青い月の裏切りは時を越えて〜記憶喪失の姫君は約束を果たすために運命を歪める〜

和澄 泉花

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序章「赤の月の章」

第13話「裏切った日」

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「(あきらめたくない! 裏切ったというなら、姫として供物になった私を裏切る!)」

『ほう?』

父に気づいてほしかった。
姫として生まれ、一度も父に会うことは叶わず……。
愛情の飢えが私を狂わせた。

私はここにいると、母と二人で待っていると。
姫として私にも出来ることがあると、一心に期待し続けた。

”もう、そんな私はいらない!”

「(ツクヨミ、教えて! 何をすれば彼を助けられる!?)」


自己犠牲?
それで彼を救えるならば私は今までの私を裏切ってでも手を伸ばす。

『何度繰り返しても、お前はそう言うのだな』

そう言ってツクヨミは私の問いに答えを与えた。

生贄となった月と同じ、卯月の始まりから終わりまで。
青い月からはじまり青い月で終わる日が重なったとき、【裏切りをみせろ】と。

『代償は”時間と記憶”だ。青い月が過去と未来を重ねる時、お前は目を覚ます。だが決まった時間を覆すのは相応の覚悟が必要だと知れ』

「(なんでもいい)」

自分を見失った結果がこれならば、私は私を取り戻す。

私の愚かさで彼を傷つけたのなら、私は謝って、今度こそ約束を果たしたい。

鬼となるほど絶望した彼を、”時を越えて”でも――。

「運命を変えるの! 力を貸して! ツクヨミ!!」

失われた約束を、彼の言葉を、私の想いを――!

そうして私はツクヨミと契約し、長い時間と記憶を代償に”タイムリープ”の力を持つあやかしとなった。


決まって”卯月の初日、青い月が浮かぶ日”に目を覚ます。

彼と再会し、記憶のないまま”幸福な一か月”を過ごすものの、二十九日になれば必ず彼は鬼と化した。

本来の時の流れは卯月一日、青い月からはじまり二十九日に赤い月で終わった。

私はその流れを歪ませて、彼との未来をつかみ取る。

”卯月の末日に時間を歪ませて、青い満月に変えて時を重ねる”


***

少しずつ記憶が戻っていく。

だけど私はこれがいつなのか、どこまで進んだのかがわからない。

街を抜けて、シロツメクサの咲き誇る河川敷を息せき切って駆けた。

いつまで経っても彼の姿を見つけられず、足も重たくなって一歩前に進むのさえ苦しい。

それでも歩みは止めなかった。

「――ま」

視界が涙でにじむ中、ぐしゃぐしゃで何も見えない。

川のせせらぎだけが聞こえていたのに、遠くから激情をはらんだ叫び声が耳に届く。

「時羽様っ!!」

袖で涙を拭って前を見れば、顔を赤くして必死な様子でこちらに駆けてくる彼がいた。

「緋月っ……!」

手を伸ばす。
私は彼をあきらめたくなくて、思いの丈をすべて出し切って前へ踏み出した。

指先が触れ合って、私は彼の胸に飛び込んで背中に手を回す。

「申し訳ございません……! 絶対に巻き込んではいけないとわかっていたのに俺はっ……!」
「緋月が好き!」

拒絶よりも先に、私は想いを伝えたくて言葉を重ねる。

彼の傍にいたいとは口にはしたが、その理由は告げていなかった。

彼をどう想っているのか、伝えないままに拒絶されるのは嫌だと涙を流した。


「私は緋月が好き! 今も昔も、ずっと好きでした! だからどうか、どうか……!」


――鬼にならないで。

曇り空が晴れ、暗闇の中から月が顔を出す。
その色に私はまた、時を巻き戻さなくてはならないことを悟った。

「俺は最低です……。あなたに生きてほしかったのに。なんのために俺は……!」
「緋月、待って。私は……!」

いつも、赤い満月の下でこの光景を見た。

何度見たって私は”彼を失う瞬間”に絶望を思い知る。
彼がかつて、”私を失ったこと”を引き金に鬼となった時のこと。

どれだけの悲しみ、苦しみ、怒り、絶望。
それが彼を飲み込んでしまったのかを。

「緋月……」

ほおずきのように真っ赤な目をし、顔には黒い亀裂を走らせている。

触れる身体はとげとげしい。
彼と繋がっていた手を見れば、私の手はズタズタとなり血を流していた。

(また……。またこうして私は彼を失うんだ)

気味の悪い突風が吹き、空は星を霞ませるほど赤い満月が浮いていた。
”滅亡”の色、私と彼の終わりを告げる色だ。

今日は卯月の二十九日、空には赤い満月。

(私はこの運命を変えるために、時を巡ってきた)

藍色の髪は星をまとったかのように白銀に染まる。
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