427 / 882
エルアーラ遺跡編
episode408
しおりを挟む
エルアーラ遺跡の中の入口付近で、ライオン傭兵団は未曾有の危機に直面し、右往左往していた。
一緒にいたキュッリッキが、忽然と姿を消してしまったのだ。
彼女に付き従うフェンリルとフローズヴィトニルの仔犬2匹は取り残されたまま、2匹を置いてキュッリッキが黙って姿を消す道理がない。
「あ~~~ん、わずかな時間でドコいっちゃったのよぉおおお」
頭を両手で押さえながら、フロア内をうろうろ歩くマリオンが喚く。
「地上にもいねえ、先に遺跡の中に駆け込んでいったわけでもなさそうだし、困ったなおい」
そんなマリオンに同意の頷きを返しながら、タバコを忙しなくふかしてギャリーは腕を組んだ。
キュッリッキがいないことに気づいたメルヴィンが声を上げてから、すでに30分は経過している。
魔法を使ってシビルがキュッリッキを探索したが、遺跡の中にキュッリッキの気配を感じただけで、位置の特定には至ってない。気配は曖昧だし、遺跡の構造がよくわからないうえ、与えられている簡素な地図では二次災害を招きかねない。それにルーファスとマリオンの念話にも応じる気配がなかった。
フェンリルとフローズヴィトニルがじっと動かないところを見ると、生命の危険に見舞われているようではないと推察した。それに万が一行き違いがあったら困るので、フロアを動かず待機している。
「あんときみたいなコトに、なってなきゃいいんだが……」
降りてきた時の仮設階段に腰を下ろしていたザカリーが、落ち込んだ様子で俯きながらボソリと言った。
「もしそんな状況だったら、このちび助たちが真っ先に動いてるだろう」
ギャリーは組んだ腕から人差し指だけ出して、足元の2匹を指す。そして心中を察したように、拳でコツンとザカリーの頭を軽く小突いた。
ザカリーの言うあんときとは、数ヶ月前にソレル王国ナルバ山の遺跡で起こった事件のことだ。あの事件はいまだ、ライオン傭兵団の皆の心に重くのしかかっている。
冷たい石畳の上で血まみれになり、息も絶え絶えのキュッリッキの姿を見たとき、皆愕然としたのだ。
凄い力を持つという召喚士でありながら、何故あんなことになったのだろうか。僅かな時間で様々な奇跡を見せてくれた少女が、怪物相手になす術もなかったのかと。
力が封じられていたことは後日知ったことだが、力を封じられれば何もできない、非力な少女でしかない。召喚士とはそのようなものなのかと、痛烈に思い知らされた。
実際召喚士など目にし、接したのは初めてのことである。
スキル〈才能〉が判明すれば即座に国の保護下に置かれ、ハワドウレ皇国ならばハーメンリンナの中に隠され、一般の目に晒されることなどないからだ。希に軍事演習の時にチラリと姿を見る機会があった者は幾人かいたが、キュッリッキのように傭兵として一般人の中をうろうろする召喚士など前例がない。
神の世界アルケラから、そこに住むモノたちを招いて行使できるのが召喚士である、と一般的には知らされている。なので、”凄い”とか”強い”などという思い込みがあったのは否定できない。
神の力を操れるということは、すでに人間離れしている。できないことは何もなく、その身を危険にさらされるなどありえないと。だが、力を封じられれば、ただの人間なのだ。
一緒にいたキュッリッキが、忽然と姿を消してしまったのだ。
彼女に付き従うフェンリルとフローズヴィトニルの仔犬2匹は取り残されたまま、2匹を置いてキュッリッキが黙って姿を消す道理がない。
「あ~~~ん、わずかな時間でドコいっちゃったのよぉおおお」
頭を両手で押さえながら、フロア内をうろうろ歩くマリオンが喚く。
「地上にもいねえ、先に遺跡の中に駆け込んでいったわけでもなさそうだし、困ったなおい」
そんなマリオンに同意の頷きを返しながら、タバコを忙しなくふかしてギャリーは腕を組んだ。
キュッリッキがいないことに気づいたメルヴィンが声を上げてから、すでに30分は経過している。
魔法を使ってシビルがキュッリッキを探索したが、遺跡の中にキュッリッキの気配を感じただけで、位置の特定には至ってない。気配は曖昧だし、遺跡の構造がよくわからないうえ、与えられている簡素な地図では二次災害を招きかねない。それにルーファスとマリオンの念話にも応じる気配がなかった。
フェンリルとフローズヴィトニルがじっと動かないところを見ると、生命の危険に見舞われているようではないと推察した。それに万が一行き違いがあったら困るので、フロアを動かず待機している。
「あんときみたいなコトに、なってなきゃいいんだが……」
降りてきた時の仮設階段に腰を下ろしていたザカリーが、落ち込んだ様子で俯きながらボソリと言った。
「もしそんな状況だったら、このちび助たちが真っ先に動いてるだろう」
ギャリーは組んだ腕から人差し指だけ出して、足元の2匹を指す。そして心中を察したように、拳でコツンとザカリーの頭を軽く小突いた。
ザカリーの言うあんときとは、数ヶ月前にソレル王国ナルバ山の遺跡で起こった事件のことだ。あの事件はいまだ、ライオン傭兵団の皆の心に重くのしかかっている。
冷たい石畳の上で血まみれになり、息も絶え絶えのキュッリッキの姿を見たとき、皆愕然としたのだ。
凄い力を持つという召喚士でありながら、何故あんなことになったのだろうか。僅かな時間で様々な奇跡を見せてくれた少女が、怪物相手になす術もなかったのかと。
力が封じられていたことは後日知ったことだが、力を封じられれば何もできない、非力な少女でしかない。召喚士とはそのようなものなのかと、痛烈に思い知らされた。
実際召喚士など目にし、接したのは初めてのことである。
スキル〈才能〉が判明すれば即座に国の保護下に置かれ、ハワドウレ皇国ならばハーメンリンナの中に隠され、一般の目に晒されることなどないからだ。希に軍事演習の時にチラリと姿を見る機会があった者は幾人かいたが、キュッリッキのように傭兵として一般人の中をうろうろする召喚士など前例がない。
神の世界アルケラから、そこに住むモノたちを招いて行使できるのが召喚士である、と一般的には知らされている。なので、”凄い”とか”強い”などという思い込みがあったのは否定できない。
神の力を操れるということは、すでに人間離れしている。できないことは何もなく、その身を危険にさらされるなどありえないと。だが、力を封じられれば、ただの人間なのだ。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる