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エルアーラ遺跡編
episode447
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ヒューゴとライオン傭兵団が、膠着状態に陥って数分が経過した。
さほど長すぎる時を過ごしてはいないが、この状況にもっとも辟易しているのはベルトルドだ。
思念体であるヒューゴと、マトモに打ち合うことができないのは理解出来る。ライオン傭兵団のノーキン連中は、揃いも揃って魔剣使いばかりだが、実体のナイ相手を斬り倒す芸は備えていないようだった。
(だが、こんなときこそ魔法使いの出番だろ?)
そう内心激しくツッコミを入れていたが、カーティスたちをはじめとする魔法使いたちは、他人事のようにウンともスンともせずに黙っている。対抗手段がない、つまりは手詰まりなのだ。
残念なことに、サイ《超能力》ではどうすることもできない。空間転移を自在に使いこなすベルトルドですら、思念体が相手では力の使いようがないのだ。ルーファスやマリオンでは尚更だ。
後方に陣取って誰よりもイライラ状況を眺めているベルトルドの腕を、ツンツンと突く者がいる。不機嫌に歪める顔を横に向けると、無表情なシ・アティウスが耳打ちしてきた。
ヒューゴが剣先をライオン傭兵団に向けたポーズを取り続けて早数分。自らが仕掛けてくる気配はなく、洗練されたポーズで突っ立ったまま。
「よく腕が疲れねえな、思念体だからかあ?」
と、ザカリーが小声でつっこんでいる。
「お相手してもらいたくても、実体がナイんじゃ当たらないしなあ……」
魔剣シラーを抜き放って構えるギャリーが、心底困ったように呟いた。「お相手いたす」とキザッたらしく言い放った割に、向こうから仕掛けてこないのも気に入らない。かといって、こちらからうって出ても、当たらないのでは意味がない。
「爽やかに笑われながら、スカスカ攻撃するのも虚しいし」
涼やかな顔を渋そうに歪めながら、タルコットが口をへの字に曲げる。
イメージトレーニングの賜物か、そういった情けない自分の姿が脳裏に鮮明に浮かぶ。笑うのは好きだが、笑われるのは御免被りたかった。
打開策も見いだせないままお手上げムードが漂う中、
「ヴィトの賢知を得て
ハーナルの技術を駆使し
ギンナルの口を封じる
土は大地に 水は海に
アギゾエッセ!!」
大声で唱えるシビルの呪文が、室内に響き渡った。
すると、それまでにこやかな笑みを浮かべていたヒューゴの顔に、初めて焦りが浮かんで目が見開かれた。慌てて剣をひいて防御姿勢を取る。
「くっ!」
瞬間、ヒューゴの身体が一瞬だけ強い光を放って、ふいに手を滑り落ちた剣は床に落ちて、カランと金属音を立てた。
「ん!?」
その音に、ノーキン組みがぴくりと反応する。
「今の一体なんだ、シビル?」
腕を組んだままのガエルが、足元のシビルを見おろす。
みんなの視線を一身に浴びたシビルは、にんまりと得意そうに鼻をひくひくと動かした。
「シ・アティウスさんに教わった魔法が、うまくいったようです」
仰ぎ見られて、シ・アティウスは小さく頷いた。
「私は魔法使いではないですが、たまたま知っていた魔法なので、シビルさんに試してもらいました」
「奴を固着させたんだ、この空間に。スカスカの思念体じゃ手が出せないからな。実体化させればこちらのもんだ」
さほど長すぎる時を過ごしてはいないが、この状況にもっとも辟易しているのはベルトルドだ。
思念体であるヒューゴと、マトモに打ち合うことができないのは理解出来る。ライオン傭兵団のノーキン連中は、揃いも揃って魔剣使いばかりだが、実体のナイ相手を斬り倒す芸は備えていないようだった。
(だが、こんなときこそ魔法使いの出番だろ?)
そう内心激しくツッコミを入れていたが、カーティスたちをはじめとする魔法使いたちは、他人事のようにウンともスンともせずに黙っている。対抗手段がない、つまりは手詰まりなのだ。
残念なことに、サイ《超能力》ではどうすることもできない。空間転移を自在に使いこなすベルトルドですら、思念体が相手では力の使いようがないのだ。ルーファスやマリオンでは尚更だ。
後方に陣取って誰よりもイライラ状況を眺めているベルトルドの腕を、ツンツンと突く者がいる。不機嫌に歪める顔を横に向けると、無表情なシ・アティウスが耳打ちしてきた。
ヒューゴが剣先をライオン傭兵団に向けたポーズを取り続けて早数分。自らが仕掛けてくる気配はなく、洗練されたポーズで突っ立ったまま。
「よく腕が疲れねえな、思念体だからかあ?」
と、ザカリーが小声でつっこんでいる。
「お相手してもらいたくても、実体がナイんじゃ当たらないしなあ……」
魔剣シラーを抜き放って構えるギャリーが、心底困ったように呟いた。「お相手いたす」とキザッたらしく言い放った割に、向こうから仕掛けてこないのも気に入らない。かといって、こちらからうって出ても、当たらないのでは意味がない。
「爽やかに笑われながら、スカスカ攻撃するのも虚しいし」
涼やかな顔を渋そうに歪めながら、タルコットが口をへの字に曲げる。
イメージトレーニングの賜物か、そういった情けない自分の姿が脳裏に鮮明に浮かぶ。笑うのは好きだが、笑われるのは御免被りたかった。
打開策も見いだせないままお手上げムードが漂う中、
「ヴィトの賢知を得て
ハーナルの技術を駆使し
ギンナルの口を封じる
土は大地に 水は海に
アギゾエッセ!!」
大声で唱えるシビルの呪文が、室内に響き渡った。
すると、それまでにこやかな笑みを浮かべていたヒューゴの顔に、初めて焦りが浮かんで目が見開かれた。慌てて剣をひいて防御姿勢を取る。
「くっ!」
瞬間、ヒューゴの身体が一瞬だけ強い光を放って、ふいに手を滑り落ちた剣は床に落ちて、カランと金属音を立てた。
「ん!?」
その音に、ノーキン組みがぴくりと反応する。
「今の一体なんだ、シビル?」
腕を組んだままのガエルが、足元のシビルを見おろす。
みんなの視線を一身に浴びたシビルは、にんまりと得意そうに鼻をひくひくと動かした。
「シ・アティウスさんに教わった魔法が、うまくいったようです」
仰ぎ見られて、シ・アティウスは小さく頷いた。
「私は魔法使いではないですが、たまたま知っていた魔法なので、シビルさんに試してもらいました」
「奴を固着させたんだ、この空間に。スカスカの思念体じゃ手が出せないからな。実体化させればこちらのもんだ」
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