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第九章 ゴーレム、体を張る

第八十三話 第三回、ゴーレム主催肉祭り

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 夜も明けて日が昇る。太陽が一番高い位置まで移動したころに、ゴートさんとアイが何人かの人間を引き連れて合流してきた。アイレインと柊二蔚も一緒か。

「シオ、紹介する。この街の代表とギルドマスターだ」
「ゴーレム様、この度は街の危機を救い有難うございました」

 うん。いかにも長老って感じの人だね。
 顔色は悪いけど、ここまで歩ける程度には元気な男性のご老人だ。

 あ、ちょっと待って。清蓮まだ寝てるしテイツォも爆睡中だ。

「念話なら私が使える。本当に助かった、有難う」

 背の高いハゲたおっさんが渋めの声で声をかけてきた。
 こっちがギルドマスターさんかな?

「接近にはすぐに気づけたが、数が数だ。奴らの方が足が速い為籠城するしかなかったんだが……間に合わなかった者たち、逃げ出そうとして奴らに捕まったり殺された者たちも多い」

 そうですか。アイレイン、お前の家族は?

「私の家族は……父は、どちらにもいませんでした。父は門兵でしたからおそらく」

 そっか。

「我々が無線で応援を呼んだが、撤退命令が出ただけだ。ムルマーの守衛隊には向こうで連絡をしてくれたが蟻相手では動かないらしい。龍種にコンタクトを取るそうだ」

 龍種って何回か名前が出て来てたけど、何なの? ギルマスさん知ってる?

「もちろんだ。蟻はいわゆる自然災害だ、自然災害には自然災害で対応する。分かりやすく言うと、蟻を龍に食わせる」

 龍が食うんだ?

「龍は成長するにつれて、自主的に食事を制限する。あいつらがみんな腹一杯メシを食おうとすると、その地域から食い物がなくなってしまうからな」
「そんな龍達が制限無く食べれる相手、それが蟻達だ……問題は龍種の位置によっては移動経路の街が踏みつぶされるし、今回のように都市に蟻が巣食ってるとその都市で龍が暴れまわる状態になるわけだ」

 ギルマスに続いてゴートさんも説明をしてくれた。

「お前も見ただろう?あのサイズの龍だよ」

 ああ、あれね。

「あれだ。どの大陸にもいるし、海にもいる」

 海にもいたね! ああ、そうか。あいつでもいいのか。

「今は街の人達で食事の準備を一斉にしている。それが終わって少し休んだらそれぞれ別の街や村に逃げるしかない……悔しいが仕方がない」

 そうか、追い返しただけじゃ意味ないのか。

「今回よりも数を揃えて来るだろうな。街の人々や家畜も連れて行かれているんだ、より繁殖するだろう」

 街の人々は連れて行かれたのか。

「そうだ。更なる犠牲を増やさない為に我々は一刻も早くこの場から去らねばならない。その為に君には、この場で時間稼ぎをしてもらいたい。彼の話によると、君はもっとまとめて蟻を駆除出来るという話だしな」

 オレはゴートに顔を向ける、ゴートは軽く首をすくめている。

 ん、断る。

「……ダメか。まあ仕方ないか、君はゴーレムだものな」

 清蓮、テイツォ。起きてくれ。

「シオ! なんでだ! 手を貸してやってくれよ!」

 アイはどうする? オレは出かけて来る。付いて来るか?

「オレはここの人達の為に残るに決まっている!」

 そうか、じゃあオレは蟻を追撃するよ。

「何?」

 清蓮、付いてきてくれ。連れ去られた人がいたら通訳をお願いしたい。通訳いないと助けた人たちが散り散りになっちゃうからな。危険だけど、守るから。

「分かりました、お任せ下さい」

 ゴートさんも頼む。あんたみたいな人がいると救助出来た人がいたら安心すると思う。
テイツォはどうする?

「にゃあ、あぶにゃいのは嫌にゃあ」

 そか、じゃあアイとお留守番だね。

「待ってくれシオ! どういうことだ!」

 前にもセルジアに言ったんだけどさ、オレって守る戦いなんて出来ないと思うんだよね。動き遅いし威力の高い攻撃は味方巻き込むし、特に今回は敵が細かいから守ろうとしたら味方を巻き込んじゃう。とてもじゃないけど守りながら戦うなんて無理だ。

「それはそうかもしれないが」

 だから攻める。ここでチマチマ敵を削るくらいならオレから行く。生き残ってる人がいるなら助ける。大丈夫、策ならある。
 蟻達が向かった先に町や村はあるか?

「3つあります、ですが生存は絶望的かと」

……わかった、出来るだけの事はするよ。

「シオ、人手が足りん。各町で生き残りがいた場合はオレ達だけじゃ無理だ」
「……それならこの街に根付いていない冒険者で、気骨のある人間に雄姿を募るしかないな。まったく、ギルドの金がなくなっちまうぜ」

 ゴートさんに続いてギルマスが呟く。冒険者ギルドで動いてくれるらしい。

「シオ、自分も連れてってくれ」
「私も行く。父が生きているかもしれないし、頼む」

 アイ、酔うけど我慢しろよ?

「……善処するよ」
「にゃ!にゃらにゃーも行くにゃ!」

 テイ、危ないぞ? いいのか?

「アイもゴートもいなくなったらにゃーもあぶにゃいにゃ! こんな状況の街でうら若き乙女一人にするにゃんて信じられにゃいにゃ」

 それもそうか。

「ここの街と同じように蟻達は先々の街を拠点にしているのではないか? そこを解放するとなると、先ほどと同じような手を使うのか?」

 基本はそうだけど、連れ去られた人たちの事を考えると時間はかけられないな。まだ生きているかはわからないけど、遅くなれば遅くなるほど生存は絶望的だし。

「今更ながら賢いゴーレムだな」

 そりゃどうも。冒険者ギルド側の準備はどのくらいで終わる?

「夕方までには結論を出したいな、だが数は期待しないでくれ。蟻を追い出して今はみんな落ち着いているが、我々は一度負けている。満足な食事も出来ていないから士気も低いだろう」

 あくまでも救助した人間を送り届ける役だから、集団の蟻との戦闘は無いはずだよ。その辺を上手く説明して。

「そうだな、蟻の攻勢で付近の魔物も食われたか逃げ出すかしているはずだ。逸れた蟻との戦闘があるかもしれないが……」

 あまり数は出ない様にしておくよ。

「頼む」

 夕方までオレは先に進んでることにするよ。蟻が向かって来てたら厄介だからね。
 アイ達は夕方に冒険者連中と出発してくれ。それまでは適当に時間を潰してくれて構わない。

「わかった。オレは付近の逸れ蟻の討伐をする」
「わたくしもそちらに付き合いましょう」
「にゃーも行くにゃ」
「オレは冒険者ギルドにいこう。ギルマスに付き合って人を集める、それと役立たずも振るい落とさなければな」
「助かる、だが問題は食事だ。街の連中から取り上げる訳にもいかないし籠城していたせいで……」

 肉でよければあるぞ? 使うか?

「それは助かるが……人数がかなり多いぞ? 足りないだろ?」

 多分大丈夫だろ。

 オレは魔法の袋から出してなかったミドガルズオムズを頭……は潰れててグロいから尻尾だけ出した。

「うお!」
「ひっ!」
「うわわっ!」

 そうだよね、びっくりするよね。

 再度しまう。

 このサイズだから下手な場所には出せないんだけどね。街の人達が炊き出ししているところで出して冒険者達に解体させれば全員分行き渡るんじゃないかな?

「く、食えるのか?」

 前にゴートさんが調理させてたから大丈夫だと思うよ?

「そうだな、しかしまだ持っていたのか」

 うん。最後の一匹だけどね。

「少し歯ごたえが強いから年寄りには煮込んだものを提供するべきだな」
「こいつは旨いにゃ! すぐ食うにゃ!」

 はいはい。じゃあ持っていこうかね。



 移動した先で、怪訝な視線を受けながら炊き出ししている人たちのところに。
 しかし調理するにも竈もお鍋も足りない事に気づいた。
 オレは土の魔法で地面を隆起させると、古い家屋に置いてあるような竈を作る。
 
 少し大きすぎるな。

 炊き出しをしているのは女性達だ。これじゃあ使いにくそうだ……小さく、小さく。出来た!

 えーっと、次は―お鍋だ!
 鉄…鉄か!鉄なんて持ってたっけ……あった。

 グランフォール城の宝物庫からパクったままだった武具を何個か出して、竈のサイズに合ったお鍋を作成。これも土属性というか金属の形を変化させる魔法でつぶしたりくっつけたりして作成した。

 すっかり忘れてたけど、返すべきだったよねコレ。まあ今役に立ったから結果オーライだけど。

 グランフォールで大量の魔石を取り込んだ時に使えるようになった魔法だ。
 ついでに大きな鉄板も用意してバーベキューの時に使うような脚付きのコンロも作った。
 近くの家の横にあった木の樽も念動で動かして魔法で水を作って入れておく。
 何個か水漏れしていたので困ったら、何をしようとしていたか分かったのか街の人達が持ってきてくれた。
 オレの事を怖がってたから少し距離を置いたところに置いたが、まあ有難いので貰っておく。
 調味料なんて素敵な物は持っていないから味は保証出来ないが、とりあえず準備完了だ。
 と、思ったら薪が無かった。
 倒壊した木造の家を掴んで木片にして軽く魔法で乾燥させた。この家の中に薪があったため、この薪を参考にして同じくらいのサイズにちぎったりして作った物だ。

 ……倒壊しているとはいえ家を破壊した時にはきっちり悲鳴も貰ったが気にしない方向でいこう、うん。

「見ているだけの人達に声をかけてきますね? それぞれの手持ちの物を分けてもらいましょう。商店にも薪が残っているはずですからそういったところからも持ってこさせますね」

 さすが清蓮。

「いえいえ、他に必要な物があれば用意させますよ?」

 ざっくり肉を用意するからお皿とか用意してって言えばいいんじゃない?

「畏まりました」
「おお、ずいぶんと準備万端じゃないか」

 オレの作業中にゴート達がたくさん人を連れてきた。冒険者達だ。
 さっそく巨大な蛇を取り出す。

 ……うん、悲鳴だよね。

「このサイズじゃ解体するのに時間がかかっちまうな、野郎ども!気合入れろ!」
「「「「おお! 」」」」

 確かに大変だな。

 オレは某兄弟から貰った大剣を取り出して何度も切り付けて輪切りをいくつも作っていった。
 返り血を大量に浴びたさ、しかも切りにくいし。

「血抜きをしてないから当然だな」

 ゴートが笑いながら教えてくれた。ああ、だから血抜きって必要なんだね! 賢くなったよ!

 電車サイズの蛇の輪切りを大量に作ってからがまた大変だった。
 冒険者達はそこから鱗の部分をはぎ取って、それでも巨大な肉の塊をステーキをサイズに切り分けていく。
 街の人達からも多くの人間が手伝いを買って出てくれた。オレが用意したお鍋や鉄板に火が付き始めた。
 こうした作業が進むと活気が満ちて来る。お肉を焼き始めると、その匂いを嗅いだ人たちから歓声が上がった。

「最初の一切れは・・・同胞達に」
「「「「「同胞達に!」」」」」

 ギルドマスターは号令をかけると、街の人達も冒険者達も食事を始めた。
 調理に付いてる人や配膳をする人もいるから、一斉に食事を始める訳ではなかった。
それでも辺りには肉の焼ける音と食事の為に食器が鳴る音が支配し、話し声が一瞬止んだ。
 すすり泣く声から始まり生きていた事を喜ぶ声、今後どうなるかと不安になる声が徐々に出始めてそこかしこから話し声が生まれる。
 冒険者達は酒こそ飲んでいないが、軽い宴会状態へと移行していく。

「街中の細かい食料も蟻達が根こそぎ持って行ったんだ。葉物はダメになってるものが多いし、保存食は味が良くないから助かった。ありがとう」

 街の代表の人から礼を言われると、気が付くと色々な人たちに囲まれた。
 みんなにお礼を言われた。こそばゆい。

「シオ様も皆様に喜んでいただいて満足なされていますよ」

 清蓮が通訳してくれたら、一部の街の人達や年配の冒険者達がオレに祈りを捧げだした!
 
 止めて! 子供たちが真似するでしょ! あ、真似してる! またこのパターンかよ!

 丁寧にお礼してくる街の人達や冒険者達から何とか逃げて、オレは仲間達と街から出る。

 じゃあ行ってくるわ。車はオレがいないと走らないだろうから持ってくよ。

「おう、また後でな」
「お気を付けください」
「道を間違えるにゃよ!」

 わかってるよ。それじゃあな。
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