青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

文字の大きさ
23 / 83
第一章【青の月の章】出会い〜14歳

第23話「クルミ色の浅葱さん」

しおりを挟む
「あーっと。オレの知り合いがコソコソと女と会ってるみたいでさ。もしかして君のことかなーって」
「どうして私だと思うの?」
「えー、そこまで聞いちゃうー?」

気になることはどこまでも追究する。
時々度が過ぎてしまうのはわかっていたが、腑に落ちないままでいるのは後で悶々としてしまう。

すぐに解決できることは何とかした方がいいというポリシーであった。

「目かな~」
「目?」

「最近アイツ、木彫りの兎なんか作っててさ。急になんだと思ってたんだよ」

確実に彼のことだとわかり、私は恥ずかしくなって両頬を包んで隠す。

目の前の男はポカンとし、やがてニヤニヤと八重歯を見せて笑い出した。

「やっぱアイツの女か」
「べ、別にそういうのでは……。あなたこそ何? コソコソと探ってるの?」
「コソコソしてるのはそっちだと思うけどなぁ」

ずいぶんとズケズケ聞いてくるので足蹴りにしてやりたいと思った。

私も人にはこれくらい聞いてしまうので、コホンと咳をして苛立つ心を鎮める。

チラッと男の姿を見て、年齢は彼と同じか少し下かと判断した。

(クルミみたいな髪色ね。見た目は悪くないわ)

だが好みではない、とスパッと切り捨てる。
クルミ色の髪をハーフアップに結んでいるが、長さが短いので外ハネが目立つ。

目は大きく、八重歯が目立つのでまるでリスだと思い、想像して笑ってしまった。

「ふ~ん」

男は目を細め、首を傾げるとすぐにニヤッとして私の手首を掴む。

「きゃっ!?」
「こんなところから抜けだしてさ、どこに行くつもりだった?」
「えっ……そ、それは……」

連れ戻されるかもしれない。
そう思って私は男の手を振り払おうとしたが、見かけによらず男の力は強い。

今まで彼しかまともに交流したことがないので、男性とはこうも力強いものなのだと知り怖くなった。

それに男は気づき、すぐに手の力を抜いて目線を合わせてくる。

「ごめんな。普通の女の子には痛かったよな」
「平気……です」
「? 急にしおらしくなった……」

大して人と関わりがなかったので、大事なことを忘れていたと私は口ごもる。
女性の美徳は上品に、しとやかに、だ。

母に「年頃になったら言葉に気をつけなさい」と言われていたと思い出す。

ちゃんと丁寧に話そう。
身を守るにはそれも一つの武器だと、恐怖を飲み込んで男と向き合った。

「街に出るつもりだったんです。欲しいものがあるんです」
「それは街じゃないと手に入らないの?」
「……そうです。だからここでのことは忘れてください」

そう言って私はいち早くここから退散しようと男から離れる。

「待って。オレも一緒に行く」
「えっ!?」
「女一人で出歩くのはあぶねーからさ!」

この男は遠慮のない人だと呆気にとられていると、ニコニコして男は私に並んで歩き出した。

「オレ、浅葱っていうんだ。君は? 名前を聞いてもいい?」
「……時羽です」
「時羽ちゃん。おっけ、じゃあさっそく街へ行こう!」
「わっ!」

浅葱の足取りは軽く、やたら楽しそうに鼻歌をうたっている。

あまりに弾んだ明るさなものだから、気を張っているこちらがバカらしく思えてクスッと笑った。


***


それから浅葱とはお互いのことを話し、街に着くと私は探し物のためにあちこち見回していた。

「時羽ちゃんの欲しいものって何?」
「えっと……紐なんですけど」
「紐?」

紐といっても色んな紐があるので、浅葱には想像出来ずにキョトンとしている。

私は私でどう説明したら良いかわからず、「えーっと」と曖昧に考えて言葉にしていった。

「髪をくくる紐です。でも紐を使って自分で作りたくて」

「組紐のこと?」
「! そうです! それです!」
「おおぅ……」

ようやく答えが出て目を輝かせると、オーバーリアクションに浅葱は目を見張っていた。

それから「うーん」と顎に指先をあてて目を閉じ、その場をグルグル回りだす。

せわしない人だと眺めていると、目がカッと開いて人混みの奥を指さした。

「たしかこの先に反物屋があった! そこなら売ってるかも!」

比較的、宮に近い商店が並ぶ道だ。
宮から離れれば離れるほど、庶民の暮らしが浮き彫りになっていく。

離れた場所には野菜売りや農具に武器といったものを扱う店が多くあり、近くになれば反物屋と上品な店が増える。

万が一を恐れ、あまり近づかないようにしていたが、目的のものはそこにしかないのなら致し方ないと諦めた。

「そこに行きたいです。浅葱さん、案内していただけますか?」
「お、おう。それはもちろん」

人混みに流されないよう浅葱は私の袖を掴んで歩いていく。

人懐こい印象だが、こうして後ろ姿を見れば背が高いとわかる。
すれ違う人たちより頭一つ分出ており、緋月と同じくらいだとぼんやりと眺めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...