14 / 57
第二章【番としての恋路】
第14話「覚えてないのは葉緩の気持ち?」
しおりを挟む
「バカもの!! あの秘薬を勝手に持ち出しただけでなく使用するとは!」
「申し訳ございません~!」
朝から大目玉を食らい、宗芭に土下座して謝罪をする。
昨日の柚姫の暴走について報告をしたところ、宗芭の怒りに触れてしまった。
柚姫の恋を応援するため、宗芭の蔵から勝手に秘薬を盗み出し、軽率にクッキーに混入させた。
大事にならなかっただけよかったと宗芭は息をつき、いたたまれない様子で目を反らす葉緩を一瞥した。
「それで、何ともないのか?」
「はぁ……? 特にはなにも……」
ふと、葵斗に壁への擬態がばれてしまったことを思い出す。
唇が重なったことを思い出し、ダラダラと汗を流して宗芭の顔を直視できなくなった。
「……なにも」
わかりやすい視線のさ迷いに宗芭の眉があがる。
「そうか。……そろそろ学校に行かねば間に合わんな。もういいから行きなさい」
「はい。行ってまいります」
追及したところで葉緩は口を割らないだろう。
宗芭は悩ましく息を吐き、この話を終えた。
当主としての苦悩にも気づかず、葉緩は自分のことで頭がいっぱいだ。
ぼんやりとしたまま宗芭に一礼すると、何も考えなくても身体に染みついた装束替えを行い、トボトボと部屋から出ていった。
――まだ、酔いそうな甘い香りを覚えている。
朝の涼しい風を浴びてようやく葉緩は自覚症状に頬を赤く染めた。
(わっ……私はいったい何を!? いや、あれとはいわゆる接吻……!)
あの秘薬は興奮剤の一種であり、人体に害はないが本音を隠すことが難しくなる。
昨日の出来事は秘薬による影響が大きく、クッキーを口にした柚姫は興奮して本音がダダ洩れになっていた。
一方、忍びの血を引く葉緩に秘薬は違う効力を発揮するようだ。
忍は生まれながらに”番”という認識をもつ。
それはあまりに甘美な芳香を放つらしく、出会った瞬間にわかるそうだ。
葉緩はまだ番に出会えていない。
(望月くんのあの香り……。今までかいたことのない香りでした)
さすがにあの香りは疑いの余地がある。
嗅覚が人一倍優れる葉緩だが、これまで葵斗からはなんの匂いも感じなかった。
番と認識したこともなかったのに、逆らえないあの香りは一体なんだと頭を抱えてしまう。
番だったならば出会った瞬間に、嗅ぎ取れたはずだ。
葵斗には近づいてはいけないと、警戒心を抱いてしまうほどなのに……。
散々、葵斗には振り回されてきた。
あれだけ密着して、何も感じなかった。乙女としての恥じらいはあれど、番としての意識はない。
(そのはず……なのに)
瞳に水が張って視界が揺れてしまう。
濡れた唇に指をすべらせ、目を閉じると悔しさに歯を食いしばった。
***
なんとか学校にたどり着いたものの、葉緩は教室に入ることが出来ずに壁に貼りついて中の様子をうかがっていた。
この気まずさに教室へ足を踏み出す勇気がない。
気配を最小限にするのはクセとなっており、奇怪な行動は特別誰かの目に留まることもない。
「葉緩、おはよう」
「ふわぁあああああっ!?」
……はずだった。
喉から心臓が飛び出そうなほどに叫ぶ。
相変わらず気配のない葵斗にガツンと頭を殴られた気分だ。
距離感ゼロのボディタッチ。
背後から抱きついてくる葵斗に、これ以上好きにはさせてたまるかと葉緩は暴れだす。
「望月くん、これはなんですか!?」
「ハグ。これすると葉緩の匂いが近くなるね」
――チュッ……チュ。
人目もはばからず、葉緩の首にキスをする。
さらさらの黒髪がくすぐってきて、葉緩はカッとなって肩を回して葵斗を弾こうとした。
だが軟弱に見えて葵斗の力は強い。葉緩が暴れてもびくともせず、てんてこ舞い状態だ。
「何をしておいでですか!?」
「もちろん、葉緩は俺のだから目印を……」
「ストップストップ! それ以上は言わなくていいですっ!」
この柔やわな口は何を言い出すか。
慌てて葵斗の口元を両手で押さえつけるも、葵斗の鬼畜具合は続く。
手のひらにまでキスをしてくるので、常識の通じない接近に葉緩は根負けして涙をにじませてしまった。
「うっ……何なんですかぁ……」
こんなのはただの情緒不安定だ。
異性にここまえ接近されるのは慣れておらず、好意の受け止め方がわからない。
本来ならば吐き気のするボディタッチも、意外と嫌ではない。
むしろ好ましいと思ってしまう自身の貞操の軽さにすら嫌気がさした。
「ね、俺のこと“葵斗”って呼んでよ」
「申し訳ございません~!」
朝から大目玉を食らい、宗芭に土下座して謝罪をする。
昨日の柚姫の暴走について報告をしたところ、宗芭の怒りに触れてしまった。
柚姫の恋を応援するため、宗芭の蔵から勝手に秘薬を盗み出し、軽率にクッキーに混入させた。
大事にならなかっただけよかったと宗芭は息をつき、いたたまれない様子で目を反らす葉緩を一瞥した。
「それで、何ともないのか?」
「はぁ……? 特にはなにも……」
ふと、葵斗に壁への擬態がばれてしまったことを思い出す。
唇が重なったことを思い出し、ダラダラと汗を流して宗芭の顔を直視できなくなった。
「……なにも」
わかりやすい視線のさ迷いに宗芭の眉があがる。
「そうか。……そろそろ学校に行かねば間に合わんな。もういいから行きなさい」
「はい。行ってまいります」
追及したところで葉緩は口を割らないだろう。
宗芭は悩ましく息を吐き、この話を終えた。
当主としての苦悩にも気づかず、葉緩は自分のことで頭がいっぱいだ。
ぼんやりとしたまま宗芭に一礼すると、何も考えなくても身体に染みついた装束替えを行い、トボトボと部屋から出ていった。
――まだ、酔いそうな甘い香りを覚えている。
朝の涼しい風を浴びてようやく葉緩は自覚症状に頬を赤く染めた。
(わっ……私はいったい何を!? いや、あれとはいわゆる接吻……!)
あの秘薬は興奮剤の一種であり、人体に害はないが本音を隠すことが難しくなる。
昨日の出来事は秘薬による影響が大きく、クッキーを口にした柚姫は興奮して本音がダダ洩れになっていた。
一方、忍びの血を引く葉緩に秘薬は違う効力を発揮するようだ。
忍は生まれながらに”番”という認識をもつ。
それはあまりに甘美な芳香を放つらしく、出会った瞬間にわかるそうだ。
葉緩はまだ番に出会えていない。
(望月くんのあの香り……。今までかいたことのない香りでした)
さすがにあの香りは疑いの余地がある。
嗅覚が人一倍優れる葉緩だが、これまで葵斗からはなんの匂いも感じなかった。
番と認識したこともなかったのに、逆らえないあの香りは一体なんだと頭を抱えてしまう。
番だったならば出会った瞬間に、嗅ぎ取れたはずだ。
葵斗には近づいてはいけないと、警戒心を抱いてしまうほどなのに……。
散々、葵斗には振り回されてきた。
あれだけ密着して、何も感じなかった。乙女としての恥じらいはあれど、番としての意識はない。
(そのはず……なのに)
瞳に水が張って視界が揺れてしまう。
濡れた唇に指をすべらせ、目を閉じると悔しさに歯を食いしばった。
***
なんとか学校にたどり着いたものの、葉緩は教室に入ることが出来ずに壁に貼りついて中の様子をうかがっていた。
この気まずさに教室へ足を踏み出す勇気がない。
気配を最小限にするのはクセとなっており、奇怪な行動は特別誰かの目に留まることもない。
「葉緩、おはよう」
「ふわぁあああああっ!?」
……はずだった。
喉から心臓が飛び出そうなほどに叫ぶ。
相変わらず気配のない葵斗にガツンと頭を殴られた気分だ。
距離感ゼロのボディタッチ。
背後から抱きついてくる葵斗に、これ以上好きにはさせてたまるかと葉緩は暴れだす。
「望月くん、これはなんですか!?」
「ハグ。これすると葉緩の匂いが近くなるね」
――チュッ……チュ。
人目もはばからず、葉緩の首にキスをする。
さらさらの黒髪がくすぐってきて、葉緩はカッとなって肩を回して葵斗を弾こうとした。
だが軟弱に見えて葵斗の力は強い。葉緩が暴れてもびくともせず、てんてこ舞い状態だ。
「何をしておいでですか!?」
「もちろん、葉緩は俺のだから目印を……」
「ストップストップ! それ以上は言わなくていいですっ!」
この柔やわな口は何を言い出すか。
慌てて葵斗の口元を両手で押さえつけるも、葵斗の鬼畜具合は続く。
手のひらにまでキスをしてくるので、常識の通じない接近に葉緩は根負けして涙をにじませてしまった。
「うっ……何なんですかぁ……」
こんなのはただの情緒不安定だ。
異性にここまえ接近されるのは慣れておらず、好意の受け止め方がわからない。
本来ならば吐き気のするボディタッチも、意外と嫌ではない。
むしろ好ましいと思ってしまう自身の貞操の軽さにすら嫌気がさした。
「ね、俺のこと“葵斗”って呼んでよ」
0
あなたにおすすめの小説
番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。
そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。
お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。
愛の花シリーズ第3弾です。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる