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エルアーラ遺跡編
episode442
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一拍おいて「ん?」といった表情で、ライオン傭兵団全員が顔を上げる。その様子にシ・アティウスが肩ごしに振り向いた。
「もしかして、男の幽霊です?」
「おや、ご存知でしたか」
ギャリーとルーファスは顔を見合わせた。
「リッキーを誘拐したっていう幽霊だな」
ギクッという反応が後方からして、ベルトルドは薄笑いを浮かべた。
なんで筒抜けてるんだ、という空気が憚ることなく漂う。
「さっきヴァルトの記憶で視た。あとでしっかり説明してもらおうか、この馬鹿者どもが」
ギュッと心臓を握りつぶすようなベルトルドの底冷えする威圧感に、ライオン傭兵団は竦み上がった。そしてヴァルトに小突いたり舌打ちしたりするみんなの反応がおかしくて、シ・アティウスは小さく笑みを浮かべた。
暗く沈んでいる彼らは似合わない、と思っていたからだ。
1時間も歩き、ようやく動力部前へ到着した頃には、みんな疲れきっていた。なにせ道中同じ白い通路の風景しかなく、とくにライオン傭兵団はEncounter Gullveig Systemから逃げ回っていたのだ。視覚的に変化がないとそれだけでも気疲れするし、加えて溜まった疲れとさっきの出来事で、より身体は重かった。
シ・アティウスはそうでもなかったが、ベルトルドは妙にうんざりしたように疲労感を漂わせている。昼寝もしてリフレッシュしただろうに、とシ・アティウスは胸中で呟いた。
「こんだけ疲れるんだったら、空間転移したほうがまだよかった……」
「普段からスキル〈才能〉に頼りすぎて運動不足ですね。――もういい歳ですから」
さらりと核心をつかれて、カチンとベルトルドがいきり立つ。
「うるさいぞ能面エロ面(ヅラ)!! お前だって同い年だろ! 俺の場合は寝不足だ寝不足!」
昼寝していたという事実は棚に上げ、子供のような癇癪を起こすベルトルドに、ふうっと露骨なため息を吐き出すと、シ・アティウスは動力部の扉を押し開いた。
「こんの」
「はい、ここですよ」
握り拳を作ってふるふる怒るベルトルドをスルーするシ・アティウスの、そのあまりに天晴れな態度に、妙に感動を覚えるライオン傭兵団だった。
重い音をたて内側に開かれた巨大な扉の向こうは薄暗かったが、何もないだだっ広い空間が広がっていた。そしてその中央に、身体を光で包む一人の青年が立って皆を出迎えた。
「ようこそ、招かれざる者たち」
先頭に立って中へ入ったベルトルドは、腕を組んで青年を睥睨すると、不快そうに眉を寄せた。
「お前が、俺の大事な大事なリッキーを拐かしたゲス野郎か」
「初対面の相手をいきなりゲス呼ばわりとか、酷いなあ」
青年は苦笑を浮かべて、首をすくめながら頭を掻く。
ベルトルドの出方は予想の範疇外だったのか、青年は若干驚いていた。しかしその態度もナメていると感じたのか、ベルトルドはぴくりと眉をひくつかせる。
「黙れ、ただの残留思念の分際が! 俺の大事なリッキーと、俺の玩具を好き放題遊びやがって!」
「あら、残留思念ってバレてる」
青年はびっくりしたように瞬いた。そして改めてベルトルドに向き直ると、洗練された仕草で片腕を胸にあて一礼する。
「ボクの名はヒューゴ。ヒューゴ・リウハラといいます。あらためてお初にお目にかかる、偉そうなヒト」
「残留思念の名などに興味はないわっ!」
「もしかして、男の幽霊です?」
「おや、ご存知でしたか」
ギャリーとルーファスは顔を見合わせた。
「リッキーを誘拐したっていう幽霊だな」
ギクッという反応が後方からして、ベルトルドは薄笑いを浮かべた。
なんで筒抜けてるんだ、という空気が憚ることなく漂う。
「さっきヴァルトの記憶で視た。あとでしっかり説明してもらおうか、この馬鹿者どもが」
ギュッと心臓を握りつぶすようなベルトルドの底冷えする威圧感に、ライオン傭兵団は竦み上がった。そしてヴァルトに小突いたり舌打ちしたりするみんなの反応がおかしくて、シ・アティウスは小さく笑みを浮かべた。
暗く沈んでいる彼らは似合わない、と思っていたからだ。
1時間も歩き、ようやく動力部前へ到着した頃には、みんな疲れきっていた。なにせ道中同じ白い通路の風景しかなく、とくにライオン傭兵団はEncounter Gullveig Systemから逃げ回っていたのだ。視覚的に変化がないとそれだけでも気疲れするし、加えて溜まった疲れとさっきの出来事で、より身体は重かった。
シ・アティウスはそうでもなかったが、ベルトルドは妙にうんざりしたように疲労感を漂わせている。昼寝もしてリフレッシュしただろうに、とシ・アティウスは胸中で呟いた。
「こんだけ疲れるんだったら、空間転移したほうがまだよかった……」
「普段からスキル〈才能〉に頼りすぎて運動不足ですね。――もういい歳ですから」
さらりと核心をつかれて、カチンとベルトルドがいきり立つ。
「うるさいぞ能面エロ面(ヅラ)!! お前だって同い年だろ! 俺の場合は寝不足だ寝不足!」
昼寝していたという事実は棚に上げ、子供のような癇癪を起こすベルトルドに、ふうっと露骨なため息を吐き出すと、シ・アティウスは動力部の扉を押し開いた。
「こんの」
「はい、ここですよ」
握り拳を作ってふるふる怒るベルトルドをスルーするシ・アティウスの、そのあまりに天晴れな態度に、妙に感動を覚えるライオン傭兵団だった。
重い音をたて内側に開かれた巨大な扉の向こうは薄暗かったが、何もないだだっ広い空間が広がっていた。そしてその中央に、身体を光で包む一人の青年が立って皆を出迎えた。
「ようこそ、招かれざる者たち」
先頭に立って中へ入ったベルトルドは、腕を組んで青年を睥睨すると、不快そうに眉を寄せた。
「お前が、俺の大事な大事なリッキーを拐かしたゲス野郎か」
「初対面の相手をいきなりゲス呼ばわりとか、酷いなあ」
青年は苦笑を浮かべて、首をすくめながら頭を掻く。
ベルトルドの出方は予想の範疇外だったのか、青年は若干驚いていた。しかしその態度もナメていると感じたのか、ベルトルドはぴくりと眉をひくつかせる。
「黙れ、ただの残留思念の分際が! 俺の大事なリッキーと、俺の玩具を好き放題遊びやがって!」
「あら、残留思念ってバレてる」
青年はびっくりしたように瞬いた。そして改めてベルトルドに向き直ると、洗練された仕草で片腕を胸にあて一礼する。
「ボクの名はヒューゴ。ヒューゴ・リウハラといいます。あらためてお初にお目にかかる、偉そうなヒト」
「残留思念の名などに興味はないわっ!」
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