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第七章 ゴーレムと鯨と海底の都

第六十七話 ゴーレム、クラーケンになる

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 まばゆい光が上から放たれると、そこから水滴が一粒落ちてくる、その水滴の中には青白い髪の若い男がいた。

「やったなシオ!」

 あ?え?その声まさか?

「そうだ!オレ様だ」

 やっぱセルジアか!人化の魔法か!教えてくれ!

「これは教わる種類の魔法じゃないぞ?自分で編み出すタイプの魔法だ」

 おお、ってことはオレも人間に!

「生物じゃないとたぶん無理だと思うぞ」

 まじかー。

「それよりも、やったな!やってくれたなてめえ!オレ様の獲物横取りしやがって!しかも無傷かよ」

 や、治っただけだ。腕とかヒビ割れてたし。

「ほんとか!?大丈夫なのか!?」

 あ、うん。もうこの通り。

「シオはやっぱすげえな。オレの見込んだ通りの男だ!」

 調子がいい事言いがって。外の海獣は片付いたのか?

「ああ、美味かったり不味かったりだな」

 食ったんかい。

「その方が早い」

 お前も大概だな。

「そう言うなって。さて、クラーケンをどうするかだな」

 その前にお前の身内を解放しないと。

「それに関しては問題無いみたいだぜ?首輪はみんな外れたみたいだ」

 え?

「・・・それは、カースロード将軍が死んだからである」

 オレの腕に掴まれたままのクラーケンが声を出した。
 気が付いてたのか。

「ええ、しかし・・・けほ。とんでもないな汝は、エラと肺も焼かれたようである」

 お前が速すぎるんだよ。おかげで捕まえるにはああいう手しか思いつかなかった。で、カースロード将軍って?

「汝がへし折って潰した魔族の男である。奴が首輪の最上命令権を持つ魔晶石の持ち主であった、きっと奴を押しつぶした時に一緒に破壊されたのであろう。命令権が無くなれば皆自由なのである」

「あの、雷鯨様・・・クラーケン様を治療させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 突然降った声にオレとセルジア、それと地面に転がったクラーケンの顔がそちらに向く。そこには今まで奴隷になっていたであろう海人族と人魚達が大勢いた。

「よろしいって・・・どうする?」

 や、お前が決めろよ。

「捕まえたのお前じゃんか」

 現在進行形で捕まえてあるから逃げられないよ。

「それなら・・・でも。お前らはいいのか?」
「はい。先代のクラーケンから今のクラーケン様に3年前に代替わりしてから、我々の待遇はかなり良くして頂けていましたから」
「そうなんだ?」
 
 意外な事実だね。

「吾輩は大したことしてないのである」
「・・・・・以前のクラーケンのころは多くの仲間が犯され、殺され・・・怪我や治療も受けられず食事にもありつけない状況でした」
「その状況を変えて下さったのが今代のクラーケン様です。我々に衣食住の自由を与えられ、最低限の生活を保障してくれました。これだけの仲間が生きてこれたのはクラーケン様のおかげです」
「何故か、聞いていいか?」

 セルジアがクラーケンの顔を見ている。
 他の人魚や海人族達もだ。

「吾輩は、このサンシャインパールに憧れていたのである。吾輩に限らず、水魔族の者達は皆ここに憧れを抱いていたのである・・・遠目から眺めていて、とてもきれいな場所であった。美しく、平和で・・・誰もが笑顔で生活をしている。素晴らしい場所だと思っていたのである」

 地面に転がってオレの手に掴まれたまま、クラーケンは静かに語り出した。
 あれ?オレがなんか台無しにしてないか?この雰囲気。

「5年前・・・ここを今代の魔王が襲撃しそれに乗じて先代のクラーケンが制圧したと聞き、吾輩は意気込んで海都に来た。だがここは下品な輩が闊歩し、強大で壮大な外郭も小さく輝きも失っていたのである。吾輩の好きだったサンシャインパールではなくなっていたのである。吾輩は当時から強く、魔法にも長けていた。長になればこの状況を何とかできると必死に戦いクラーケンの名を襲名したのである」

 クラーケンの言葉に、周りの者達が息をのむ。
 その言葉を受けて、セルジアが自らクラーケンに治癒魔法をかけ始めた。

「治療、かたじけない・・・クラーケンとなり、元の美しいサンシャインパールを取り戻そうと多くの人魚や海人族を集めさせた。無理矢理な方法だとは思ったが、魔王の弟君がここにはいた。奴の怒りを買えば、再び魔王がこの地に舞い降りるかもしれない。そう思い現状を打破出来なかったのである。吾輩は様々な手を使い、なんとかセルジア様にここの現状を伝えようとした。そうすればセルジア様がここを再び元の住人の手に戻し、美しい海都サンシャインパールを取り戻してくれると・・・そう思ったからである」

クラーケン・・・・そうか。
あれ?でもなんでセルジアに喧嘩を売る様な事を?

「武人たるもの、強者に挑みたいと思うのは仕方のない事なのである」
 
 ああそうですか。
 オレはクラーケンの拘束を解いて、腕を魔法の袋に戻した。

「吾輩を自由にしていいのであるか?」

 いいだろ。暴れるんならまたとっ捕まえるだけだしな。

「そうだな。オレ様の身内を救ってくれようとしたんなら、オレ様も特に言うことはねえ。身内が世話になったみたいだなクラーケン」
「吾輩はもう、クラーケンでは無くなったのである」
「え?」

 クラーケンはおもむろに右手を前に出して、集中した。
 何を?

「やはり、『海槍クラーケン』は新たな持ち主のところに行ったようである。吾輩はもう、クラーケンとは名乗れないのである」
「『海槍クラーケン』深海の力を凝縮させたと言われる最上の槍か」
「そうである。生ける伝説。神の鍛冶屋とも言われるレベッカ=ダンゲの作った救国の槍!この世のありとあらゆる海を支配できる可能性を持った最強の槍である」

 あの槍そんなすごい武器だったんだ?でもオレの腕に突き刺さるほどの威力だもんね。ゴートさんの一撃より重かったんじゃないかな。そんな危険な槍がどっかにいっちまったのか?危ないな。

「で、次のクラーケンは?」
「そこのゴーレムであるな」

・・・・・は?

「まあ気持ちは分かるである。吾輩の時もそうであった故」

 クラーケンて烏賊じゃねえの!?

「吾輩も烏賊ではないのである、でもクラーケンを名乗っていたのだ。本名は水蓮という。クラーケンは初代水魔族の長のことである。300年前の功績からレベッカ=ダンケ様に願い、一族の繁栄の為に己の肉体を武器と化したと言われているのであるな」

 その槍がオレの手元に?持ってねえよ。

「吾輩の持っていた槍をイメージしてみるがよい。汝の前に姿を現すである」

 うん。うあ。出た。
 しかもオレの体に合わせてサイズも大きくなっているサービス付きだった。

「7代目クラーケン様、水魔族は貴方様について行きます」

 ちょっ、やめて!跪かないで!
 
「頑張れよ、クラーケン様」

 ニヤニヤしながらセルジアがこちらを・・・くそ、こいつ絶対楽しんでやがる。
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