青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

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第四章【青の月の章】時を越えて

第81話「一緒に、戦っていこう」

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――バタバタと扉の向こう側から慌ただしい足音がした。

バァンと激しく扉が開かれ、その先には目をキラッキラに輝かせた薫がいた。

「適合です! というか僕には説明できない領域でした!」

鼻の穴を大きく膨らませ、息を荒くしている。

メガネがずれたのですぐに直し、薫は肩にさげたショルダーバッグから血液の入ったパックを取り出した。

朝に採った私と彼の血だ。

理論はともかく、不可能だと思われていたことが突破出来たと私は立ち上がり、歓びのまま薫に抱きついた。

「ありがとう、薫さん! ありがとう!」
「あ、あ、あ……と。離してください……。後ろ、後ろが怖いです!」

あ、と距離をとった頃にはすでに遅かった。

振り返れば彼がニッコリと笑っていたが、まったく目が笑っていない。

いつも穏やかでやさしい彼を黒いと思ったのは、これが初めてであった。


「兄貴ーっ! 言われたもん用意したぞー!」
「よし! では早速はじめよう!」

ガタガタと鉄の点滴スタンドを用意し、そこに血液のパックをぶらさげ、細部の調整をする。

私と彼はベッドに横になり、薫の準備が整うのを待っていた。

(なんだか緊張してきたな……)

心臓がバクバクと騒がしく、指先まで火照って汗がにじむ。

指先を丸めて気を紛らわそうとしていると、隣に寝ころぶ彼が私の手を握った。

きっと大丈夫。
彼の微笑みがそう言っている気がして私はぎこちなく微笑み返した。

「はじめます」

薫が私の腕に針を刺し、彼の血が入った輸液パックから血を落としていく。

最初は何も感じなかったが、段々と身体の熱が高まっていき、内側をじわじわと侵食されていく感覚がした。

冷や汗がにじみ、頭の中で真っ黒なざわめきが響く。

鬼の血が騒いでいるのだと、私は下唇を噛んで耐えようとした。

「これは……!」
「うっ……うぅぅ……!」

熱い。燃えるようだ。
勝手にあふれ出す涙と汗が混じり、視界がぼやけていく。

ハッキリと見ることは出来ないが、身体から白銀の光が放たれているようだ。

(髪……白い……)

今の私は鬼の血に反応してあやかしの面が濃くなっている。

一度も考えようとしなかったのに、かつて鬼を憎んだ気持ちが沸々と顔を出してきた。

この熱は私の大切なものを燃やしたあの忌まわしき炎だ。

芹を奪った。
母と暮らした思い出の家を焼いた。
鬼が身体を乗っ取って国を滅ぼし、彼に長い長い苦しみを与えた。

(許せない。やっぱり鬼なんてキライよ……)

憎しみはそう簡単に消えてくれない。

おさまったと思えば再び顔を出す、それが憎悪というものだ。

何度も憎んだ果てに私と彼はすれ違うことになった。

(いやだ。鬼なんて、鬼なんて……!)

たくさん失ったから、神の供物になればすべてが救われると思った。

父に気づいてもらえたことが、母を思い出してくれたことが、私に幸せを見えなくさせた。

一番大事なことに気づけないまま、私は諦めのような気持ちで幸せを手放したんだ。

(あぁ、そっか。裏切るってそういうことか)

息を整えようと大きく酸素を吸い込んだ。

汗と涙でぐしゃぐしゃになった顔を彼に向け、私は目を見開いた。

「ひ……づき……」

彼の身体からは黒い光が放たれていた。

まるで炎のように彼を離さないと、呪わしくうごめいている。

(また私、見失うとこだった……)

彼が苦しんでいるのに、私は私の憎しみにとらわれて大事なものが見えなくなっていた。

母を想うと、芹の無念を想うと、引き裂かれそうなほどに心が痛い。

だけどもし、二人がここにいたら憎しみより幸せを願ってくれるはず。

都合がいいかもしれないが、二人に幸せをもらったからもう大丈夫。

(ありがとう、お母さま。芹)

私は幸せになるよ――。

「緋月。私、全部受け止めるよ」
「時羽、姫……?」
「鬼はキライよ。だけどそれが緋月の一部ならいい。一緒に、戦っていこう」
「……っはい」

彼の目尻から涙が伝った。
玉のような汗でも、彼の涙はひと際キレイだった。
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