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新たな日々

2・Chapter 16

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    日向
―――――――――――
 アビリティー収容所から囚人たちが脱走して一日だ。
街の荒れようはニュースで見ても、家を一歩出て見ても分かる程だ。
混乱した住民が、まるで台風が来るから食料を買い漁っているかのように、皆がスーパーやデパートに押しかけている。
なるべく外に出たくないというのは、皆が同じ考えなんだな。
俺は溜息を吐きながら、いつもの様に仏様の前でお経を唱え終えたところだった。
ちっとばっかし雑念が多かったろうが、我慢してくれよ。
人間は神様仏様の様に暇じゃない。
「さて、と」
後から騒がしい足音と共に、制服姿の魔夜が飛び込んできた。
立ち上がろうとした俺の後ろから、すごい勢いでホールド。
「日向っ よかった。貴方が捕えたアビリティーも何人か脱走してるから、私 心配で」
「柄じゃないこと言ったりしたり。今日は槍の雨でも降るかもな……あでッ!!」
思いっきり頭をこ突かれて、地味に痛みが浮き上がる様に感じ始める。
にしても、やっぱり俺が捕えた囚人も出てきてたのか。
渦の発生したあの晩、アズマがグランドホテルの屋上から落下して謎の光に包まれたあの日の夜の事だった。
日本に来ていた二人の異能力者。
例の組織にスパイをしていた外国人を二人、俺が力を封じる事で警察と共に取り押さえた。
確かアイツ等は、千里眼の少女と三人でセットのチームで、俺の家に奇襲をかけた奴等だ。
「魔夜、俺の首に胸をあてるのやめてくれないか。気が散る……イでッ!!」
またこ突かれた。グーで二回目だ。
流石に二発目は痛いし、それに同じ場所を的確に殴ったな。
マジで痛い。
急に離れたかと思うと、後で戸を閉めたり鍵を閉める音だったりが聞こえてきた。
振り返ってみれば、魔夜が本堂の戸締りをしている。
何してんだアイツ。
「何って、奇襲される前に逃げないといけないでしょ。だから戸締りよ」
「お前、俺のブレスレット外したな?」
「能力使わないと、私達の命が危ないもの。あたりまえでしょ?」
まぁ、それはそうか。
暇じゃないのはけっこうだが、忙しいのは勘弁だな。
その場で立ち上がってから、魔夜のしている戸締りの手伝いをする。
蝋燭に灯された火を手団扇で叩き消し、床の間にある戸も全て閉じていく。
ふすまや障子を全て閉じると、二人は正面玄関から出た。
若住職やってる俺は動きやすいスニーカーだ。
いつでもどこでも動きやすくないと、いざって時に大切な子一人護ることもできやしないからな。
隣を振りむいてみれば、魔夜が赤くなってる。
あ、俺の心読みやがったな。
「よし、行くぞ」
魔夜の頭に手を置いてぽんぽんと弱めにはたく。
俺達は慈善家でもなければ、アビリティーを捕まえるのが仕事でもない。
だから戦う必要はないんだ。
でも相手から迫ってきたら、そりゃぁ何とかしないといけない。
元々は公になっていない異能力者を抑制させる為の家系だったわけだけど、こうも大量の異能力者が街で暴れていると、俺ら柵家の兄弟たちの抑制能力はもはや半減以下だ。
あの時は成り行きでアズマを手伝っていただけだが、今回の街の騒動には首を突っ込みたくなかった。
何かヤバい奴が動いているのが明白だったからだ。
アビリティー収容所から奴等を解き放った何かが、この街には居る。
最近はヴィテスという自警団のアビリティーの存在も目撃はされているものの、面と向かって有ったわけじゃないから信用はできん。
とにかく、ここから逃げるしかないか。
「懐かしいな魔夜。前にも一緒に逃亡デートしたよな」
「デートじゃないっ! アレは日向が危ないから一緒に逃げてあげただけよ」
寺の外へと出て生きながら、魔夜を横に連れて正面の道路を左右見渡す。
特にこれといって、ここではまだ何も起きていない。
まぁ、奴等がもう既に捕えられている可能性もあるわけだけど、他のアビリティーと遭遇したりするのも面倒だ。
親父からの連絡も帰ってこねーし、この街はいったいどうなってるのだか。
「ねぇ日向。そういえば梓馬の家系とも繋がってるんだよね」
「あーそうだぞ。柵家と功鳥家、三満と後は本家の石田家。俺も詳しくは知らねーけど、異能力を育成する因子を本家である石田家は研究していたそうだ」
「何だか、闇が深そうな話ね。私に言ってもいいの?」
「知りたかったら頭の中覗くだろう。それに別に言っても殺されはしないと思う。たぶんな」
あまり自信は無さげに言いながらも、ペースを変えずに歩き進む。
前にも魔夜と共に歩き進んだ道を再び歩いていくのは、懐かしさもあってか変な感じがする。
「そんで、戦時中の石田家はその研究を進め現代に至るんだ。憶測だけど、この街全体を創るのに関係していたのが俺達の先祖らしい。人類進化計画、とかどうのこうので」
「急に胡散臭い話に……」
「うるせーよ。一応そういう昔の資料が、まだ俺の寺に残ってるだぜ?」
魔夜はふ~んと返事を適当に返しながら、あまり関心が無さそうに俺の前に歩き進む。
俺よりも低い身長で、少し早歩き気味に歩いている様は可愛い。
今の話をしていたのもそうだが、俺達の向かう安全な場所は本家以外にはない。
おそらくだが、親父も本家の屋敷に顔出してるんじゃないかとは思うんだが……
魔夜が急に足を止めて、その背中に俺はぶつかった。
「何だ。急に止まったら危ないだろ」
立ち止まっている魔夜はある少女の方へと視線を向けている。
何を考えているのかだいたい分かるぞ。
その少女は前に見たことのある人物だった。
あれから、もう三か月くらい前になるくらいだろうか。
アズマが活動していた時、組織の情報を引き出そうと訊問していた異能力者。
「アイツ、確か名前は……」
「ルーテア・ショーウとかいう、人の恐怖心を操る女」
俺達二人が立ち止まっていたからか、相手も気が付いたようだ。
視線をこっちへと向けて、俺は目以外を見る事にする。
「魔夜、アイツの能力は」
「目を見ちゃ駄目なのよね。でも私も精神系能力だから、たしか大丈夫なはず」
どうやら相手の方から近づいてきているみたいで、胸元を広げた半袖のワイシャツにスカート姿。
前に見た時よりだいぶ涼しそうな格好をしているな。
向こうから俺達に接触してくるという事は、因縁つけられるか何かだろう。
とてつもなく嫌だな。
何が嫌かというと、女のアビリティーと戦う事になると俺が女を殴る事になるからだ。
まぁ、中々いい気はしないんだよな。
「あらぁ久しぶりね。前に見た時よりも、何だか二人とも良さ気な雰囲気じゃない?」
「はっ!? 脱獄者のくせに何言ってんの。早く牢獄に戻ってくれないかな」
「久々の再会だというのに、挑発的なのね貴女。あの黒髪で青い瞳の子は居ないのは残念だけど……あの子は痛ぶり甲斐がありそうだから」
魔夜が彼女を睨み、彼女も余裕な涼しい表情をしているな。
口元的にそんな感じだ。目まで見るとまずいから、視線を移動させながらため息をはく。
攻撃的な能力ではないものの、面倒くさいのに変わりは無いな。
「ところで、住職の殿方」
「ん、何だ?」
「そんなに胸ばかり見てると、流石に恥ずかしいというか」
魔夜から強力な踏込を俺の左脚に炸裂させられた。
鈍い音と共に酷い痛みが左脚のつま先からガンガンと感じる。
痛い。痛すぎるんだよ。
何なんだよ急に
「痛ってーよオイ!」
「うるさいっ エロ住職!!」
「目以外のとこ見てたらそうなってたんだっつの」
しゃがみこみながら痛みを堪えていると、魔夜の太股が目に入る。
スカート少し短くないかコイツ。
まぁ涼しいからなんだろうが、こんな脚をさらけ出してると家の中とかで目のやり場に困るよな。
嫌な予感がするよりも先に、魔夜のゲンコツが頭に叩き込まれた。
「人の脚をジッと見ないっ 変な事考えないでよ」
「心読んでるのはお前だろ。つまりお前が悪い」
「何でよ!」
俺等二人のやりとりに、ルーテアは呆れてジト目で日傘をさしながら口を開く。
日傘が開いた音に彼女の溜息も交じっていた気がした。
「そういうイチャイチャ面白いけど、こっちこそ目のやり場に困るわよ。漫才なら他所でやってちょうだい」
「「いや声かけてきたのアンタだし!!」」
息ぴったりで俺と魔夜が言うと、何だかいつの間にかルーテアを圧倒してしまっていたみたいだ。
にしても漫才か。俗に言う夫婦漫才ってやつだろうか。
だが魔夜はまだ18未満の女の子で俺は20代後半の言わば10の歳の差。
まぁカップルに歳の差なんて関係は無いが、となると夫婦漫才ではなく、カップル漫才か。
「余計な事言わないでっ」
追撃にゲンコツをもう一つ貰った。
自分でも分かるくらい鈍い音が聞こえたくらい、強いのを頂いた。
四つん這いで地面に手足をついてしまう。そのくらいの痛みが左脚と頭に感じる。
中々俺の扱い酷いな。
「俺、何も一言も声出してないんだけどな」
「余計な事を考えないで」
「わかった」
とりあいず、要点を巻き戻すとだな。
俺達は別に戦いたいわけではないけど、脱獄者が目の前に居るとなると話は別だ。
掴まっていた人間は、檻に戻さないといけない。
「そうそう、実を言うと私は貴方達を探していたの。アズマは意識不明なんでしょ?」
「俺達を探しにって、どういう事だ」
「私は警察の捜査一課に身を預けていて、アビリティー犯罪抑止の為に働く事になったのよ」
頭の回転がついていかない。
コイツが本当に手を貸しているというのか。
「信じて無いみたいだけど、白辺警視に連絡したら分かるはずよ」
「日向、コイツ嘘は言ってない」
「頭の中を覗かれるのは、あまり好きじゃないけど……よくテレパスなんかと関われるわね貴方」
「そりゃぁ魔夜が好きだからな」
立ち上がりながら言うと、グーの腹パンがとんできた。
だから痛いって……
痛いけど、この話ちゃんと進めないとな。
んじゃぁ俺達には能力使わない方針なのだろうか。
「ルーテアは俺達の手を借りたいのか?」
「そうよ。人の能力を抑制できる日向と、頭の中を荒探りできるテレパスが居るなら助かるもの。二人ともアビリティー探しに適した能力だもの」
「んじゃ、目を見ても大丈夫か?」
「さ~、騙してるかもしれないわよ」
「なら胸見とく」
ルーテアが胸元をさっと隠した仕草を見ていると、次は魔夜のパンチが飛んでくる。
その手を掴んで受け止める。
今日だけで何回やられたと思ってるんだ。
流石に俺も回避くらいできる。
と思った矢先に再び左足を踏みつけられていた。
「痛ってーよ!!」
こりゃあ何回もやられたら靴が痛みそうだな。
痛がっている俺の事はお構いなしみたいだ。
「そんなに困ってるなら手を貸すけど」
「協力感謝するわ。一応 署まで来てほしい」
二人で勝手に話を進めて、警察署の有る方角へと歩きだしていく。
ちょっとは待ってくれないのか。
俺かなり痛み酷いんだけどな。
急いで痛む左脚を動かして、二人の背中を追っていく。
「ま、待って。もう少しゆっくりで頼むよ二人とも」
振り返りもしない二人の少女は、何処となく雰囲気が似ている様にすら思えた。
というか、本当に待ってくれ。

◆◆◆◆◆◆

     エルディー
――――――――――――――
 中々うまくいかない。ディーンにやれと言われたちょっとした特訓。
それはトランプを使った巨大ピラミッド作りだ。
何度やっても中々うまくいかない。
超高速状態で活動をすると、やっぱり上手く風発生のコントロールができずにトランプが動いてしまうんだ。
それで何度も上手くいかずに失敗。
トランプで積み上げた立体は直ぐに崩れていく。
「はぁ、もう347回目だ。少し物にしたといえば、この電流の扱いくらいか」
動かずとも左手を宙にかざす様にするだけで、電流を生み出して自在に発生させて移動させる。
これは攻撃にも使えるはずだ。
ボール状にしたり、槍の様にして使う事もできる。
そして……
電流を宙に打ち消して消滅させると、次は左手の指をピンと伸ばしてから細胞を分子レベルで超振動させていく。
その振動数が高周波を越えた時、ゆっくりとマグカップの方へと近づけた。
指先がマグカップを通り抜けたかと思うと、数秒後に音を立てて割れ飛んだ。
「コレも、まだ難しいな。物体透過が成功する事には、俺はどのくらい強くなれてるかな」
ソファーへと腰を下ろしてから、深く息を吐いた。
こうしている今も、街ではアビリティーが事件を起こし、俺の代わりにディーンや東条刑事が奮闘している。
本当だったら、あの大人数を俺が相手したかったのだけど。
その力は俺には無いんだ。
ファスターが高速移動をする時の独特のソニックブームの音が、どこからともなく聞こえてきた。
ディーンが戻ってきたのだろうか。
家のチャイムが鳴らされたかと思うと、俺は玄関の方へと向かっていく。
靴を履いてからドアへと近づこうとした時に違和感を感じた。
ディーンはいつも、俺の家には無断で透過して入ってきていた。
今回だけチャイムを押すというのもおかしな感じだ。
ドアノブに触れようとした手前で立ち止まっていると、唐突にドアが吹き飛び。
その炸裂音と同時に、ドアにぶつかり俺も吹き飛ばされた。
何が起こったのか分からなかった。
ドアは家の中に転がり、俺は尻もちをついている。
「エルディー……ムゥレン家の御子息。会いたかった」
赤く長い髪の女性。
右目が隠れる程長い前髪に、黒いライダースーツを着ている。
何がどうなってるんだ。
「誰だ。お前は」
「簡単に言うと、アンタの両親に捨てられた娘よ。復讐の狼煙が上がったってワケ」
俺が動くよりも素早く、超高速で急接近してきていた。
赤毛の女は俺の首を掴み上げながら、スピードを緩める事なく投げ飛ばした。
喉が圧迫された感覚に吐き気に襲われながら、壁に叩き付けられてうつぶせに倒れる。
まさか、彼女もファスターだとでもいうのだろうか。
「速いのは貴方だけじゃないわ」
嫌な予感を感じて、私服のまま外へと飛び出した。
一直線に出入り口の玄関の方へと向かうと、身体から飛び出る白色の粒子が残像を残しながら、超高速状態のまま彼女の横を通り過ぎる。
それと同時に、振り返った彼女も俺を追いかけてきた。
その時に一つだけおかしなことに気が付く。
ファスターは能力を全身に使おうとする事で、莫大なエネルギーを起こすのと同時に粒子が生成される。
彼女の身体からは、その光すら出ていなかった。
車を回避しながら移動していくと、背後から拳が大振りで飛んできたのが分かる。
走りながらしゃがみ回避し、大きな橋から川辺の道へと飛び降りた。
「無暗に走ってるだけじゃ勝てない……」
「その通りよエルディー。貴方は私に勝てない」
追いついた彼女が地面に着地してから、駆け込んでくる。
俺達が戦っているこの光景は、誰にも見える事はないだろう。
超高速で動いている俺達の時間の中で、彼女も入り込んできていた。
連続する攻撃を腕で払いながら、一発を叩き込んでいこうとするが、彼女はその拳を掴んで頭突き。
意外な攻撃に怯んでいると、ボディブローが俺にヒットした。
回し蹴りで対処しようとするが、彼女は脚で蹴り返してきて相殺。
二連撃の蹴りが俺の左腕に激突した。
腹部に入り込んで拳を叩き込もうとしたが、彼女は俺の顔面を殴りつける。
強烈な一撃に後へ仰け反ってしまう。
次の瞬間、彼女は目の前まで来ていて人差し指が俺の喉を一突き。
たったその一撃で俺は吹き飛んだ。
スーパースローの中から叩きだされ、足が地面から離れた俺は元の時間の流れへと戻る。
背中から地面に倒れ込んだかと思うと、彼女は俺を睨みつけたまま、ゆっくりと迫ってくる。
一歩一歩を踏みしめて、まるでその目は人を恨む目だった。
「うぐッ……」
俺の方へと迫ってきた彼女は、唐突に頭を抱えながら膝をついた。
さっきまで俺を圧倒していた相手が、何故か急に力を奪われた様にしている。
彼女に何かがおこっているのか。
ゆっくりと立ち上がる彼女は、頭を片手で押さえながら俺を睨みつけた。
「時間切れだエルディー。また会いに来る」
「ま、待て……何なんだよアンタは」
「……ライティエナ。次に私を見た時が貴方の最期よ」
次の瞬間、彼女の姿がブレたかと思うと一瞬にして姿が消えた。
粒子の瞬きが無い分、反射的に力を使うのも難しい。
ファスター以外の、超高速活動系の異能力か。
また負けてしまった。
連戦連敗で、身も心もボロボロだな。
「はぁ」
倒れこんでいた状態で息を吐いて、そのまま地面に寝転がる。
先が思いやられるな。
敵は増える一方なのに、俺のパワーアップはとても遅い。
今後もどうなることやら。

◆◆◆◆◆◆

     朱里
――――――――――――
 私達はアビリティー犯罪者が立て籠もったというゲームセンターの中へと足を運んでいた。
中で何が起こっているのかも分からないのに、裏口から普通にドアを開けて中へと入り込む。
入ってみると、中はふつうの従業員様のスペースが有り、その奥からはいつものゲームセンター内の騒がしい音が聞こえてきていた。
いったい何がおこってるんだろう。
大民先輩は割と冷静そうに奥の方の扉へと近づいていく。
たぶん、それを開いたところに奴がいるのだろう。
「じゃぁ開いてみるわね」
扉を開いてみれば、そこはいつもの様に稼働しているゲームがチカチカと光ったり音が鳴ったり、画面でムービーやテストプレイの映像が流れている。
ゆっくりと警戒しながら入るボクと違って、大民先輩は男達を連れてズカズカと入っていく。
呆気にとられていると、大民先輩は中央付近で立て籠もり犯に見つかったらしい。
「オイどっから入ってきやがった!!」
「後がガラ空きって奴ね」
バールをトントンと床につけて小突きながら言う。
何であんな感じに出ていくかなぁもう。
ボクはこっそりとゲーム機の並ぶ場所から後を通り、移動していく。
「困るのよね。私のいつも使っている場所で立て籠もりなんて」
「誰にもの言ってんのか分かってんのか?」
どうやら従業員は、このフロアで彼の世話でもしていたのか全員ビクビクと端の方に立っていた。
という事は、彼等は奴の能力を目で見たりしたのかもしれない。
能力で脅されて、今こんな状況というのが一番普通な流れ。
手っ取り早くどんな能力かを知れた方がいいんだけど、あの感じだと人質もとい世話係の従業員も、話しかけた時点で奴に大声で知らせる可能性がある。
命欲しさに犯人側につく人も中にもいるからね。
となると、大民さんが隙をつくってくれる事に賭けるしかないかな。
「さ~、私は邪魔な男に話しかけてるだけよ。さぁ二人ともやって」
動いた。
大民先輩に操られている二人が男の方へ飛びかかったかと思うと、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた彼の正面に黒い渦が発生した。
ブラックホールの様なソレに、反応する間もなく二人が吸い込まれ消えた。
ありえない。今までそんな異能力の情報なんて見たことない。
それでも大民先輩は微動だとしなかった。
「どうだ。言う事を聞きたくなったんじゃないか?」
「死んでも嫌よ。それじゃぁ貴方にも私の力になってもらおうじゃない。貴方は私に力を委ねるのよ」
アレが大民先輩のコントロール能力。
命令した相手を自由に操る事ができる力ね。
でも、力を使われたとうの本人は眉間にシワを寄せていた。
「は?」
「……貴方、自我タイプなのね。アズマの時くらいひるんでほしかったものだけど」
ボクの方へと視線を向けてきた。
流石にまずいってわけだね。
男は一歩ずつ歩みだす。大民先輩の方へと進み始めると共に、私は全力で能力で脳細胞を活性化させた。
「今なら俺の前で腰振ってくれんなら許してやってもいいぜ」
決まった。
急いでゲーム機の横へと飛び出て、ポケットから取り出した石を投げ込む。
スピンをかけるようにして投げた石は床に落ちて、次の足を前へと踏み込む瞬間に、床と足の間に石が滑り込んだ。
次の瞬間には勢いよく割り込んだ石は前方へ移動する力と、片足になった弱い踏込で、男は後へと頭から倒れこむ。
勢いよく転んでくれたね。
そして次は、ボクが細長い子供向けのゲームの台にタックル。
縦に細長いゲーム機は勢いよく隣のゲーム機を倒し、丁度男が仰向けになって倒れた場所へと、ゲーム機がドミノの様に倒れながら、最後にはドリンクの自動販売機が倒れこんだ。
流石にまずいんじゃないかと思うような、鈍くも嫌な音が聞こえたけど、顔と右腕は大丈夫みたいね。
「ぐゃぁぁぁぁぁッッ 痛てぇ痛てぇよ。だ誰か」
「さっきの石、よくあんなにベストな位置に投げれたね」
歪んだ表情で叫んでいる男に対して、大民先輩は平然としながら取り出した脳のある場所に特定の周波数の電磁波を送る手錠を取り出し、男の右手首につけた。
「まぁ、自分の投げるタイミングも角度も全て分かるから簡単だよ」
「ありがとう。流石にブラックホール的な能力と思わなくて、焦ったけど」
「焦ってたんだ。全然そんなふうに見えなかった」
「まぁ~とにかく、従業員さん達は外に出て警察を呼んだらどう?」
大民先輩の台詞に従業員たちは何かを思い出したかのように立ち上がり、ゲームセンターの正面入り口の方へと進んでいく。
まるであの感じはマインドコントロールだけど。
煩い男を大民先輩は顔面を蹴りつけて、ボクの手を引いてから出口の方へと進んでいく。
外には警察も野次馬もいたから、この男も直ぐに収容施設に連れていかれるだろうけどね。
「えっと、能力使いました?」
「使った。彼等に私達がコイツを撃退したとか言われると困るから、操るとその周辺の記憶も綺麗に消せちゃうの。だから使ったの」
「へ~、便利ですね」
「まぁ私の力は精神能力系と、アイツみたいな自我の塊みたいな人には効きずらいのよ。それが難点ね」
さっきまで仲間だった男の人を消し去られたというのに、大民先輩は顔色すら変わってない。
まるで使い捨ての様に、人間を操っていたのだとすると、今後この人と関わるのがすごく怖い。
いつ自分もこんな風に使われるかも分からない。
でも、今日は生き残れて良かったかも。
今回は相手が周囲を警戒していなかったからこれで済んだけど。
あんな能力を使う人相手だったら、普通ならボク達がやられていてもおかしくなかった。
大民先輩を見つめながら色々考えていると、それに気が付いたのかボクの方を見てから微笑んできた。
「この後バーガーでも食べに行く?」
「あ、食べたいです」
まぁでも、少し位は異能力者同士で仲良くするのもいいかも。
ボク達が外へと出ていくと、見覚えのある刑事が駆けこんでくる姿が目にうつった。
どこかで見た人だったかな。
駐車場の車の方へと不思議と視線を移してみれば、銀髪に赤色の瞳をしている少女の姿があった。
何でそっちに視線を向けたのか、ほんと直感的で分からなかったけど、何かを感じたんだ。
現場にいた警察達の保護されていく従業員の姿を見ながら、ボク達は野次馬の中へと突入してから、強引にゲームセンターから離れていった。
この街は異能力者だらけなんだ。
だから、いつどこにアビリティーと呼ばれている異能力者がいるのかも分からない。
ボク達みたいに隠れながら、日常を生活している人も中にはいるだろう。
そして、中には今日のボクみたいに悪い異能力者を捕まえる為に力を使ったりしている人もいるかもしれない。
結局は力を持っていても、人間は人間なんだ。
この街には、この混沌を食い止めるような人物を求めているのかもしれない。
アビリティー全員が悪というわけじゃないんだ。
問題なのは、その力を何に使うのかを決める人間そのもの。
ボクはそう死神に教わった。
世界を駆けている何でも屋の死神に……
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