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エルアーラ遺跡編
episode441
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愛する少女が、こんな形で自らの傷を見せることになるとは。
いつか自分の口から、自身のことを話すと心に決めていたことは知っている。だが、今も心が深く傷ついているキュッリッキが、どういうタイミングで切り出すか惑っていることも判っていた。
最良の形で打ち明けられたらいいと、密かに応援していた。それなのに、最悪の形でさらけ出す羽目になってしまうなんて。
(もうそのくらいになさい、ベル)
諌めるような口調のリュリュの声が、頭に静かに入り込んできた。
(あーたのその行動は、ただの八つ当たり。そのくらいで気を済ませなさい)
(………)
指摘されるまでもなく判っている。だが、八つ当たりでもなんでも、怒りの矛先がどうしてもメルヴィンに向いてしまうのだ。
(今度のことで一番辛いのは小娘のほうでしょ。小娘を慰める役をアルカネットに任せっきりでいいわけ?)
(いいわけあるか!!)
(だったらいつまでも子供みたいに拗ねてないで、ライオンの連中を連れて、動力部へ行きなさいな。部屋の外でシ・アティウスが待っているから、案内してもらいなさい)
(………判った)
(終戦宣言を出したとは言え、開戦してすぐ終戦じゃ、現場の兵士たちも気が収まらないでしょう。放送を見ても、それでも時間が経てば煮えくり返る者は出てくるわ。双方が完全に撤収するまでは混乱もしそうだから、アタシは将軍と一緒に指揮に戻る。ちょっと飛ばして)
(ん…)
ベルトルドは意識を凝らすと、ドールグスラシルにいるリュリュを、ソレル王国首都アルイールへむけて飛ばした。
リュリュが言うように、今回のことで一番傷ついて辛いのはキュッリッキだ。そして、用事を済ませて早く彼女のそばに行ってやりたい。
怒りを静めるために大きく息を吐き出すと、ベルトルドは困惑するように自分を見つめているライオン傭兵団に顔を向けた。
「これから動力部へ行くぞ。お前らついてこい」
闘技場を出ると、シ・アティウスが小さく会釈した。
「ご案内します」
「おう」
ベルトルドは気持ちを切り替えるように、フンッと鼻息を一つ吐き出す。その様子にシ・アティウスは小さく顎をひいた。
「お嬢様は、災難でしたね」
「うん」
2人はそれきり黙り込むと、動力部へむけて歩き出した。その後ろを黙々とライオン傭兵団が続く。
ベルトルドが一緒にいるということもあるが、珍しいほどライオン傭兵団は無口だった。念話で雑談も一切せず、ただ黙って歩いていた。
普段だったら冗談の一つも言って、「無駄口叩くな!」とベルトルドから叱責されるものだが、そんな気が起きないほど打ちのめされている。そしてベルトルドもあまり長すぎる沈黙は苦手なので、むずむずして叫びだすが、やはり黙っていた。
この重苦しい状況に耐え切れなくなって、真っ先に口を開いたのはシ・アティウスだ。
「息のあったソレル王国兵によると、ソレル国王らがこの遺跡に入り込んでから、動力部で奇妙な異変が起きはじめたそうです。怖くて放置してたらしいが、この遺跡はまだ未完成なので、装置を運び込むのにいつまでも異変状態だと困ります。何とかして欲しいのですよ」
「……どんな異変なんですかい?」
唐突に話し始めたシ・アティウスに、やや間を置いてギャリーがぼそりと反応する。
「幽霊が出るそうですよ」
いつか自分の口から、自身のことを話すと心に決めていたことは知っている。だが、今も心が深く傷ついているキュッリッキが、どういうタイミングで切り出すか惑っていることも判っていた。
最良の形で打ち明けられたらいいと、密かに応援していた。それなのに、最悪の形でさらけ出す羽目になってしまうなんて。
(もうそのくらいになさい、ベル)
諌めるような口調のリュリュの声が、頭に静かに入り込んできた。
(あーたのその行動は、ただの八つ当たり。そのくらいで気を済ませなさい)
(………)
指摘されるまでもなく判っている。だが、八つ当たりでもなんでも、怒りの矛先がどうしてもメルヴィンに向いてしまうのだ。
(今度のことで一番辛いのは小娘のほうでしょ。小娘を慰める役をアルカネットに任せっきりでいいわけ?)
(いいわけあるか!!)
(だったらいつまでも子供みたいに拗ねてないで、ライオンの連中を連れて、動力部へ行きなさいな。部屋の外でシ・アティウスが待っているから、案内してもらいなさい)
(………判った)
(終戦宣言を出したとは言え、開戦してすぐ終戦じゃ、現場の兵士たちも気が収まらないでしょう。放送を見ても、それでも時間が経てば煮えくり返る者は出てくるわ。双方が完全に撤収するまでは混乱もしそうだから、アタシは将軍と一緒に指揮に戻る。ちょっと飛ばして)
(ん…)
ベルトルドは意識を凝らすと、ドールグスラシルにいるリュリュを、ソレル王国首都アルイールへむけて飛ばした。
リュリュが言うように、今回のことで一番傷ついて辛いのはキュッリッキだ。そして、用事を済ませて早く彼女のそばに行ってやりたい。
怒りを静めるために大きく息を吐き出すと、ベルトルドは困惑するように自分を見つめているライオン傭兵団に顔を向けた。
「これから動力部へ行くぞ。お前らついてこい」
闘技場を出ると、シ・アティウスが小さく会釈した。
「ご案内します」
「おう」
ベルトルドは気持ちを切り替えるように、フンッと鼻息を一つ吐き出す。その様子にシ・アティウスは小さく顎をひいた。
「お嬢様は、災難でしたね」
「うん」
2人はそれきり黙り込むと、動力部へむけて歩き出した。その後ろを黙々とライオン傭兵団が続く。
ベルトルドが一緒にいるということもあるが、珍しいほどライオン傭兵団は無口だった。念話で雑談も一切せず、ただ黙って歩いていた。
普段だったら冗談の一つも言って、「無駄口叩くな!」とベルトルドから叱責されるものだが、そんな気が起きないほど打ちのめされている。そしてベルトルドもあまり長すぎる沈黙は苦手なので、むずむずして叫びだすが、やはり黙っていた。
この重苦しい状況に耐え切れなくなって、真っ先に口を開いたのはシ・アティウスだ。
「息のあったソレル王国兵によると、ソレル国王らがこの遺跡に入り込んでから、動力部で奇妙な異変が起きはじめたそうです。怖くて放置してたらしいが、この遺跡はまだ未完成なので、装置を運び込むのにいつまでも異変状態だと困ります。何とかして欲しいのですよ」
「……どんな異変なんですかい?」
唐突に話し始めたシ・アティウスに、やや間を置いてギャリーがぼそりと反応する。
「幽霊が出るそうですよ」
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