片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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エルアーラ遺跡編

episode438

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 ベルトルドはアルカネットに手伝わせて急いで身支度を整えると、アルカネットとリュリュを連れてドールグスラシルに転移した。

 3人が戻ると、シ・アティウスがシートから立ち上がって出迎えた。

「おかえりなさい」

 さっきの珍場面が頭をよぎり、シ・アティウスは思わず吹き出しそうになって気合で堪える。

「ライオンの連中を補足して、Encounter Gullveig Systemが起動したらしいな」

「はい。ロックオンしてすでに攻撃が始まっているようです。ですがキュッリッキ嬢の反撃を受けて、システムが混乱しつつあります」

「なんだと?」

「Encounter Gullveig Systemの繰り出す立体映像に、攻撃を仕掛けることは本来できません。物理攻撃も魔法攻撃も効かないはずですが、キュッリッキ嬢の召喚による攻撃が通っているようなのです。アルケラの力はEncounter Gullveig Systemにはプログラムされていなかったようで、混乱しながらも対抗するため、反撃用プログラムを自動生成し始めています」

 驚いてベルトルドは目を見張った。そして嘲笑がじんわりと口元を覆う。

「超古代文明の遺産は、召喚士の力を計算に加えていなかったのか。――レディトゥス・システムを設置できていないことが原因か」

「おそらくは」

「フンッ、どいつもこいつも手を焼かせる」

 ベルトルドはメインパネルの前に立つと、パネルを操作しEncounter Gullveig Systemのコンソールを浮かび上がらせ、承認ディスプレイを呼び出した。

「”たぶらかす女神に遭遇する”という意味だが、その名の通り本当に厄介なシステムなんだ。人間の深層心理を暴いて、本人も気づいていない恐怖を取り出して具現化するんだからな。――人は意外と本当に何が怖いのか、表面上は判っていないものだ。意識しないように、深く閉じ込めるから。だが、本能は真に怖いものを理解している」

「そうねえ。そんなものが襲いかかってきて、振り払おうにも攻撃ができないんじゃあ、軽くパニックよね。それが延々追いかけてくるんだから、タマンナイわ」

「触れることのできないモノは、理解の適用外だ。女神(システム)はターゲットが脳死するまで、徹底的に暴き出して責めてくる」

「陰湿ねん」

 パネルの宙に浮かび上がるディスプレイに手を触れると、新たなコンソールが立ち上がる。その横に別のディスプレイが浮かび上がり、数字の羅列が忙しく流れていった。それを見つめ、ベルトルドは眉間を寄せた。

「必死に計算中か……。解明し、構築するのは時間がかかりそうだが。レディトゥス・システムの補佐もないし。だが対抗策を新たに算出されると、俺の大事なリッキーに何があるか判らんからな。Encounter Gullveig Systemの機能を止める」

「ソレル王国兵の残党は、もういませんか?」

「アタシが調べたから大丈夫よ」

 アルカネットの指摘にリュリュが答えると、ベルトルドも頷いた。

「”ガンダールヴの名をもって、リジルの楔を打ち込む”」

 ベルトルドの音声でパスワードが打ち込まれ、かざした手でシステムの機能停止が承認された。

 Encounter Gullveig Systemは即座に計算を止め、機能を凍結させた。

「カーティスには動力部へ向かうよう指示を出していたが、Encounter Gullveig Systemに補足されたからには、余計な場所に迷い込んだんだろう。しょうのないやつだ。あいつらの現在地を出してくれ、シ・アティウス」

 シ・アティウスは頷くと、すぐにパネルを操作し始めた。

「得意げに迷子になっていたあなたに言われたのでは、カーティスも苦労が耐えませんね」

 さらっとアルカネットに指摘され、ベルトルドは真っ赤になって睨みつけた。

「俺は地図を持ってなかったが、アイツには地図を持たせてある!」

 ハイハイ、とアルカネットとリュリュは揃って肩をすくめた。

「見当違いもいいところに迷い込んでいるようです」

 メインモニター全面に映し出されたライオン傭兵団を見て、シ・アティウスが首をかしげた。

「どこだそこ?」

「闘技場です」

「やーね、なんだってそんなところに」

「あっ」

 アルカネットは小さく声をあげると身を乗り出した。そしてベルトルドも大きく目を見開くと、愕然としたように声を振り絞った。

「リッキー………!」
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