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第九章 ゴーレム、体を張る

第八十一話 ゴーレム様のお通りだい!

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 街に近づくと、蟻がオレに群がってきた。
 まだ街に入ってすらいないのに、そりゃあもうすごい数がオレの周りに群がって来たよ。
 蟻は黒いし、明かりが月明りくらいしかないから何匹いるのか見当もつかない!
 でもオレは歩みを止めることなく、その正面に向きあう。
 先頭の蟻に拳を叩き込む。
 蟻の顔が潰れて、オレの前でその蟻が倒れ込む。
 それを確認する間も惜しい、次の蟻の顎を掴んで持ち上げて振り回し周りの蟻達を吹き飛ばす!
 顎が割れて、オレの手から蟻がすっぽ抜けて行った。
 やっぱり動いている物にならなんにでも攻撃をしてくるのかな?
 敵が群がってるうちにまとめて倒したいな。

 アイスワールド。

 オレを中心に半径30メートルくらいの地面を一気に凍り付かせて、更にその範囲内にいる生き物を瞬間的に凍らせる。
 以前ホブさんことオーガにかました魔法の手加減無しバージョンだ。
 蟻達は一瞬にして凍り付き、走り込んできた勢いのままオレの体にぶつかり粉々に砕ける。
 少し周りが片付いたな。
 更に前進して、蟻の注意を集める。
 
 ゴーレム様のお通りだい!

 お、司令蟻が出てきた。そして銃声と共に倒れた。
 自衛隊の皆さんのお仕事ですね。いい仕事だ。

 オレは樹海にいた頃に拾った謎の鳥の生物の死体を地面に置いた。

 おお、群がる群がる。
 いいねいいね、集まれ集まれ~。

 アイスワールド!

 よし、これでも街の中まですんなり入れるようになったぞ。
 あ、すぐに入口に群がってきた。

 むう、面倒だがこのままいくか?
 でも死体ストックもあんまり無いしどうするかな。
 よし、聞いてみるか。

 清蓮聞こえる?

『はい、シオ様』

 アイレインさんに入り口付近に木造の建物があるか聞いてもらっていい?

『かしこまりました……門に入った近くに木の柵が設置されていますが、木造の建物が出てくるのはもっと内側だそうです』

 了解、じゃあ多少火力高めで撃っても問題ないよね。

『門兵の詰め所が近くにあるだけなので大丈夫だそうです』

 よし、オレは大きな扉の壊れた入口から、群がって来ている蟻達に向かって火力を上げた火炎放射の魔法を打ち込んだ。

 フレアバーナー!

 蟻達が一気に焼失していく。
 街を囲む高い壁からも降りて来てるな。
 白い石で出来てるのにあいつら入れるんだ?

『蟻達は魔石が生まれる程魔素の高い生き物ではないそうです。魔物ではなく本当に大きいだけの虫だそうです』

 なるほどね。
 だから街の中に簡単に入って来るんだ。

 オレは炎を左右に振って、壁から降りて来る蟻にも炎の魔法をお見舞いする。
 目に見える範囲の蟻が綺麗になった、ようやく門から街の中に入れる。

 今のところ人間の生命反応どころか、家畜の反応も探知されない。
 街に入ると、3匹の司令蟻が率いる蟻の軍団が待ち構えていた。
 街の周りの壁が高いからここからは狙撃支援が受けれない。

「ゲギャ! ゲギャギャギャギャ!」

 蟻人族は喋れるらしい。何言ってるか分かんないけど。
 理解出来ないからどうするかな。

 凍らせるか。

 オレは虚空から『クラーケン』を取り出すと、そこからゆっくりと水を大量に生み出した。
 探知魔法で人がいない範囲内、すべてに水が行き渡るまで少し我慢だ。

「ゲギャ? ゲギャギャギャギャ! ゲギャ!」

 何言ってるかわかんないけど、警戒されてるような気配はしっかり伝わる。

 アイスワールド!

 水が広がった範囲内すべてが凍り付いた!
 やべえ! 思ったよりこの方法あぶねえ!

 水に足が漬かっていた蟻達とその上に乗っていた蟻人族が3匹丸ごと凍り付いた。そしてゆっくりと崩れていった。
 ついでにオレも凍り付いた。ちくしょう。
 流石に屋根の上にいた蟻達は無事だけど、寒い空気が周りに満ちてるから蟻達の動きが鈍くなっている。
 
 ……虫だもんね、寒さに弱いよね。一応メンバーに知らせておこう。

 清蓮、テイツォ。聞こえる?

『聞こえるにゃ! 寒いにゃ!』
『大丈夫です。しかしずいぶんと無茶な魔法をお使いになられましたね、とてもじゃないですが近づけません』

 あ、ごめん。先に進んでるわ。

『自衛隊のメンバーから伝令です。塀の上に上がるのでそれまで敵を近づけない様にして欲しいそうです。それとせっかく見つけた保護対象に死なれては困るから程ほどにして欲しいそうです』

 うん、適当に謝っておいて。

『にゃ! ずるいにゃ!』

 よろしくー。

 オレは更に前進を進める。
 結構大きな街だな。蟻達の体当たりで穴が開いてたり、半分くらい崩れてる家があるが一軒一軒の家々が大きく元々は綺麗だったと思われる街並みが想像出来る。
 この光景はグランフォールでも目にしたものだ、心が痛む。

 散発的に蟻は襲ってくるし、数は当然多い。
 周りの建物が崩れるのはしょうがないとして、木造建築が増えてきているから火の魔法は使えない。
 氷魔法メインでいくか。

 氷結の槍!

 タコさんと戦う時と違って貫通させても問題ないくらい敵が集まってるんだぜ!

 そーらよっと!

 オレは氷の槍を目の前の蟻に向かって投げ込むと、その槍は蟻を3匹程貫通させてその3匹を凍り付かせた。
 オレは凍り付いた敵を蹴り壊して、思った程貫通出来なかった武器の使用を取りやめる。

 氷結の棒!

 うん、名前は後で考えよう。

 氷結の槍と同じ性能を持たせた氷の棒を振り回して、小突いた蟻を凍り付かせながら先に進む。

 思ったより便利だ!

 手で掴むより広い範囲が殴れるし、当たった先から凍らせて動きを止めれるのでわざわざトドメをささないでも済む。

 しかし暴れすぎたか? 向かってくる蟻が減ってきた。

 オレは再度密林で拾った謎の鳥の死体を、魔法の袋から取り出して地面に落とす。

 ワラワラワラワラワラ!

 来た来た。殴れ殴れ。

 さっきと違って蟻が近づいて来たところを氷結の棒で殴ればいいから、死体をダメにしないで済む。って多すぎ! 餌持ってかないで! 処理しきれない! 視界が埋まる!
 
 凍った蟻が処理しきれず、オレの周りが凍った蟻で埋め尽くされていく!オレも凍る!オレも凍るって!

 仕方ないから氷の武器を一度解除して、出した餌を放置してその場から離れようとする。

 凍ってない蟻さんがまだいっぱい!

 ちぎっては投げしても手が足りなそうだ。
 
 オレは魔法の袋から、この間のゴーフェスの時にドワーフ兄弟から貰ったままの大型の剣を取り出して振り回した。

 うへ、意外と切れ味がいい!

 さっきの氷の棒と違ってトドメは刺せない時があるけど、長いリーチと敵に当たっても止まらないこの武器は使い回しがいい!
 いいもの貰ってた! しかも敵が多いから適当に振り回してるだけで当たる!

 オレはさっき放置した餌に群がっている敵を上からザクザクと切り殺しまくった。
 大分減らしたな。

 その時、オレの探知に人の反応が現れた。

 左に方向を切り替える。
 結構数がいる。避難所的な物があるのか?

 オレはそちらに足を向ける。
 視線の先には大きめの建物、大きな看板と大きな扉が特徴的な木造の建物だ。
 建物の周りには蟻が群がっている。だが見えない壁で阻まれているため蟻達が近付けないようだ。

 結界か。

 近くの蟻の首根っこを掴んで引きちぎりつつ、剣を振り回して道を切り開く。
 結界の内側から人間がこちらの様子を伺っている! やべえ! しゃべれねえ!

 清蓮! テイツォ! 生存者発見! 門に入って真っすぐの大通りの左側に入ったところだ!
 探知魔法の関係からして、200人近くいる!

『分かりました、伝えます!』
『にゃあ。200人も守りきれにゃいにゃ』
 
 それもそうか、オレ達5人に自衛官が12人。それとアイレインの合計が18人しかいないんだ。

『シオ様、ゴートさんから伝言です』

 はいはい?

『近くに司令蟻がいるなら、それを倒さずに周りの蟻を徹底的に倒せだそうです』

 ほうほう?。

『司令蟻が逃げ出したら追いかけ回せとのことです。他の司令蟻と合流すると思われますとのことです、場合によっては退却まで追い込めるかも知れません!』

 了解! 自衛官達に狙撃は控えるように伝えてくれ!

『アイさんが伝えています。アイレインさんの話ではその建物は冒険者ギルドだそうです、上手くいけば戦力が増えるかも知れませんね!』

 それは心強いけど、弱い奴は逆に邪魔だな。
 とりあえずここの建物の攻撃を指揮してる蟻がいるか探すか。
 探知で蟻の上にいる人間サイズの奴を見つければ簡単だ。

 念のため冒険者ギルドの連中が外に出てこれない様に結界に沿って、地面を魔法で隆起させて壁を作り上げる。これで無理に出て来る奴が出ないことを祈るしかないな。

 とかやってる内に見つけた。
 とりあえず追い回すか。足あんま早くないけど。

 「ゲギャ! ゲギャギャギャギャ! ゲギャー!」

 うん。とりあえずオレに働き蟻達を差し向ける指示だっていうのは伝わったぞ。
 だって敵の手がこっち向いた瞬間にオレに蟻が殺到してきてるんだもん!
 
 アイスワールド!

 巻き込んじゃうと行けないから規模を小さくして発動。
 オレの周りの蟻達が悉く凍り付いて崩れていく。

「ゲギャギャギャギャ! ゲギャ! ゲギャー!」

 叫んでるのか話しかけて来てるのかわかんないなー。念話効かないかな?

「ゲギャ? ゲギャギャ?? ゲギャ!」

 あ、感情くらい読み取れそうだ。
 逃げれば殺さないよ?

「ゲギャギャ? ゲギャ!」

 や、だから逃げろって。

「ゲギャギャギャギャ! ゲギャギャ! ゲギャーギャ!ゲギャ!」

 だーかーら! 逃げろって言ってるんでしょ。

「ゲギャギャギャギャ!」

 ……ギガントグラビティロケットパーンチ!

 未知との交信は失敗したが、オレのロケットパンチの威力は伝わったようだ。
 オレの腕から切り離された腕は、みるみる巨大化しながら周りの雑魚蟻を巻き込んで蟻人族の右側を通過する。
 通過するころには一軒家くらいのサイズの拳になって背後の建物ごと周りの蟻を押しつぶしていった。

蟻人族の右手側の蟻をまとめて削ってやったさ。後ろの建物も壊れちゃったけど、尊い犠牲ってことで勘弁してください。

「・・・・ゲギャ?」

 巨大化したオレの腕の通った後とオレの事を、蟻人族と周りの蟻が交互に見比べている。
 目があった気がしたので、外していないもう片方の腕を蟻人族に向ける。

「ゲギャー!」

 おっけ! 逃げだした!
 オレは飛ばした腕を回収すると、再び腕に取り付けて蟻人族の司令蟻を追いかけるのであった。
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