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第二章【番としての恋路】
第21話「そんなのとっくにリサーチ済みでした」
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***
「――る。……ゆる」
声が聞こえる。
(もっと呼んでほしいなぁ)
名前を呼ばれるくすぐったさにまどろんでいると、段々と声が変わって不快さが増す。
この声は嫌だと眉をひそめているうちに、徐々に声に怒気が含まれていくと気づいてパチリと目を覚ました。
「葉緩!」
「ふあい!?」
気づけば朝の恒例となる家族面談の場にいた。
畳の上で忍びの装束をまとい、正座している。
たしか自分は体育館裏で葵斗に捕捉されたはずだが……と考え、ボッと噴火する。
いつのまに家に戻っていたのかとキョロキョロしていると、前方から圧がかかり、肩をすくめた。
「ち、父上……?」
目の前にいたのは眉間に皺をよせ、訝しげにこちらを見る宗芭。
「葉緩、お前は最近不抜けておるぞ! そんなことで主を守れるのか!?」
「ひぃ! 申し訳ございません! この葉緩、気持ちを入れ替えて主様に忠誠を尽くします!」
たしかにここ最近の自分は不甲斐ない。
恥じて畳に額を擦り付ける勢いで土下座をする。
いつも変だが、今日は特におかしいと、挙動不審な動きをする葉緩に宗芭は咳ばらいをした。
「う、うむ。して、そろそろ中間テストの時期ではないか? ちゃんと勉強は」
カチッ……と時が止まる音がした。
宗芭の言葉に葉緩はギクシャクしだし、ヘラヘラと笑い出す。
「……今日からでございます」
「なっ!?」
「そ、それでは学校でテストまで悪あがきをして参ります! 行ってきます!」
――ボンッと煙幕があがり、いつもより手荒に着替えて葉緩は家から飛び出した。
「姉上ー! 今日は数学と化学、両方ですからねー!」
弟の絢葉がそれはもう楽しそうに叫ぶので、葉緩は弟にさえバカにされているとショックに涙目となる。
ちくしょうめ。
覚えていろと、脳内で叫びながら言葉を振り切ろうと超高速で学校に向かった。
成績は特別悪いわけではないが、記号が入った途端に理解不能に陥ってしまう。
数学にいたっては生理的に無理だと吐きたくなると、いつも嘆いていた。
***
そんなこんなで学校についた葉緩は教科書を広げ、目元にクマを作って呟きだす。
公式を暗記しようと、真っ黒なオーラを放って付け焼刃に叩き込んでいた。
「なぜこうも数字や記号ばかり。こんなの目が回ります。なんですか、xって。正体を見せぬとは姑息な……」
「葉緩ちゃん、今から勉強なの?」
テストがあるたびに葉緩がこうなるため、見慣れた柚姫はいつも苦笑いだ。
気づかってくれる柚姫に葉緩は涙をにじませ、教科書を加害者にして強く握りしめる。
「私、留年して姫と桐哉くんと離れるということにだけはならないよう全力で頑張ります」
強気なのか弱気なのか捕らえがたい発言に、柚姫は目を丸くする。
「ファイト! 柚姫ちゃんなら出来る!」
応援になっていない応援に、葉緩は吐血する思いだ。
柚姫に心配をかけるとは情けないと、葉緩は己を叱咤して教科書と仲直りをする。
――天敵・数学よ。今だけは和解しようではないか。
「葉緩、頑張ってね」
「はうっ! も、望月くん……」
葵斗がいつものようにさらっと現れる。不意打ちばかりで心臓がいくつあっても足りない。
相変わらず気配がないから困ったものだ。
今でこそ葵斗も番の概念がある血筋の者とわかったが、簡単に口にしていいことでもない。
(忍びの家系でしょうか? それに近いもの?)
そもそも番の概念はどこから来ているのだろう。
世の中に生きる人々に番の香りはわからず、忍びだけと考えてもその範囲はどこまでなのか。
意外と知らないことだらけだと、葉緩は数学そっちのけに考え出す。
葵斗と柚姫が目をあわせ笑い出すので、妙におもしろくない。
ふてくされて唇をとがらせると、葵斗が葉緩の頭頂部を撫で繰り回した。
「テスト終わったら葉緩の好きな抹茶パフェ、食べに行こう。草餅も美味しいんだ」
「パフェ! 頑張りまする~!」
葉緩の大好物は抹茶、なかでも抹茶パフェは幸せのかたまりだと思っている。
将来のご褒美が見えて尻尾をふっていたが、ふと冷静になって教科書と葵斗をにらめっこした。
(なぜ、私の好物を知っているのでしょう……)
望月 葵斗、おそるべし。
もはやリサーチがねちっこい。
ゾワリと身を震えたが、今は気にしている余裕もなく、目の前のテストを突破するのが第一だ。
後で考えようと、考えることを放棄してまたブツブツと公式を呟いた。
「――る。……ゆる」
声が聞こえる。
(もっと呼んでほしいなぁ)
名前を呼ばれるくすぐったさにまどろんでいると、段々と声が変わって不快さが増す。
この声は嫌だと眉をひそめているうちに、徐々に声に怒気が含まれていくと気づいてパチリと目を覚ました。
「葉緩!」
「ふあい!?」
気づけば朝の恒例となる家族面談の場にいた。
畳の上で忍びの装束をまとい、正座している。
たしか自分は体育館裏で葵斗に捕捉されたはずだが……と考え、ボッと噴火する。
いつのまに家に戻っていたのかとキョロキョロしていると、前方から圧がかかり、肩をすくめた。
「ち、父上……?」
目の前にいたのは眉間に皺をよせ、訝しげにこちらを見る宗芭。
「葉緩、お前は最近不抜けておるぞ! そんなことで主を守れるのか!?」
「ひぃ! 申し訳ございません! この葉緩、気持ちを入れ替えて主様に忠誠を尽くします!」
たしかにここ最近の自分は不甲斐ない。
恥じて畳に額を擦り付ける勢いで土下座をする。
いつも変だが、今日は特におかしいと、挙動不審な動きをする葉緩に宗芭は咳ばらいをした。
「う、うむ。して、そろそろ中間テストの時期ではないか? ちゃんと勉強は」
カチッ……と時が止まる音がした。
宗芭の言葉に葉緩はギクシャクしだし、ヘラヘラと笑い出す。
「……今日からでございます」
「なっ!?」
「そ、それでは学校でテストまで悪あがきをして参ります! 行ってきます!」
――ボンッと煙幕があがり、いつもより手荒に着替えて葉緩は家から飛び出した。
「姉上ー! 今日は数学と化学、両方ですからねー!」
弟の絢葉がそれはもう楽しそうに叫ぶので、葉緩は弟にさえバカにされているとショックに涙目となる。
ちくしょうめ。
覚えていろと、脳内で叫びながら言葉を振り切ろうと超高速で学校に向かった。
成績は特別悪いわけではないが、記号が入った途端に理解不能に陥ってしまう。
数学にいたっては生理的に無理だと吐きたくなると、いつも嘆いていた。
***
そんなこんなで学校についた葉緩は教科書を広げ、目元にクマを作って呟きだす。
公式を暗記しようと、真っ黒なオーラを放って付け焼刃に叩き込んでいた。
「なぜこうも数字や記号ばかり。こんなの目が回ります。なんですか、xって。正体を見せぬとは姑息な……」
「葉緩ちゃん、今から勉強なの?」
テストがあるたびに葉緩がこうなるため、見慣れた柚姫はいつも苦笑いだ。
気づかってくれる柚姫に葉緩は涙をにじませ、教科書を加害者にして強く握りしめる。
「私、留年して姫と桐哉くんと離れるということにだけはならないよう全力で頑張ります」
強気なのか弱気なのか捕らえがたい発言に、柚姫は目を丸くする。
「ファイト! 柚姫ちゃんなら出来る!」
応援になっていない応援に、葉緩は吐血する思いだ。
柚姫に心配をかけるとは情けないと、葉緩は己を叱咤して教科書と仲直りをする。
――天敵・数学よ。今だけは和解しようではないか。
「葉緩、頑張ってね」
「はうっ! も、望月くん……」
葵斗がいつものようにさらっと現れる。不意打ちばかりで心臓がいくつあっても足りない。
相変わらず気配がないから困ったものだ。
今でこそ葵斗も番の概念がある血筋の者とわかったが、簡単に口にしていいことでもない。
(忍びの家系でしょうか? それに近いもの?)
そもそも番の概念はどこから来ているのだろう。
世の中に生きる人々に番の香りはわからず、忍びだけと考えてもその範囲はどこまでなのか。
意外と知らないことだらけだと、葉緩は数学そっちのけに考え出す。
葵斗と柚姫が目をあわせ笑い出すので、妙におもしろくない。
ふてくされて唇をとがらせると、葵斗が葉緩の頭頂部を撫で繰り回した。
「テスト終わったら葉緩の好きな抹茶パフェ、食べに行こう。草餅も美味しいんだ」
「パフェ! 頑張りまする~!」
葉緩の大好物は抹茶、なかでも抹茶パフェは幸せのかたまりだと思っている。
将来のご褒美が見えて尻尾をふっていたが、ふと冷静になって教科書と葵斗をにらめっこした。
(なぜ、私の好物を知っているのでしょう……)
望月 葵斗、おそるべし。
もはやリサーチがねちっこい。
ゾワリと身を震えたが、今は気にしている余裕もなく、目の前のテストを突破するのが第一だ。
後で考えようと、考えることを放棄してまたブツブツと公式を呟いた。
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