片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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エルアーラ遺跡編

episode446

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「もうすぐヴィヒトリ先生がきますから、手当していただきましょうね」

 アルカネットは柔らかく微笑みかけ、そっとキュッリッキの手を取ると、指先や爪にこびりついた血をタオルで優しく拭ってくれた。それをぼんやりと見つめ、二の腕の傷よりも、心が鈍く痛むのを感じていた。

(とうとうバレちゃった……)

 メルヴィンの身体が床から投げ出されたとき、無我夢中で飛び出した。

 あの手を取らないと、一生後悔する。そう思ったから。

 もっと冷静でいれば、フェンリルで助けにいけばよかっただけなのに、反射的に身体がそう動いてしまったのだ。メルヴィンが危ない、そう思った瞬間、身体が飛び出し、そして翼を広げてしまった。どう助ければいいかなど考えていなかったのだ。

 左側のちぎれた残骸のような翼のせいで、キュッリッキはろくに翼を広げたことがなかった。幼児期に鏡の前で何度も確かめたときくらいで、飛べないのだから必要ないと翼の存在すら忘れるように努めていた。

 他人に見られれば蔑みの目を向けられ、両親に捨てられたことも、同族に忌まれたことも思い出してしまうから。

 出来損ないの自分を見られるのは凄く嫌だ。恥ずかしいと思う反面、辛くもあった。消えてしまいたくなるくらいに。

(みんな、どう思ったのかな…)

 ヴァルトとザカリーはもとから知っていた。しかしほかのみんなは? そしてメルヴィンはどう思ったの?

 メルヴィンがどう思ったのかが、もっとも気になっている。

 キュッリッキの翼を見て、絶句したように何も言わなかったメルヴィン。

(きっと、みっともないと思ったんだ)

 不格好だと感じただろう、片方しか翼がなくて。飛べない、情けない姿だと。だから何も言わなかったのだ。そう思うと、心がチクリ、チクリと痛み出す。

 飛べもしないのに飛び出した挙句、翼だけ広げて落下して、最後はフェンリルを呼んで助かった。初めからそうしていれば、ヴァルトまで巻き込むことはなかったし、誰にも見られずに済んだのに。

 やはり、自分は出来損ないなのだ。同族から見捨てられたほどに。

「リッキーさん……」

 アルカネットがそっと涙を拭ってくれて、それで我にかえったキュッリッキは、慰めを求めてアルカネットに向けて両腕を伸ばした。

 ベルトルドと同じように、父親のような存在であるアルカネット。今はとにかく甘えたくてしょうがなかった。

 アルカネットはたまらずキュッリッキをギュッと抱きしめると、そのままベッドに倒れ込んだ。

 ベッドに押し付けるような格好でキュッリッキを抱きしめたまま、胸の中で嗚咽をもらす少女の背を、アルカネットは何度も優しく撫でてやった。
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