上 下
5 / 8

初任務 Ⅰ

しおりを挟む
 香織に呼び出された拓哉と千夏は未来研の会議室に来ていた。

「楓、資料をお願い」

「はいはーい」

部屋が暗くなり正面にスクリーンが現れる。

「今回の任務は行方不明に成ったアンドロイドの捜索です、名前は『桜』」

香織が手に資料を持ちながら説明を始める。

「どれだけ重要な個体なんです?」

拓哉の質問に一瞬の間があく。

「犬よ」

「え?」

「犬よ」

「聞こえてます」

「良かったわ、次に・・・」

「待った待った! 犬って何だよ、そんなの探偵でも雇えば良いいだろう」

「そうも行かないのよね、楓お願い」

楓が情報をスクリーンに写し出す。

「行方不明に成ったのはコーギー型の小型犬アンドロイドです。
普通なら体内に内蔵されたGPSを辿る事も出来るのですが、今回はGPSから内蔵カメラまで切られてます」

「まさかそれって?」

「はい、誘拐と見て間違い無いでしょう」

「楓ありがとう、拓哉も理解してくれたかな?」

「それにしたって俺がする事か?」

「何を言ってるのよ、他のチームがやらないから貴方達なんじゃない」

「・・・」

「私も質問よろしいですか?」

「どうぞ」

「コーギーと言う犬は珍しく無いと思うのですが、何か特徴でもあるのですか?」

「それは私が説明します」

千夏の質問に楓がパソコンを操作し始めると、スクリーンに新たな情報が映し出された。

「今回のアンドロイドの首輪にはEー201と言う登録ナンバーが付いてますので覚えておいて下さい」

「分かりました」

「忘れてた! 夏美さんから依頼されてた物作りましたよ」

楓が机の脇から小さなアンドロイドを皆の前に出した。

「超小型だけど素材は良い物を使っているので壊れる心配は無いと思います
GPSに小型カメラ、∪SB端末などなど可能な限りの物を思いつくまま搭載しときました」

楓の説明が終わると同時に動き出すアンドロイド。

「うーん、中々快適ね」

「もう良いだろう、まずは公園に行ってみよう」

拓哉が立ち上がると千夏も夏美を服のポケットに入れ、後に続くのであった。

 事務所には香織と楓だけが残った。

「全ての情報を伝えなくて良かったの?」

「ええ、楓は情報を求められたら答えて上げてね」

「了解・・・」


 公園に着いた3人はコーギーの消えた場所へとやって来た。
春休みと言う事もあり、親子連れも多くかなり賑わっている様だ。

「ここがドッグランエリアですね」

 犬好きなのか千夏が目を輝かせ食い入る様に見つめている。

「被害者はここで放し飼いにし、近くのベンチで読書をしてたみたいだね」

「出入り口は2重、犬だけで出るのは不可能そうですね」

「あれは?」

ポケットから夏美が空を指差す。

「防犯カメラ!」

「ハッキング出来ないか私が聞いてみるわ」

夏美は内蔵されてる通信システムで、楓の元へ情報を求めた。

「2人はベンチに座っていてよ、俺は柵に穴が無いか1周してくる」

そう言い残し柵へ向かい走って行った。

「拓哉さんて良い人ね」

「昔から変わってない様だわ」

「やはり夏美は目的を果たすまで突き進むの?」

「うん・・・お父さんとお母さんの無念は晴らさなとね」

「無茶はしないでね」

「それは貴方よ千夏、生身の人間なんだからサポートに徹してなさい」

「うん・・・」

2人がドッグランに目を向けると、柵越しにスマホを振り翳しながら走ってくる拓哉が映ったのである。


 息を上げ喋れない拓哉はスマホを2人の前に差し出した。

「なになに・・・楓からか持ち去った奴の車だね、後所有者に登録場所かな?」

千夏の肩に乗っていた夏美が飛び降り、服のポケットに収まった。

「さぁ行きましょう」

「まだ拓哉さんが・・・」

「俺なら大丈夫、所で何処へ行くんだ?」

「車の所有者の元だと思いますよ」

「そうだよな」

 果たしてこれで良いのだろうか?
香織や楓なら俺達が言わないでも思い付きそうな物なんだけどな。


 スマホに送られて来た住所は下町の中規模な工場だった。

「ここに桜がいるのか?」

「そうみたいですね」

「これからどうする?」

「貴方達では危険だから私が行くわ」

夏美が服のポッケから飛び降りた。

「夏美、カメラの画像は俺達のスマホに送ってくれるか?」

「分かったわ」

拓哉が自分のスマホに映像が送られてるのを確認すると、夏美を抱え上げ建物に向け投げ込んだ。

「夏美頼んだぞー」

「コラー・・・覚えときなさいよー」

夏美は2階の窓から建物の中へと消えて行ったのだった。

「拓哉さん酷いわ・・・」

「夏美から望んだ事だしさ、アハハハ」

スマホから通して見る限りでは稼働停止されてる工場の様であった。
何を作っていたかまでは分からず、夏美の背丈では限られた情報しか得られないと言う致命的な弱点があらわに成ったのである。

「結局俺達も潜入しなきゃ行けないのかよ」

「文句有るなら作った楓に言いなさいよね」

「仕方が無いな、夏美は3階も頼むな、俺と千夏は1階から調べて行く」

「千夏の事頼むわよ」

「ああ、任された」

2人はお互いを見つめ覚悟出来たのを確認すると、小走りで建物の中へと滑り込んだ。


 建物の中は薄暗く日差しの入る窓付近ではホコリが舞ってるのを見て取れる。

「小型犬アンドロイド1体、こんな所に連れて来てどうするのですかね?」

「全てに見捨てられた犯人が寂しかったとか?」

「それにしてもホコリ臭いですね」

 聞いといてスルーかよ

千夏はハンカチを取り出すと口を覆った。

「夏美、3階は何か見つかったか?」

「特に何も無いわね、今から合流するわ」

「俺達は1階を捜索してるな」

「はいはーい」

2人は重機の間を注意深く進んで行く。

「そう言えば、千夏は何か武器を持っているのか?」

「何も・・・」

「拓哉さんは?」

黙って首を振る拓哉を見て不安そうな顔を見せる千夏であった。

「今文句を言ってやる」

拓哉は香織のスマホに連絡を入れ始めた。

「拓哉? 何か分かったの?」

「ああ、重大な事が分かったぞ」

香織がスマホをスピーカーモードに変えた。

「楓ですけど分かった事を出来る限り正確に伝えて下さい」

「シンプルに答えるよ、俺達はどうやって戦えば良いんだー?」

「戦う? 誰と誰がですか?」

「俺達が敵と会った時に武器を持っていたらどうするんだと聞いてるのよ」

「頑張るしか無いですね・・・」

「おーい」

「拓哉! 貴方達はまだ正式なメンバーでは無いので武器を渡す事が出来なかったのよ」

「そんなんで良く仕事を預けたな」

「今の任務が無事に終わったら色々と装備を渡すわ、だから頑張りなさい」

そう言い終えると香織はスマホを切った。

「チッ」

拓哉の舌打ちを見て千夏は理解した様で、問い掛けを用意していた半開きの口は閉じられ顔は伏せられたのであった。

「仕方が無いな現地調達するか、千夏離れるなよ」

「うん」

拓哉は千夏を引き連れ重機の群れを抜けると、工具の置いてある一画へとやって来た。

「中々使えそうな物があるぞ」

無造作に置かれた工具の中から重量感のある鎖を肩に掛け、大きなハンマーを握りしめた。

「千夏は使えそうな物有ったか?」

「うん」

千夏に目をやると安全第一と書かれたヘルメットを被り、小さなバールを握りしめていた。

 まぁな・・・そんなものか・・・。

「奥の事務所らしき場所へ向かうぞ」

「うん」

 千夏の奴は余程緊張してるのだろうか、さっきから「うん」しか言わないでは無いか。

「大丈夫か?」

「うん」

「お腹すいたな」

「うん」

「キスして良いか?」

「うん・・・う? ううん・・・じゃなくてうん・・・いやううん」

「アハハ、もう良いよ」

「もう・・・意地悪」

千夏は持っていたバールで拓哉の脇腹を軽く叩いた。

 どうやら緊張も少しは和らいだ様だな。

2人は慎重に奥へと続く扉に向かい歩き始めたのだった。


しおりを挟む

処理中です...