21 / 34
21:仲間割れ
しおりを挟む「ダミーちゃん……! こんなところにいたのか!」
「死んだってことは、呪われたんだよネ? 牛タルもルール破っちゃったんだ」
牛タルの死の報せを聞いても、ダミーちゃんの反応は変わらない。
あの死に様を目の当たりにしたこともあって、俺たちが動揺しすぎているのか?
ダミーちゃんの反応は変わらないどころか、なぜか嬉しそうな様子にすら見えるのは気のせいだろうか?
「なあ、ダミーちゃん。ねりちゃんが死ぬ前、トイレで人形見つけてたよな? あれ、もしかして持ち出したりした? 探しに行ったけど、どこにも無かったんだ」
「人形? 見つけたけど、何でダミーがわざわざ持ち出すワケ? 探してんのはダミーの人形だし、他の人形とか関係ないジャン」
「やっぱり、ダミーちゃんじゃないのか……じゃあ、やっぱりトゴウ様が……?」
もしかしたらと思ったのだが、やはりダミーちゃんが持ち歩いているわけではないようだ。
財王さんが見つけたわけでもないだろうし、そうなるとやはりトゴウ様の妨害と考えるべきなのかもしれない。
(というか、それこそルール違反じゃないのか? 隠した人形を見つけるルールなのに、その隠し場所を動かすなんて……)
文句を言ったところで、トゴウ様が人形を返してくれるわけではない。
俺は気を取り直して、ダミーちゃんに向き直る。
「それならさ、ちょっと協力してくれないか? カルアちゃんが俺の人形の隠し場所を知ってるから、それを聞いて俺の所に持ってきてほしいんだ。それならルールの穴を突いて願いを……」
「なんで?」
「なんでって……そうすれば、この儀式を終わらせることができるからだよ。ダミーちゃんだって、こんなことから早く解放されたいだろ? 残り時間だって少なくなってきてるんだし」
「ん-、却下!」
しかし、ダミーちゃんはあろうことか俺たちに協力することを拒んできた。しかも、ほとんど考える素振りすら見せない即答ぶりだ。
まさか拒否されるとは思いもせずに、俺は二の句が継げなくなってしまう。
「ユージの人形渡しちゃったらさ、ユージのお願いが叶うわけデショ? それじゃあ、ダミーのお願い叶えてもらえないジャン!」
「俺のお願いって……叶えてもらうのは俺個人の願いじゃなくて……!」
「儀式を無かったことにするって言ってたよネ。それ、ダミーは叶えてほしくないから却下」
「な、何言ってんだよ……叶えてほしくないって、もう二人も死人が出てるんだぞ? 自分の願いとか、そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」
思わず声を荒げてしまうが、まさかここにきて自分の願いを優先するだなんて思いもしなかったのだ。
ダミーちゃんが自分の願いを叶えるということは、死んだ二人が生き返る可能性は無くなるということなのに。
「ダミーちゃん、自分の言ってることわかってますか? このまま自分のお願いを叶えたら、食物連鎖の二人だけじゃない。残りのメンバーも呪いで殺されちゃうんですよ?」
そうだ、犠牲になった二人だけではない。この願いを叶えるということは、全員の生死を左右することにも繋がるのだ。
彼女にはそれが理解できていないのかとも思ったが、続く言葉に俺は己の耳を疑うしかなくなってしまう。
「そんなの、最初っからわかってたジャン? ダミーはダミーのお願い叶えてもらいたいし、他の人がトゴウ様に呪われちゃってもしょうがないデショ。だって、そういうルールなんだからサ」
「なあ、ダミーちゃん……それ本気で言ってるのか?」
「本気じゃなけりゃ、こんな人形探しなんてダリィ真似しねーよなあ?」
言い合う俺たちの前に現れた財王さんは、手に人形を持っている。
まさか自分の人形を見つけたのかと思ったのだが、それはよく見れば二年三組の教室に置いてきた牛タルのものだった。
「財王さん……! どうして、その人形を持ってるんですか?」
「オメエらがあの教室で騒いでたのを通話で観てたんでな、ありゃヒデェ死に様だわ」
俺たちの画面からは、ビデオ通話なんて使い物にならなかったというのに。財王さんの画面からは、教室での様子が確認できていたらしい。
自分に都合の悪いことをしない人間であれば、妨害などしないということなのか。
「それは牛タルの人形ですよ、財王さんのじゃないです」
「ああ、知ってるよ。試しに燃やしてみたんだが……”燃えなかった”。呪いってやつはマジモンだな。自分の人形じゃねーと、燃やすこともできねえときたもんだ」
わざわざあの場に行って、死人の人形で試してきたというのか。
あの場ではそんな考えすら及ばなかったが、まさか他人の人形でも願いを叶えられる可能性を考慮したというのだろうか?
ダミーちゃんとは違って、財王さんは牛タルの遺体を直接目の当たりにしてきたはずだ。
だというのに、胸を痛める様子もなければ彼の死を気に掛けてすらいない。
願い事のことしか考えていないというのか?
「ところで、テメエらが今話してたことは冗談だよなあ?」
「話してたことって……儀式を無かったことにするって話ですか? もちろん、本気ですけど。何か問題がありますか?」
「ハッ! 馬鹿どもが、ンなことさせるわけがねーだろうが!!」
空気を切り裂くような怒鳴り声に、俺とカルアちゃんは反射的に委縮してしまう。
まさか、この人もこの期に及んで自分の願いを叶えようというのか。
「MyTuber界のトップになるなんて、そんな願い……人の命と比べるまでもないだろ!?」
「綺麗事抜かすなよ、テメエの願いだって俺と似たようなモンだろうが」
「それはあくまで企画としての話です。こんな状況になった以上、個人の願いなんて叶えてる場合じゃないことくらいわかって……」
「こんな状況だからこそだろうが!?」
俺は人としてまともな意見を述べているはずなのに、なぜだか財王さんとダミーちゃんにはまるで響いていないらしい。
「こんな状況だからこそって、何を……言ってるんですか……?」
「呪いは本物。つまり、トゴウってやつの存在も本物ってことだ。なら、人形を燃やしさえすりゃあ願いは確実に叶えられる」
「こんな魔法みたいなチャンス、もう巡ってこないよネ。だからダミーも財王も、ユージたちの頼みを聞く理由は無いんダヨ」
「あんたら……狂ってるよ。イカれてる。そこまでして願い叶えて、それでホントにいいのかよ? 人として間違ったことしてるとは思わないのか!?」
たとえ世界征服できるとしても、一生困らない生活ができるとしても。
俺には大事な仲間二人を死なせてしまったというこの罪悪感を背負って、自分の願いを叶えてもらうことなんてできない。
だが、俺とこの目の前の二人の持つ価値観は、どうやら正反対のところにあるようだ。
互いに顔を見合わせた二人は、まるで新しいおもちゃを与えられた、無邪気な子供のようだった。
「ユージもカルアも好きだけど、ダミーはダミーのことが一番好きだから。ダミーのお願い以外は叶えたくないし、邪魔するなら許してあげないヨ」
「万が一にも先に人形見つけられちまったら厄介だからなあ。悪いが、テメエらには大人しく呪い殺されてもらうぜ」
「ッ……カルアちゃん、逃げ……!!」
にじり寄ってくる二人から不穏な空気を感じ取った俺は、咄嗟にカルアちゃんだけでもこの場から逃がそうとする。
けれど、財王さんとの体格差なんて考えるまでもなく圧倒的だ。
筋肉質な太い腕に首元を圧迫された俺は、抗うこともできずにあっという間に絞め落とされてしまう。
フェードアウトしていく意識の外側で、カルアちゃんが俺の名前を呼んでいる声が聞こえた気がした。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
月影の約束
藤原遊
ホラー
――出会ったのは、呪いに囚われた美しい青年。救いたいと願った先に待つのは、愛か、別離か――
呪われた廃屋。そこは20年前、不気味な儀式が行われた末に、人々が姿を消したという場所。大学生の澪は、廃屋に隠された真実を探るため足を踏み入れる。そこで彼女が出会ったのは、儚げな美貌を持つ青年・陸。彼は、「ここから出て行け」と警告するが、澪はその悲しげな瞳に心を動かされる。
鏡の中に広がる異世界、繰り返される呪い、陸が抱える過去の傷……。澪は陸を救うため、呪いの核に立ち向かうことを決意する。しかし、呪いを解くためには大きな「代償」が必要だった。それは、澪自身の大切な記憶。
愛する人を救うために、自分との思い出を捨てる覚悟ができますか?
開示請求
工事帽
ホラー
不幸な事故を発端に仕事を辞めた男は、動画投稿で新しい生活を始める。順調に増える再生数に、新しい生活は明るいものに見えた。だが、投稿された一つのコメントからその生活に陰が差し始める。
幸せの島
土偶の友
ホラー
夏休み、母に連れられて訪れたのは母の故郷であるとある島。
初めて会ったといってもいい祖父母や現代とは思えないような遊びをする子供たち。
そんな中に今年10歳になる大地は入っていく。
彼はそこでどんな結末を迎えるのか。
完結しましたが、不明な点があれば感想などで聞いてください。
エブリスタ様、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
変貌忌譚―変態さんは路地裏喫茶にお越し―
i'm who?
ホラー
まことしやかに囁かれる噂……。
寂れた田舎町の路地裏迷路の何処かに、人ならざる異形の存在達が営む喫茶店が在るという。
店の入口は心の隙間。人の弱さを喰らう店。
そこへ招かれてしまう難儀な定めを持った彼ら彼女ら。
様々な事情から世の道理を逸しかけた人々。
それまでとは異なるものに成りたい人々。
人間であることを止めようとする人々。
曰く、その喫茶店では【特別メニュー】として御客様のあらゆる全てを対価に、今とは別の生き方を提供してくれると噂される。それはもしも、あるいは、たとえばと。誰しもが持つ理想願望の禊。人が人であるがゆえに必要とされる祓。
自分自身を省みて現下で踏み止まるのか、何かを願いメニューを頼んでしまうのか、全て御客様本人しだい。それ故に、よくよく吟味し、見定めてくださいませ。結果の救済破滅は御客しだい。旨いも不味いも存じ上げませぬ。
それでも『良い』と嘯くならば……。
さぁ今宵、是非ともお越し下さいませ。
※注意点として、メニューの返品や交換はお受けしておりませんので悪しからず。
※この作品は【小説家になろう】さん【カクヨム】さんにも同時投稿しております。 ©️2022 I'm who?
ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿
加来 史吾兎
ホラー
K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。
フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。
華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。
そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。
そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。
果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。
雷命の造娘
凰太郎
ホラー
闇暦二八年──。
〈娘〉は、独りだった……。
〈娘〉は、虚だった……。
そして、闇暦二九年──。
残酷なる〈命〉が、運命を刻み始める!
人間の業に汚れた罪深き己が宿命を!
人類が支配権を失い、魔界より顕現した〈怪物〉達が覇権を狙った戦乱を繰り広げる闇の新世紀〈闇暦〉──。
豪雷が産み落とした命は、はたして何を心に刻み生きるのか?
闇暦戦史、第二弾開幕!
怪物どもが蠢く島
湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。
クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。
黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか?
次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる