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エルアーラ遺跡編
episode420
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8月6日夜明け前に、自由奪還軍とハワドウレ皇国の開戦の報が、ブルーベル将軍によって世界中に発布された。しかし正午を回った頃、いきなりベルトルドの名で終戦宣言が大々的に発表される。
惑星ヒイシに住む全ての人々は、モニター中継を必ず見るよう通達されて、驚愕が世界中を走り抜けた。
ベルマン公国、エクダル国、ボルクンド王国の戦場各地では、その報に兵士たちは呆気にとられてしまい、敵味方関係なく、互いに攻撃の手を止めて顔を見合わせていた。まるで肩透かしを食らったような、そんな気分に殆どの軍人たちが陥っている。そして稼ぎ時と勢い込む傭兵たちの戦意をもズッコケさせていた。これだけの大規模な戦争が、ほんの6,7時間程度で終わるなど、前代未聞である。
終戦宣言がなされてから2時間ほど経ち、世界中に設置されていたモニターに、ベルトルドとソレル国王の姿が映し出された。
世界中の人々が複雑な思いでモニターを見つめる中、画面の向こう側でベルトルドは不敵な笑みを浮かべていた。
「ソレル王国、ベルマン公国、エクダル国、ボルクンド王国の4カ国による連合逆臣軍が、ハワドウレ皇国に楯突いてより今日(こんにち)に至るまで、無用な不安や迷惑をかけたことを、皇王になり代わり、副宰相として世界中の民に詫びる。――本日未明に開戦の報を流したが、此度の首謀者であるソレル国王ヴェイセル・アハヴォ・メリロットを緊急逮捕したので、早急に終戦宣言をさせてもらった」
一気に白い毛が増えた頭髪を振り乱し、王冠のサークレットもなく、憔悴しきった死相の浮かぶ表情を、隠すこともないソレル国王の顔がアップで映し出される。
その顔を見たとき、自由奪還軍の兵士たちの士気が瞬時に崩れ去った。傭兵たちも舌打ちして、その場に座り込んでしまっている。早すぎる終戦宣言よりも、このソレル国王の顔が全てを如実に物語っていると、確信できてしまったからだ。
淡々とした感情のこもらぬベルトルドの声が、世界中のモニターから流れ響く。
「召喚士の命を狙い、ハワドウレ皇国に噛み付いて戦争を起こした首謀者を、今、ここで処刑する」
ベルトルドの足元に跪かされたソレル国王は、真っ黒な囚人服を着せられ、両手を後ろに括られている。その顔にはジワジワと恐怖が浮かび上がり、目は狂気を孕んで、口はわなわなと震えていた。
土気色になった肌には冷や汗が滲み出し、閉じない口の端からは涎が垂れている。
そこには一人の哀れな老人がいるだけで、王としての威厳の欠片もなかった。身近に迫った死を恐れるだけの、哀れな存在だ。
次にモニターには、アルカネットが惨殺したベルマン公王ヘッグルンド、エクダル国首相アッペルトフト、ボルクンド国王バーリエルの死体がそのまま映し出された。
ドス黒く変色した血だまりの中に無造作に捨て置かれ、自らの死体の胸に首を置いた凄まじい画だ。
その映像を見たものは、悲鳴を上げ気を失う者、嘔吐する者、動けなくなる者、唖然とする者など続出した。本来ならこうしたものは公にしないものだが、ベルトルドはあえて映し出させていた。
そして画面は切り替わり、再びベルトルドとソレル国王の姿が映し出された。
さっきと変わったのは、ベルトルドの手にひと振りの大鎌が握られている。その鋭く光る刃は、ソレル国王の喉元に突きつけられていた。
これから何が行われるか、すべての人々が理解していた。
残酷な映像を直視できない者は、モニターの前にはもういない。たとえ命令であってもそれ以上見続けることに耐えられない者たちは、目を隠すか目を瞑って放送が終わるのを必死に願っていた。
「召喚士の命を狙い、ハワドウレ皇国に逆らった、それだけでも罪は深く重い。更に自国の民を、他国の民を戦乱に巻き込み、死を喚び遺恨を植え付けた罪はもっと重い。裁判など開くに値せぬ。――今後、このようなことが二度と起きぬよう、企む者が現れぬよう、全ての者は、この老人の末路をしかと見届けよ!」
ベルトルドは大鎌を振り上げると、躊躇なく一気に振り下ろした。
惑星ヒイシに住む全ての人々は、モニター中継を必ず見るよう通達されて、驚愕が世界中を走り抜けた。
ベルマン公国、エクダル国、ボルクンド王国の戦場各地では、その報に兵士たちは呆気にとられてしまい、敵味方関係なく、互いに攻撃の手を止めて顔を見合わせていた。まるで肩透かしを食らったような、そんな気分に殆どの軍人たちが陥っている。そして稼ぎ時と勢い込む傭兵たちの戦意をもズッコケさせていた。これだけの大規模な戦争が、ほんの6,7時間程度で終わるなど、前代未聞である。
終戦宣言がなされてから2時間ほど経ち、世界中に設置されていたモニターに、ベルトルドとソレル国王の姿が映し出された。
世界中の人々が複雑な思いでモニターを見つめる中、画面の向こう側でベルトルドは不敵な笑みを浮かべていた。
「ソレル王国、ベルマン公国、エクダル国、ボルクンド王国の4カ国による連合逆臣軍が、ハワドウレ皇国に楯突いてより今日(こんにち)に至るまで、無用な不安や迷惑をかけたことを、皇王になり代わり、副宰相として世界中の民に詫びる。――本日未明に開戦の報を流したが、此度の首謀者であるソレル国王ヴェイセル・アハヴォ・メリロットを緊急逮捕したので、早急に終戦宣言をさせてもらった」
一気に白い毛が増えた頭髪を振り乱し、王冠のサークレットもなく、憔悴しきった死相の浮かぶ表情を、隠すこともないソレル国王の顔がアップで映し出される。
その顔を見たとき、自由奪還軍の兵士たちの士気が瞬時に崩れ去った。傭兵たちも舌打ちして、その場に座り込んでしまっている。早すぎる終戦宣言よりも、このソレル国王の顔が全てを如実に物語っていると、確信できてしまったからだ。
淡々とした感情のこもらぬベルトルドの声が、世界中のモニターから流れ響く。
「召喚士の命を狙い、ハワドウレ皇国に噛み付いて戦争を起こした首謀者を、今、ここで処刑する」
ベルトルドの足元に跪かされたソレル国王は、真っ黒な囚人服を着せられ、両手を後ろに括られている。その顔にはジワジワと恐怖が浮かび上がり、目は狂気を孕んで、口はわなわなと震えていた。
土気色になった肌には冷や汗が滲み出し、閉じない口の端からは涎が垂れている。
そこには一人の哀れな老人がいるだけで、王としての威厳の欠片もなかった。身近に迫った死を恐れるだけの、哀れな存在だ。
次にモニターには、アルカネットが惨殺したベルマン公王ヘッグルンド、エクダル国首相アッペルトフト、ボルクンド国王バーリエルの死体がそのまま映し出された。
ドス黒く変色した血だまりの中に無造作に捨て置かれ、自らの死体の胸に首を置いた凄まじい画だ。
その映像を見たものは、悲鳴を上げ気を失う者、嘔吐する者、動けなくなる者、唖然とする者など続出した。本来ならこうしたものは公にしないものだが、ベルトルドはあえて映し出させていた。
そして画面は切り替わり、再びベルトルドとソレル国王の姿が映し出された。
さっきと変わったのは、ベルトルドの手にひと振りの大鎌が握られている。その鋭く光る刃は、ソレル国王の喉元に突きつけられていた。
これから何が行われるか、すべての人々が理解していた。
残酷な映像を直視できない者は、モニターの前にはもういない。たとえ命令であってもそれ以上見続けることに耐えられない者たちは、目を隠すか目を瞑って放送が終わるのを必死に願っていた。
「召喚士の命を狙い、ハワドウレ皇国に逆らった、それだけでも罪は深く重い。更に自国の民を、他国の民を戦乱に巻き込み、死を喚び遺恨を植え付けた罪はもっと重い。裁判など開くに値せぬ。――今後、このようなことが二度と起きぬよう、企む者が現れぬよう、全ての者は、この老人の末路をしかと見届けよ!」
ベルトルドは大鎌を振り上げると、躊躇なく一気に振り下ろした。
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