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エルアーラ遺跡編
episode443
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ちゃぶ台返しの勢いで、どこまでも居丈高に言い切るベルトルドに、ヒューゴは肩をすくめた。礼儀正しく挨拶して、何故キレるのかと。
偉そうなヒト、という表現に、後ろの方でライオン傭兵団が神妙に深く深く頷いた。その無礼な気配を捉え、ベルトルドは噛み付きそうな目で彼らをジロリと睨む。
この場にアルカネットでもいれば、呆れたような溜息の一つもつきそうだが、代わりにシ・アティウスが嫌味ったらしく溜息をついた。
目の前のそんな光景を見て、ヒューゴは小さく微笑んだ。
「ヤルヴィレフト王家の血の波動が消えている。殺ったのは、キミだね?」
一瞬ベルトルドは「ん?」と小首をかしげたが、すぐに「ああ」とめんどくさげに頷いた。
「あのジジイの先祖のことか。奴なら公開処刑してやったぞ」
手を首のところで一閃して、撥ねたことを暗に伝える。
「そうですか…、それは一安心だ。だけど、ヤルヴィレフト王家とも関係のなさそうな貴方が、このフリングホルニになんの御用でしょうか?」
ベルトルドは隣に首を向けると、
「10年前からこんなのいたのか? 報告にはあがってきてないが」
「いえ。先ほど言ったように、ソレル国王がこの遺跡に入り込んでから、それを感知して目覚めたようです」
目の前の青年に目を向けたまま、シ・アティウスは淡々と答えた。
自ら残留思念と認めたのだから、きっとそうなのだろう。ソレル国王の遠い祖先、ヤルヴィレフト王家縁(ゆかり)の者。
遺跡にはトラップや幽霊などといった演出道具はつきものなので、たいして感動も興味もそそられなかったが、目の前の青年はシ・アティウスの興味を強く惹いていた。
「ヤルヴィレフト王家の縁者がこの遺跡に入り込むことを、好ましく思っていなかったのなら、何故直接ソレル国王を排除しなかったのです?」
表情の読み取れないシ・アティウスに、「それは出来なかったからです」とヒューゴは微笑みを絶やさず小さく肩をすくめて見せた。
「10年前にこの艦(ふね)が発見され、あなた方がシステムを乗っ取ってしまったからです。そこの偉そうな御仁が自らを生体キーとして登録して、メインシステムを支配したから、ボクはシステムに介入できなくなった。ヤルヴィレフト王家の血を継ぐ者がこの艦に踏み込んだ時に、目覚めるようにしていたのだけど。それにドールグスラシルに入られたら手が出せない」
「なるほど。肉体を持たないあなたには、出来る手立てが少ないわけですか」
「ご明察」
淡々と語るシ・アティウスに、ヒューゴは苦笑してみせた。
「だが、キュッリッキ嬢を拐かしたように、攫うことができるのなら、それで始末をつければよかったのではないか?」
この問には、どこか諦めにも似た表情を浮かべて、ヒューゴは小さく息をついた。
「………ボクたち神王国ソレルに仕える騎士たちは、騎士の称号を賜ると同時に、心臓に”ヴァールの証”を打ち込まれる。永遠にヤルヴィレフト王家に逆らえない、という呪いのようなものだね。”ヴァールの証”は騎士の誓いに置き換えられる。思念体や魂になっても、決してヤルヴィレフト王家に連なる者には手を出せない。例えそれが末端の分家筋であったとしても、王家の遺伝子を持つ者には全て手が出せないんだ。情けない話だけど」
それは面白そうだなという表情を、ベルトルドは僅かに口の端に浮かべた。”ヴァールの証”というものは、この時代には伝えられていない秘儀だろう。シ・アティウスも知らないようだった。
「さてどうしようか考えている間に、キミが始末してくれた。そのことには礼を言わせてもらうよ」
「だったら心の底から大感謝しろ!」
偉そうなヒト、という表現に、後ろの方でライオン傭兵団が神妙に深く深く頷いた。その無礼な気配を捉え、ベルトルドは噛み付きそうな目で彼らをジロリと睨む。
この場にアルカネットでもいれば、呆れたような溜息の一つもつきそうだが、代わりにシ・アティウスが嫌味ったらしく溜息をついた。
目の前のそんな光景を見て、ヒューゴは小さく微笑んだ。
「ヤルヴィレフト王家の血の波動が消えている。殺ったのは、キミだね?」
一瞬ベルトルドは「ん?」と小首をかしげたが、すぐに「ああ」とめんどくさげに頷いた。
「あのジジイの先祖のことか。奴なら公開処刑してやったぞ」
手を首のところで一閃して、撥ねたことを暗に伝える。
「そうですか…、それは一安心だ。だけど、ヤルヴィレフト王家とも関係のなさそうな貴方が、このフリングホルニになんの御用でしょうか?」
ベルトルドは隣に首を向けると、
「10年前からこんなのいたのか? 報告にはあがってきてないが」
「いえ。先ほど言ったように、ソレル国王がこの遺跡に入り込んでから、それを感知して目覚めたようです」
目の前の青年に目を向けたまま、シ・アティウスは淡々と答えた。
自ら残留思念と認めたのだから、きっとそうなのだろう。ソレル国王の遠い祖先、ヤルヴィレフト王家縁(ゆかり)の者。
遺跡にはトラップや幽霊などといった演出道具はつきものなので、たいして感動も興味もそそられなかったが、目の前の青年はシ・アティウスの興味を強く惹いていた。
「ヤルヴィレフト王家の縁者がこの遺跡に入り込むことを、好ましく思っていなかったのなら、何故直接ソレル国王を排除しなかったのです?」
表情の読み取れないシ・アティウスに、「それは出来なかったからです」とヒューゴは微笑みを絶やさず小さく肩をすくめて見せた。
「10年前にこの艦(ふね)が発見され、あなた方がシステムを乗っ取ってしまったからです。そこの偉そうな御仁が自らを生体キーとして登録して、メインシステムを支配したから、ボクはシステムに介入できなくなった。ヤルヴィレフト王家の血を継ぐ者がこの艦に踏み込んだ時に、目覚めるようにしていたのだけど。それにドールグスラシルに入られたら手が出せない」
「なるほど。肉体を持たないあなたには、出来る手立てが少ないわけですか」
「ご明察」
淡々と語るシ・アティウスに、ヒューゴは苦笑してみせた。
「だが、キュッリッキ嬢を拐かしたように、攫うことができるのなら、それで始末をつければよかったのではないか?」
この問には、どこか諦めにも似た表情を浮かべて、ヒューゴは小さく息をついた。
「………ボクたち神王国ソレルに仕える騎士たちは、騎士の称号を賜ると同時に、心臓に”ヴァールの証”を打ち込まれる。永遠にヤルヴィレフト王家に逆らえない、という呪いのようなものだね。”ヴァールの証”は騎士の誓いに置き換えられる。思念体や魂になっても、決してヤルヴィレフト王家に連なる者には手を出せない。例えそれが末端の分家筋であったとしても、王家の遺伝子を持つ者には全て手が出せないんだ。情けない話だけど」
それは面白そうだなという表情を、ベルトルドは僅かに口の端に浮かべた。”ヴァールの証”というものは、この時代には伝えられていない秘儀だろう。シ・アティウスも知らないようだった。
「さてどうしようか考えている間に、キミが始末してくれた。そのことには礼を言わせてもらうよ」
「だったら心の底から大感謝しろ!」
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