430 / 882
エルアーラ遺跡編
episode411
しおりを挟む
「なあ、アルカネット」
「なんです?」
「お前にだから、俺は正直に言う」
「はい、どうぞ」
「迷子になった!!」
両手を腰に当てふんぞり返って威張りながら、ベルトルドは「ふふん」と得意げに胸を張る。
41歳にもなる主を、つくづくと見つめながら、アルカネットは露骨に嫌味な溜息を吐きだした。
(迷子になって、なぜ威張る…)
キュッリッキたちライオン傭兵団より先行してエルアーラ遺跡に降り立ち、襲いかかってくるソレル王国兵たちを、適当に始末しながら進んでいるがこの有様だ。派手なパフォーマンスで先に出たというのに、これで出遅れていたら恥ずかしさこの上ない。
「だから地図を持っていきなさいと、あれほど言ったんです」
「だってー、お前が一緒だから大丈夫だと思ったんだ」
「あいにく私は、あなたほどここへは来ていませんから、内部は判らないんです」
額を軽く指先で抑えながら、アルカネットは疲れたように首をゆるゆると振った。
「えー……」
拗ね口調でぶつぶつ呟きながら、顔をしかめてベルトルドは辺りをキョロキョロと見回した。
ベルトルドとアルカネットは、遺跡の中枢部を目指していた。しかし広大な遺跡の中は迷路のようで、目的地に着くことができない。
周囲は皇都イララクスのハーメンリンナ地下にそっくりな風景で、更に標識もなく時々ソレル兵と出くわす程度だから、現在位置がさっぱり掴めない。ソレル王国兵を殺す前に問いただしても記憶を読んでも、彼らもよくわかっていないようだったから困ってしまう。観光施設でもないので随所に案内書など当然置いてない。
いつもケレヴィルの職員と共に中へ入っていたので、ベルトルドは道を覚える必要がなかったし覚える気もなかった。入口のエントランスでふんぞり返っていれば、誰かが迎えに来て丁寧に案内してくれたからだ。
その怠慢のツケがこうして巡ってきたので、こめかみに青筋を浮き出させながら、中枢部を探して闇雲に歩き回っているのである。
「埓があかーーーーーーーーーーん!!」
ついにベルトルドは両手を上にあげて、子供のように大きな声を張り上げた。
「誰だこんな複雑構造なんぞに作った馬鹿野郎は!!」
「1万年前のヤルヴィレフト王家です」
「ケシカランぞ!!」
的確にツッコむ天使のような微笑みを向けるアルカネットを、ベルトルドは鬼の形相で睨みつけた。そしてふと真顔に戻ると、なにか閃いた表情(かお)で、片手をポンッと掌に打ち付けコクコクと頷く。
「よし、シ・アティウスをここに転送しよう。やつに案内させればいいだけの話じゃないか」
名案だぞ俺! とご満悦の表情を浮かべてグッと握り拳を作るベルトルドに、アルカネットはきっぱりと首を横に振った。
「およしなさい。彼にはナルバ山の遺跡の方を任せてあるんですよ。作業を中断させたら、計画が遅延してしまいます」
「……俺たちも遅延してるじゃないか」
「一体、誰のせいなんでしょうね~?」
「ぐっ……」
的を射すぎていて、喉元に文句が詰まる。
「だったら、ここへリュリュを呼べばいいでしょう。彼なら問題なく中枢部に案内してくれますよ。多少、”小言”付きで」
ベルトルドは腕をバッテンに交差させ、首を激しく横に振った。
「アイツの小言はお前の比じゃないんだぞ!! ずえったい断る!!」
「なんです?」
「お前にだから、俺は正直に言う」
「はい、どうぞ」
「迷子になった!!」
両手を腰に当てふんぞり返って威張りながら、ベルトルドは「ふふん」と得意げに胸を張る。
41歳にもなる主を、つくづくと見つめながら、アルカネットは露骨に嫌味な溜息を吐きだした。
(迷子になって、なぜ威張る…)
キュッリッキたちライオン傭兵団より先行してエルアーラ遺跡に降り立ち、襲いかかってくるソレル王国兵たちを、適当に始末しながら進んでいるがこの有様だ。派手なパフォーマンスで先に出たというのに、これで出遅れていたら恥ずかしさこの上ない。
「だから地図を持っていきなさいと、あれほど言ったんです」
「だってー、お前が一緒だから大丈夫だと思ったんだ」
「あいにく私は、あなたほどここへは来ていませんから、内部は判らないんです」
額を軽く指先で抑えながら、アルカネットは疲れたように首をゆるゆると振った。
「えー……」
拗ね口調でぶつぶつ呟きながら、顔をしかめてベルトルドは辺りをキョロキョロと見回した。
ベルトルドとアルカネットは、遺跡の中枢部を目指していた。しかし広大な遺跡の中は迷路のようで、目的地に着くことができない。
周囲は皇都イララクスのハーメンリンナ地下にそっくりな風景で、更に標識もなく時々ソレル兵と出くわす程度だから、現在位置がさっぱり掴めない。ソレル王国兵を殺す前に問いただしても記憶を読んでも、彼らもよくわかっていないようだったから困ってしまう。観光施設でもないので随所に案内書など当然置いてない。
いつもケレヴィルの職員と共に中へ入っていたので、ベルトルドは道を覚える必要がなかったし覚える気もなかった。入口のエントランスでふんぞり返っていれば、誰かが迎えに来て丁寧に案内してくれたからだ。
その怠慢のツケがこうして巡ってきたので、こめかみに青筋を浮き出させながら、中枢部を探して闇雲に歩き回っているのである。
「埓があかーーーーーーーーーーん!!」
ついにベルトルドは両手を上にあげて、子供のように大きな声を張り上げた。
「誰だこんな複雑構造なんぞに作った馬鹿野郎は!!」
「1万年前のヤルヴィレフト王家です」
「ケシカランぞ!!」
的確にツッコむ天使のような微笑みを向けるアルカネットを、ベルトルドは鬼の形相で睨みつけた。そしてふと真顔に戻ると、なにか閃いた表情(かお)で、片手をポンッと掌に打ち付けコクコクと頷く。
「よし、シ・アティウスをここに転送しよう。やつに案内させればいいだけの話じゃないか」
名案だぞ俺! とご満悦の表情を浮かべてグッと握り拳を作るベルトルドに、アルカネットはきっぱりと首を横に振った。
「およしなさい。彼にはナルバ山の遺跡の方を任せてあるんですよ。作業を中断させたら、計画が遅延してしまいます」
「……俺たちも遅延してるじゃないか」
「一体、誰のせいなんでしょうね~?」
「ぐっ……」
的を射すぎていて、喉元に文句が詰まる。
「だったら、ここへリュリュを呼べばいいでしょう。彼なら問題なく中枢部に案内してくれますよ。多少、”小言”付きで」
ベルトルドは腕をバッテンに交差させ、首を激しく横に振った。
「アイツの小言はお前の比じゃないんだぞ!! ずえったい断る!!」
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる