はうめーんだど? でもって蟻もいぐら食ってもおごられねえんだ』

 怒られない? えっと、食ってもいいから少し待ってくれ。

『食っていいんだろ? 食う食う!』

 だから待ってくれって!

『食う!食うー!』

 話聞けって! 少し待てって!

『待つ? 待つ…………待った! 食う!!』

 全然待ててねえ! また歩き出しやがった! くそっ!!

 オレは両手で肩? 前足の付け根? 顔の両脇を手で押さえて押し返そうとする。

 ぐあ、重え! 下がんねえ!

『邪魔すんなー……ガアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 雄たけびが上がり周りの蟻達と空を飛ぶ海龍がすくみ上る。おそらく巣から脱出中の人間達も動けなくなってるだろう。
 
『おお? おでの声に動じない? お前なんだ?』

 オレはゴーレムのシオだ。止まってくれ!

『シオ! おで、あれ食いたい! どげ!!』

 どかねえよ!

『どげ!』

 どかねえええええ!!!

『ぐわせろー!!!!』

 ジリジリとオレが後退される。くそ、重力魔法で重さを変えてもこれか! これ以上かけると手が上がんなくなるぞ!

『ぐぬぬぬぬ!!』

 ぐぎぎぎぎぎ!!

 ジリ……ジリ……と、オレが押し返されている。
 向こうも、地面を割って足を踏ん張り前に進もうと頭を摺り寄せて来る。
 まだ距離的な余裕はあるが、土俵際の相撲取りの気分だ。

リヴァイアサン! 見てないで手貸せ!

『今忙しい』

 食ってるだけじゃねえええええええかあああああああああああ!!

『冗談だ。だが、手は貸せん。ここはそやつの土地であり、我らは余所者。攻撃なんぞ仕掛けようものなら地龍と海龍の種族の存続を賭けた戦になりかねん』
『食わせろー!!』
『……』

 ……。

『たぶん』

 だよな!? こいつそんな考えて動いてないよな!?

『食わせろ!』

 ぐお! オレの腕を噛みやがった!

 ミシミシッ! とオレの腕から異音が発してパラパラと破片が地面へ落下する。

『ふぬー!』

 鼻息荒くオレの腕を食い破らんと牙を立てるドラゴン!
 オレもこいつも動きが遅いからなんか迫力が……や、お互いデカいから外側から見ればすごい迫力なんだろうけどね?

『お前硬いな! 食えないな!』

 食えないよ!? 何!? 食う気だったの!?

『おで! ここにメシ食いに来た! あれ? お前メシか?』

 今食えないって言ったよな!?

『お前硬い! お前食えない』

 足元見ろ足元、蟻がいっぱいいるぞ! こいつを食え。

『おお! メシだ! 食う食う』

 ドラゴンはオレの腕から口を離して蟻の方へ口を向け、空気を吸い込む要領で蟻を口の中に吸い込んでいく。

 バキュームカーか。

『うまうまうまうまうま』

 口一杯にアリを含んで幸せそうに租借するドラゴン。

 ほら、左側にも一杯いるぞ。

『おほー』

 喜びながら吸い込みを開始するドラゴン。蟻と一緒に折れた木々や大きめの岩なんかも一緒に吸い込んで……あ、海龍も流されてる。こいつは助けよう。
 尻尾を掴んで助けてあげると、小型サイズの海龍は慌てて離れていった。

『すまんな』

 いえいえ。

『蟻! もっと! もっと!』

 はいはい、今度は後ろ脚付近ね!

『むほー』

 バリバリと音を立てながら顔を緩めて蟻を食らうドラゴン。なんかイメージと大分違うんですけど!

『我らが腹一杯になることなどこういった機会以外ではないからな。別に食わなくてもいいが食える相手なら食いたいというのが正直なところだ』

 龍って食事いらないんだっけ?

『古き時代では必要であった。だが気に入った食物を根絶やしにするまで食い続ける奴が多くてな、神々より禁止されておる。蟻は数少ない食べてもいい種なのだ』

 絶滅って、穏やかじゃないね。

『分別のつかない連中が多くて困る。こやつはその筆頭だったな』

 あー、こいつはそんな感じだろうね。

『うむ。故に神々より食してよいと作られたのがこの蟻であり、この蟻が現れた時のみ我等は満腹になれるのだ』

 それにしても、こいつ明らかに体の容量以上に食ってる気がするんだけど。

『食い溜めだろう』

 そういうモノじゃないでしょう!?

『くいだめー!』

 聞いてたのかよ!

『シオ様。時間稼ぎ有難う御座いました! あとは我々が退避すれば完了です』

 お、ナイス! 思ったより早かったな。えーっと、アースドラゴン。右足にまた集まって来たぞ。

『おお! いただきまーす!』

 そいつら食い終わったら巣食べていいぞ! しっかりと噛んで食えよ!

『うまうま!』

 足元の蟻を処理させてる間にオレは巣に戻る。
 巨大化したまま作った土の通路には乗れなかったから清蓮達を手に乗せてこの場から離れる。
 少し時間が経つと、バリバリとアースドラゴンが巣に噛みかかっているのが見えた。続いて海龍達も巣に飛びついていく。遠目に見るとすごい光景だ。

『我等も食事が終わり次第帰るとする。今回の呼び出しは良かったぞ、ヒトよ。次こそは戦いの場に呼ぶがよい、この借りは必ず返そう』

 リヴァイアサンから一方的な念話が飛んできた。
 あいつらから見ると今回は、戦いの場ではなく食事の場だったようだ。

 思いのほか早く脱出が終わったな。

「手を貸していただいた方がいたので、一気に人々を移動させることが出来たのです」

 手を貸りた?

「おう、オレっちだよ」

 オレっち?

 声に振り向くとそこにはエルフの男が立っていた。

「よう、ご苦労さん。みんなもお疲れ様、今からサドラまでゲートを開くからゆっくり入ってくれ……『ゲート』」

 エルフの男が言うと、何もない空間から巨大な扉が現れた。

「この扉を使って一気に民衆を避難させたんです」

 なるほど。

「詳しい説明は向こうでな」

 男の軽い説明を聞いてオレ達は開かれた扉をくぐる。
 そこには、オレ達が最初に駆け付けた街が広がっていた。
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