片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
447 / 882
エルアーラ遺跡編

episode428

しおりを挟む
 蜂の猛威も終わり、ライオン傭兵団はその場でしばしの休息をとったあと、動力部へ再び向かうことになった。のだが。

「当然現在地が判るわけがない!!」

 握り拳を高らかに掲げて、カーティスはきっぱり迷いなく断言した。

 その様子をしらーっと見つめながら「あーうん、そーよねー」といった皆の心の声を反映させた、無言の空気があたりを漂う。

 ベルトルドからもらっている、簡素な地図を見ずに走り回っていたのだ。戻るにしても、どのくらい戻ればいいのか判らないし、これ以上時間をかけるとベルトルドとアルカネットが気づいて、容赦ない電撃の一つも降ってきそうだ。

「シビルに探してもらうのは?」

 ランドンがぽつりと言うと、指名されたシビルが首を横に振った。

「動力部がどんなものかも判らないですし、生き物じゃないと思うから、ちょっと難しいかもー」

「そうなんだ」

 うーん、と皆首をひねるがいい案が浮かばない。

「もーさぁ、素直に迷子になったあ~って言ってぇ、助けに来てもらおーよぉ」

 お腹すいたしぃー! とマリオンが喚く。

「遺跡の中で遭難したってことで、それも致し方ないですか…」

 あとで説教まみれになりそうですね、とカーティスは吐露した。

「すみませんがルーファス、お願いできますか」

 苦笑を浮かべたカーティスに言われて、ルーファスは引きつった笑みを浮かべながら片手を上げて了解した。

「怒られそーになったら、きゅーりが責任をもって、おっさんたちを止めればいーんだ!」

 フンッと立ち上がったヴァルトが、尊大に居丈高に吠えた。

「なんでアタシが責任もってなのよ」

「勝手に消えて俺様の背中に落っこちてきた罰だ!!」

 盛大なふくれっ面でヴァルトを見上げ、キュッリッキは片眉をヒクつかせた。

 確かに勝手に消えて――問答無用でユーレイに拐かされた――迷惑をかけたのは自分だが、落ちた場所にたまたまヴァルトが腕立て伏せなんぞしてたのが悪い。

「いいか! あのジジーどもは、きゅーりが甘えたら鼻の下が全開で伸びて人格が変わるから、キョーリョクしろってんだ!!」

 ヴァルトはキュッリッキの両頬をつまむと、勢いよく横に引っ張った。

「いひゃいひゃらひゃひゃひへほ」

 キュッリッキの反応が面白く、調子に乗ってヴァルトはぐにぐに両頬をつまんだまま引っ張って笑っている。

「もうそのくらいに……」

 メルヴィンが慌てて止めに入った時である。

 最初に気づいたのはペルラだった。

 普段から寡黙派なので、驚いても悲鳴を上げることがない。大声を出すという行為にはトコトン無縁そうなのだが、そのぶん尻尾に感情が大きく反映される。

 スレンダーなシャム猫人間のペルラが、珍しく全身の毛と尻尾をピーンと逆立てて、硬直した姿勢で通路の遠くを凝視していた。その様子に真っ先に気づいたガエルが同じように通路の遠くに目を向け、何とも言えない表情を浮かべて硬直した。

 ヴァルトとキュッリッキのやり取りを見て面白がっていた他のメンバーも、ようやく気づいて、何事かと通路をみやった。ヴァルトとキュッリッキもつられて顔を向ける。

「ちょっ、なに……あれ?」

 ザカリーがそそけだったように呻く。

 ソレをなんと表現するか、といえば、人間の女、だろう。

 豊満な四肢は酒樽を繋げたように分厚く、動くたびに肉が波打ち、輪郭が定まらない。

 巨体という単語に収めるには倍くらい大きく、もはや人間の肥満サイズをゆうに超えていた。

 顔もまた巨大なマシュマロのようにぶよぶよで、真紅に塗りたくった唇は分厚く、テラテラと輝いている。そして振り乱した赤毛はクリクリとパーマがかかっていて、肩のあたりでもつれていた。

 その全身を包む衣服は黒いレースの下着上下のみ。垂れた肉に食い込んでパツンパツンだ。

 女はゆっくりとした歩みでライオン傭兵団に近づいてきている。ひたと向けるその瞳は赤く情熱的で、視線をたどるとルーファスに向いているのが判った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...