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エルアーラ遺跡編
episode421
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赤い血の螺旋を描きながら首がはね、ぼとりと落ちて、冷たい床の上をコロコロと転がった。それから一拍おいて、頭をなくした首からは鮮血が噴き上がり、画面の中を真っ赤に染めあげていく。
真っ白な軍服はソレル国王の血を吸って赤黒く変色し、優雅に死体の前に立つベルトルドの姿を、より凄惨に染め上げた。
ベルトルドはあえて血をかぶって演出をし、説得力を持たせた。実際、返り血を浴びたベルトルドの姿は、人々の心に恐怖を植え付け、逆らおうという気を消失させたのだ。
『泣く子も黙らせる副宰相』という通り名を口にする者は、どこかバカにしたような侮りを含んで言うことが殆どだ。会ったこともなく、どんな人物かも知らない。それで畏怖を抱くことなど無理だった。
しかしもうベルトルドを侮る者などいないだろう。ハワドウレ皇国に逆らうということは、この男を敵に回すことなのだ。
返り血を浴びた美しい顔は、傲岸不遜な笑みを浮かべ、鋭い眼光を放ちながらカメラを堂々と見据えていた。
生放送が終わると、ベルトルドは手にしている大鎌を無感動に見て、次にアルカネットへ向けてぽいっと放り投げた。アルカネットは上手く柄をキャッチして、そっと大鎌を床に置く。
「お疲れ様です」
「フンッ」
むっすりとしかめっ面を作り、ベルトルドは両手を腰に当てた。
「かぶるなら美女の血のほうがいい! ジジイの血なんぞ臭くてたまらん」
「過剰な演出をしよう、と言いだしたのはあなたですよ」
疲れたような溜息をつくアルカネットを見ながら、ベルトルドは拗ねた子供のように唇を尖らせた。
「着替えを持ってこいって言うからなにかと思ったら、こーゆーことだったのネ」
ベルトルドに負けず劣らず、リュリュも拗ねたように眉を寄せた。そのリュリュからアルカネットはスーツケースを受け取ると、中から白い軍服を取り出し、丁寧にシワを伸ばした。
「とにかく着替えてしまいなさい。もう着ているもの全て焼き捨ててしまいます」
「洗濯してもダメ?」
「ダメ。それだけ豪快にかぶったんじゃ落ちないわよっ」
目を丸くするベルトルドに、リュリュは片手をヒラヒラ振りながら答えた。
「えー……俺、このスカーフお気に入りなんだが」
心底残念そうに、ゆるゆるとスカーフを外す。鮮やかな青地に幾何学模様の入った、シルクのスカーフだ。一昨年くらいから愛用しているのもあり、部分的に血を吸って変色しているのが悔やまれてならない。
あんまりにもしょげているベルトルドを見て、アルカネットは苦笑を浮かべた。
「同じ柄のものがあるか、あとで探しておきます」
途端ベルトルドの顔がパッと明るくなり、嬉しそうな笑顔になった。が、
「血のべっとりついた顔で、中年が無邪気な笑顔を浮かべないでください。不気味でしょうがない」
そうボソッとシ・アティウスが呟いた。それに素早く反応し、ベルトルドはムッと目を眇める。
「お前にだけは言われたくないぞ、この能面でエロ面(ヅラ)のくせに!」
緩く天然パーマの入った髪をかきあげながら、シ・アティウスはヤレヤレと肩で息をついた。何かにつけて能面だのエロ面だのと言われ放題だが、何があっても常にあまり表情を動かさないせいもある。感情から表情が浮かぶこともある、という当人の説明はほぼ黙殺されていた。もっぱら他人のために表情を作るのがメンドくさい、というのが理由らしい。
顔の特徴としては唇がやや厚めで、更に色の入ったレンズの眼鏡をかけているから、それで見た目がエロイというのがベルトルドの言い分である。ただの偏見をこじつけた言い分だが、シ・アティウスからしてみたら、そんなことはどうでもよかったので、好き放題勝手に言わせていた。
真っ白な軍服はソレル国王の血を吸って赤黒く変色し、優雅に死体の前に立つベルトルドの姿を、より凄惨に染め上げた。
ベルトルドはあえて血をかぶって演出をし、説得力を持たせた。実際、返り血を浴びたベルトルドの姿は、人々の心に恐怖を植え付け、逆らおうという気を消失させたのだ。
『泣く子も黙らせる副宰相』という通り名を口にする者は、どこかバカにしたような侮りを含んで言うことが殆どだ。会ったこともなく、どんな人物かも知らない。それで畏怖を抱くことなど無理だった。
しかしもうベルトルドを侮る者などいないだろう。ハワドウレ皇国に逆らうということは、この男を敵に回すことなのだ。
返り血を浴びた美しい顔は、傲岸不遜な笑みを浮かべ、鋭い眼光を放ちながらカメラを堂々と見据えていた。
生放送が終わると、ベルトルドは手にしている大鎌を無感動に見て、次にアルカネットへ向けてぽいっと放り投げた。アルカネットは上手く柄をキャッチして、そっと大鎌を床に置く。
「お疲れ様です」
「フンッ」
むっすりとしかめっ面を作り、ベルトルドは両手を腰に当てた。
「かぶるなら美女の血のほうがいい! ジジイの血なんぞ臭くてたまらん」
「過剰な演出をしよう、と言いだしたのはあなたですよ」
疲れたような溜息をつくアルカネットを見ながら、ベルトルドは拗ねた子供のように唇を尖らせた。
「着替えを持ってこいって言うからなにかと思ったら、こーゆーことだったのネ」
ベルトルドに負けず劣らず、リュリュも拗ねたように眉を寄せた。そのリュリュからアルカネットはスーツケースを受け取ると、中から白い軍服を取り出し、丁寧にシワを伸ばした。
「とにかく着替えてしまいなさい。もう着ているもの全て焼き捨ててしまいます」
「洗濯してもダメ?」
「ダメ。それだけ豪快にかぶったんじゃ落ちないわよっ」
目を丸くするベルトルドに、リュリュは片手をヒラヒラ振りながら答えた。
「えー……俺、このスカーフお気に入りなんだが」
心底残念そうに、ゆるゆるとスカーフを外す。鮮やかな青地に幾何学模様の入った、シルクのスカーフだ。一昨年くらいから愛用しているのもあり、部分的に血を吸って変色しているのが悔やまれてならない。
あんまりにもしょげているベルトルドを見て、アルカネットは苦笑を浮かべた。
「同じ柄のものがあるか、あとで探しておきます」
途端ベルトルドの顔がパッと明るくなり、嬉しそうな笑顔になった。が、
「血のべっとりついた顔で、中年が無邪気な笑顔を浮かべないでください。不気味でしょうがない」
そうボソッとシ・アティウスが呟いた。それに素早く反応し、ベルトルドはムッと目を眇める。
「お前にだけは言われたくないぞ、この能面でエロ面(ヅラ)のくせに!」
緩く天然パーマの入った髪をかきあげながら、シ・アティウスはヤレヤレと肩で息をついた。何かにつけて能面だのエロ面だのと言われ放題だが、何があっても常にあまり表情を動かさないせいもある。感情から表情が浮かぶこともある、という当人の説明はほぼ黙殺されていた。もっぱら他人のために表情を作るのがメンドくさい、というのが理由らしい。
顔の特徴としては唇がやや厚めで、更に色の入ったレンズの眼鏡をかけているから、それで見た目がエロイというのがベルトルドの言い分である。ただの偏見をこじつけた言い分だが、シ・アティウスからしてみたら、そんなことはどうでもよかったので、好き放題勝手に言わせていた。
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