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エルアーラ遺跡編
episode437
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「おいメルヴィン、手を伸ばせ!!」
突如怒鳴り声がして上に視線を向けると、手を伸ばしたヴァルトが落ちてきていた。
「ヴァルトさん!」
「俺様の手を掴め、早く!!」
宙をもがくようにするヴァルトの手を、必死に伸ばしたメルヴィンの手が捕まえた。
「俺様を引っ張れ!」
「はいっ!」
メルヴィンは出来る限りの力を振り絞って、ヴァルトを引っ張り寄せた。そしてヴァルトはメルヴィンの身体に手を回すと、ぎゅっと抱きしめて持ち上げるようにした。
しかし落下スピードで加速している3人の身体は、思った以上に立て直しが難しく、ヴァルトは翼を羽ばたかせてスピードを殺そうと試みるがうまくいかない。辺りに白い羽が粉雪のように舞った。
「くっそ、勢いつきすぎて立て直しがきかねえっ」
こんのぉおおっと怒鳴りながら、ヴァルトは懸命に翼を羽ばたかせるが、落下スピードが多少緩まっただけだった。
「おいきゅーり! なんでもいーからショーカンしろ!!」
ウンともスンともせず、微動だにしないキュッリッキの耳元で喚く。
メルヴィンに抱きしめられて、また赤面祭りになっているのかと思ったが、あいにくその顔は蒼白になっていて、小刻みに震えている。
「きゅーり! おまえはショーカンシだろ!! キュッリッキ!!!」
「あっ」
ビクッと身体を震わせて我に返ると、キュッリッキは大声で叫んだ。
「フェンリル!!」
次の瞬間、メルヴィンの身体は、柔らかなクッションの上で跳ねたような感触に包まれ落下が止まった。
「ふぅ………、アブナカッタ」
2人の上に覆いかぶさるようになっていたヴァルトは、気が抜けたようにグデーっとそのまま動こうとしなかった。
「さ…さすがに重いですヴァルトさん……」
キュッリッキだけなら重さのうちに入らないが、そこへヴァルトも加わると、さすがに息苦しい。
ヴァルトはゴロンと身体を仰向けにしてメルヴィンたちから離れると、両手足をぐーっと伸ばす。
「イヌの上はジュータンみたいで、ふかふかしてキモチーな!」
キュッリッキの背に手を回したまま、メルヴィンは上体を起こした。そして周囲を見回すと、黒い中に白銀色の毛並みが大地のように広がっているのが見えた。
「これ、フェンリルですか…」
驚いたように呟き、そして微動だにしないキュッリッキに再び目を向け、メルヴィンは息を飲んだ。
キュッリッキの背に広がる一枚の翼。
右側はヴァルトと同じく大きく美麗な白い翼で、虹の光彩がその翼の表面を覆っていて不思議な色合いに満ちている。
そして左側には、むしり取られたような、無残な翼の残骸のようなものが生えていた。
その対極過ぎる姿は、なんと言えばいいのだろうか。
メルヴィンは言葉を発することができなかった。
目を見開き瞬きもせず、どこか虚ろを見つめるようなキュッリッキに、どんな言葉をかければいいのか判らない。
2人の様子をチラッと見て、ヴァルトは内心で激しく舌打ちした。
まさかこんな形で、キュッリッキが隠し通したがっていた翼を、よりにもよってメルヴィンに晒すことになろうとは。
あの片翼のせいで、どれだけ辛い過去を送ってきたか。その一端を知るヴァルトは、今のキュッリッキの心が痛いほど理解出来ていた。
「おいフェンリル」
ヴァルトは寝転んだ格好のまま、掌をフェンリルの背にぱふぱふ叩きつけた。
「上にあがってくれ。だいぶ落ちたから、ザカリーでも見えないだろうし」
すると、地の底を震わせるようなくぐもった唸り声が響き、フェンリルはゆっくりと上昇を始めた。
突如怒鳴り声がして上に視線を向けると、手を伸ばしたヴァルトが落ちてきていた。
「ヴァルトさん!」
「俺様の手を掴め、早く!!」
宙をもがくようにするヴァルトの手を、必死に伸ばしたメルヴィンの手が捕まえた。
「俺様を引っ張れ!」
「はいっ!」
メルヴィンは出来る限りの力を振り絞って、ヴァルトを引っ張り寄せた。そしてヴァルトはメルヴィンの身体に手を回すと、ぎゅっと抱きしめて持ち上げるようにした。
しかし落下スピードで加速している3人の身体は、思った以上に立て直しが難しく、ヴァルトは翼を羽ばたかせてスピードを殺そうと試みるがうまくいかない。辺りに白い羽が粉雪のように舞った。
「くっそ、勢いつきすぎて立て直しがきかねえっ」
こんのぉおおっと怒鳴りながら、ヴァルトは懸命に翼を羽ばたかせるが、落下スピードが多少緩まっただけだった。
「おいきゅーり! なんでもいーからショーカンしろ!!」
ウンともスンともせず、微動だにしないキュッリッキの耳元で喚く。
メルヴィンに抱きしめられて、また赤面祭りになっているのかと思ったが、あいにくその顔は蒼白になっていて、小刻みに震えている。
「きゅーり! おまえはショーカンシだろ!! キュッリッキ!!!」
「あっ」
ビクッと身体を震わせて我に返ると、キュッリッキは大声で叫んだ。
「フェンリル!!」
次の瞬間、メルヴィンの身体は、柔らかなクッションの上で跳ねたような感触に包まれ落下が止まった。
「ふぅ………、アブナカッタ」
2人の上に覆いかぶさるようになっていたヴァルトは、気が抜けたようにグデーっとそのまま動こうとしなかった。
「さ…さすがに重いですヴァルトさん……」
キュッリッキだけなら重さのうちに入らないが、そこへヴァルトも加わると、さすがに息苦しい。
ヴァルトはゴロンと身体を仰向けにしてメルヴィンたちから離れると、両手足をぐーっと伸ばす。
「イヌの上はジュータンみたいで、ふかふかしてキモチーな!」
キュッリッキの背に手を回したまま、メルヴィンは上体を起こした。そして周囲を見回すと、黒い中に白銀色の毛並みが大地のように広がっているのが見えた。
「これ、フェンリルですか…」
驚いたように呟き、そして微動だにしないキュッリッキに再び目を向け、メルヴィンは息を飲んだ。
キュッリッキの背に広がる一枚の翼。
右側はヴァルトと同じく大きく美麗な白い翼で、虹の光彩がその翼の表面を覆っていて不思議な色合いに満ちている。
そして左側には、むしり取られたような、無残な翼の残骸のようなものが生えていた。
その対極過ぎる姿は、なんと言えばいいのだろうか。
メルヴィンは言葉を発することができなかった。
目を見開き瞬きもせず、どこか虚ろを見つめるようなキュッリッキに、どんな言葉をかければいいのか判らない。
2人の様子をチラッと見て、ヴァルトは内心で激しく舌打ちした。
まさかこんな形で、キュッリッキが隠し通したがっていた翼を、よりにもよってメルヴィンに晒すことになろうとは。
あの片翼のせいで、どれだけ辛い過去を送ってきたか。その一端を知るヴァルトは、今のキュッリッキの心が痛いほど理解出来ていた。
「おいフェンリル」
ヴァルトは寝転んだ格好のまま、掌をフェンリルの背にぱふぱふ叩きつけた。
「上にあがってくれ。だいぶ落ちたから、ザカリーでも見えないだろうし」
すると、地の底を震わせるようなくぐもった唸り声が響き、フェンリルはゆっくりと上昇を始めた。
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