1 / 34
00:始まり-前編-
しおりを挟む大学生にもなると、彼女いない歴イコール年齢というのは、劣等感を抱かせるには十分な肩書きになる。
高校時代は、青春らしい青春を謳歌できるのなんて、カースト上位の人間だけだと諦めていた。
それでも僕は、大学に入れば彼女の一人くらい自然とできるものだという考えも、捨てきれずにいたのだ。
そんな僕、瀬戸 武志の人生は、残念ながら予想通りとはいかなかった。
いわゆる大学デビューは、清々しいほど失敗に終わる。
異性と交流を持てる機会なんて、待てども待てども巡ってくるものではなかったのだ。
(こんなはずじゃなかったんだ……ボクは今頃、可愛い彼女とイチャイチャしているはずだったのに)
そう思ったところで、失敗を取り戻すことなどできない。
そのままズルズルと彼女いない歴を更新し続けていき、気づけば大学生活は終盤に差し掛かっていた。
何の取り柄もない男の人生なんて、こんなものなのだろう。
そんな時、偶然見つけたのが「May恋~恋の可能性~」というマッチングアプリだった。
オタク趣味を持つ僕にとって、インターネットサーフィンは日常の一部だ。
その日もいつものように、開き慣れたSNSを手持ち無沙汰に眺めていたのだが。
「マッチングアプリって……どうせサクラしかいないんだろ」
こうしたアプリには、正直に言えば偏見があった。それに、自然に出会いを見つけられないままアプリに手を出すのは、何となく負けたような気がしていたのだ。
なのだが、今となっては大学で甘酸っぱい青春を得ることはできなくなってしまった。社会人になれば、さらに出会いの手段は狭まってしまうことだろう。
今から大学で親しい異性を作るなんてできるはずがないし、紹介してくれるような顔の広い友人もいない。
(そうかといって、ナンパとかハードル高すぎるし……)
それに、身近な友人からの紹介や、共通の知り合いがいる相手にはリスクが伴う。
上手くいけば一番確実な方法ではあるのだが、失敗した時に恥をかくのが嫌だった。
チャレンジするのなら、後腐れない相手の方がまだマシというものだろう。
(なら、アプリで知り合った相手の方がいいんじゃないのか……?)
決断できずにいた僕は、何度も画面を行き来していた。
だが、なるようにしかならないと判断して、インストールと書かれたボタンをタップする。
さほど時間はかからず、アプリは僕のスマホへとインストールされた。
逸る気持ちを抑えながら、僕は早速そのアプリを起動してみる。
「……何か、ゲームの画面みたいだな」
小気味よい電子音と共に、赤色の大きなハートマークがあしらわれたロゴが表示された。
新規登録と書かれたボタンをタップしてみると、最初に表示されたのは注意事項や承諾事項だ。
登録される個人情報はアプリ内でのみ使用されること。
同じく登録をしている他の会員に対して、嫌がらせのような行為は行わないこと。
違反をした場合には、罰則が設けられたり、即時退会になることなど。
「基本的にこういうのって、どこも似たような制約事項ばっかり書かれてるよな」
僕はざっとそれらを読み飛ばして、進むボタンをタップした。
続いて、アプリ内で表示されるニックネームや生年月日、プロフィールといった必要事項を入力していく。
少し面倒に思えたのだが、こうしたところをきちんと書いておかなければ、真面目に出会いを探していると判断されない可能性もある。
「ニックネームは、いつも使ってるし闇空でいいか……あ」
すべて書き終えたとろろで、僕はあることに気がついた。
必要なのはプロフィールの記入だけではなく、自分の顔写真も登録する項目があるのだ。
登録しなくともアプリを利用することはできるのだが、ただでさえ女性に比べて男性は相手にされないと聞く。
顔写真の有無で、結果がかなり変わるらしかった。
(写真っていわれても、顔に自信あるわけじゃないしなあ)
仕方がないので、顔の上半分を写したものを掲載することにした。まずは雰囲気がわかれば問題ないだろう。
それから十八歳以上であるという証明のために、身分証明書の写真をアップロードして提出する。
一通りの作業を終えた僕は、運営からの承認を待つのみとなった。
それが終わるまでは、異性との交流はおろか、プロフィールの検索をすることもできない仕様となっている。
「何だ、すぐに使い始められるわけじゃないのかよ」
すぐにアプリを使えると思い込んでいた僕は、出鼻をくじかれたような気持になってしまう。
ベッドにごろりと寝転んで、今の時点で見られるページ内を眺めていた。
そんなことをしていても承認がくるわけではないのだが、ふと『運勢占い』と書かれた項目が目に留まった。
特に考えもなしに、そこをタップしてみる。
どうやら、アプリの会員になると一日に一度だけ、無料で運勢占いをしてもらうことができるらしい。
「占いとか興味ないけど……やることもないしな」
誰にともない言い訳を口にしながら、僕は運勢占いを試してみることにした。
これから彼女をゲットするかもしれないのだから、その前の運試しだ。
画面に表示されている鈴緒のイラストをタップする。神社の賽銭箱の前にある、鈴を鳴らすためのあの紐だ。
スピーカーから鳴り出したのはリアルな鈴の音で、社のような建物の扉が開かれていく。
その中から現れたのは、一枚の赤い紙だった。
『最良の縁が結ばれたし』
登録したばかりだから、ユーザーをキープするために、良い結果を出す仕組みになっているのだろう。
そう思っても、僕はその結果を見て悪い気はしなかった。
恋人を作りたくて登録をしたのだから、良い縁が結ばれると言われれば嬉しいものだろう。
「お、早速きた」
さらに、運営からも承認が済んだとの通知が届いたのだ。
少なくとも半日くらいはかかるだろうと予想していたのだが、これは幸先がいい。
善は急げとばかりに、僕は女性ユーザーのプロフィールを検索してみることにした。
1
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
【全64話完結済】彼女ノ怪異談ハ不気味ナ野薔薇ヲ鳴カセルPrologue
野花マリオ
ホラー
石山県野薔薇市に住む彼女達は新たなホラーを広めようと仲間を増やしてそこで怪異談を語る。
前作から20年前の200X年の舞台となってます。
※この作品はフィクションです。実在する人物、事件、団体、企業、名称などは一切関係ありません。
完結しました。
表紙イラストは生成AI
終焉の教室
シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。
そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。
提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。
最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。
しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。
そして、一人目の犠牲者が決まった――。
果たして、このデスゲームの真の目的は?
誰が裏切り者で、誰が生き残るのか?
友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる