片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
438 / 882
エルアーラ遺跡編

episode419

しおりを挟む
 ソレル王国首都アルイールの王宮に、仮設の本営を構えるハワドウレ皇国軍は、明け方にブルーベル将軍が開戦を世界に向けて発布したことで、慌ただしく通信兵などが走り回っていた。

 謁見の間を会議室として使っているブルーベル将軍と、ベルトルドの秘書官リュリュは、次々と戦場からもたらされる報に目を通しながら、忙しく指示を出していた。

 開戦の号令とともに、各戦場が本格的な戦闘状態になった。それまでは小競り合いや衝突はしていたが、皇国軍側が整いきらない中での戦闘になったため、後手に回りすぎていたのだ。

「あっちに地の利があって、こちらが準備不足という点を差し引いても、我が軍の無様さが泣けてくるわねえ」

 柳のような眉をキッと釣り上げて、リュリュは不満そうに報告書を読んでいた。口頭で報告されるとイライラして、通信兵の首根っこを捕まえて押し倒したくなるから、走り書きメモでいいので書面で提出させている。

 大国軍と奉りあげられすぎて、実戦経験が少なすぎる兵士がほとんどだ、という事実が世界に知れ渡りそうな現場の情報が、つぶさに綴られている。情報操作でもしないと、皇国の威信に関わりそうだ。

「数の上では申し分無さ過ぎるんですが、これでは烏合の衆状態ですなあ~」

 朝は苦手です、とぼやきながらのんびりとした口調でブルーベル将軍が唸る。

 前線に送っているのは全て正規兵たちである。ベルトルドの命令で、徴兵は使わないように指示が出ているためだ。

 日々訓練をして演習も行っていたが、実戦と練習では雲泥の差だったようで、正規兵たちの動きが悪すぎると報告がなされていた。

 あまり寝ていないこともあり、つぶらな瞳をぱちくりさせながら、ブルーベル将軍は向かい側に立つリュリュを見つめた。

「戦争慣れしてない軍人って、ある意味助かるけど、実際戦争が起こって戦場へ行ったら、役に立たないじゃ目も当てられないわ。オマケにパニックに陥って、非力な民間人に手をかける、手を出すじゃ何しに来たんだかってかんじよ」

 規律を重んじる軍隊でも、敵国だからという慢心と、軍事力という堂々とした武力を笠に着るような低俗な者も多い。それらを管理処分するために、警務部隊と尋問・拷問部隊も投入しているが、それでも抜けはある。

 ンもー早くしなさいよベルっ、とリュリュが親指の爪を噛んだところで、突然ピクリと身体を震わせた。それに気づいたブルーベル将軍は、訝しげにリュリュを見る。

「やっと連絡がきたわ。これから全世界へ向けて生放送するって言ってる」

「ソレル王の身柄を抑えたんですね」

「ええ。戦争の後始末は長引きそうだけど、首謀者の処刑だけは、すぐに済ませておけそうだわ」

 リュリュとブルーベル将軍は頷き合うと、ブルーベル将軍は部屋の隅に控えていた副官のハギを呼んだ。

「設置してあるモニターを、全国民は見るよう、緊急通達するよう本国に連絡してください」

「了解です将軍」

 パンダのトゥーリ族であるハギは、短い腕で敬礼すると、トコトコと可愛い足音が聞こえてきそうな歩調で、謁見の間を退室していった。

「………いつ見ても和むわあ……ハギたん」

「ほっほっほっ、召喚士のお嬢さんにも人気がありますねえ」

「初対面でいきなり飛びつくくらいにね」

 以前総帥本部で、キュッリッキがハギに飛びついて頬ずりしたときのことを思い出し、2人は「ぷっ」と吹き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...