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エルアーラ遺跡編
episode406
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確かにレアと呼ばれる召喚スキル〈才能〉を持っているが、自分のどこが他人を犠牲にしてまで、守られなければならないか見当もつかない。
片方の翼は未発達で、空を飛ぶこともできない。出来損ないの自分が、どうしてそこまで言われるのだろう。キュッリッキの頭は、ますます混乱していた。
「アタシ、アイオン族だけど、片方の翼がナイの、生まれた時から…。だから親にも捨てられたし、イルマタル帝国も見捨てたし、特別なんかじゃないよ」
言葉に出すだけで、胸が締め付けられるほど苦しくなる。
本当に特別な存在なら、親に捨てられることもなく、国にも見捨てられなかったはずだ。それこそ、他の召喚スキル〈才能〉を持って生まれた者たちのように、生国に保護され大切にされていただろう。
「ライオン傭兵団のみんなは、仕事仲間だもん。護衛なんかじゃない。アタシだって、プロの傭兵なんだから!」
キッと力強くヒューゴを睨む。
「傭兵って………キミが!?」
驚いたように目を見開き、ヒューゴはキュッリッキを食い入るように見つめた。
「驚いたな、それだけ時代が変わったってことなのか……? 随分と無茶をさせるんだな、今の国は」
召喚スキル〈才能〉を持つ者が、傭兵をしているなど前例がないらしいが、キュッリッキはギルドに正式に認められた傭兵である。
「しかし何故キミみたいに綺麗な女の子が、傭兵なんて野蛮なものに志願したんだい? 試してみたいのなら、もっとほかの安全な職業を選べばいいのに。自らを危険にさらすような真似をするなんて」
「好きでそうしたんじゃないんだから!!!」
たまらずキュッリッキは怒鳴った。叱るように言われて、カッと頭に血が上る。
「アタシだって捨てられなきゃ普通に育ってたもん! 傭兵なんてやらずにすんだんだもん!! でもしょうがないじゃない、生きなきゃいけなかったんだから」
こみ上げてくる怒りのために、息遣いが粗くなる。握った拳が震えた。
「アタシだって普通の女の子のようになりたかった! お父さんとお母さんに優しくしてもらいたかったもん!」
綺麗な洋服や美味しい食べ物を売っている店が並ぶ街を、家族でショッピングしながら歩くことに憧れた。同い年の女の子たちと、勉強をしたりスポーツを楽しんだり、他愛ないお喋りをしたり、そんな当たり前の世界に、心底憧れた。
「おかえりなさい」「いってらっしゃい」そう言ってくれる家族の存在が欲しかった。
でも、キュッリッキには何もない。片翼で生まれてきた、それだけで人生は狂ったのだ。
いつも思っている。
――それは自分のせいなの? そういうふうにアタシは生まれたかったの?
生まれてきてしまったのだからしょうがない、などと、判りきっていることを言われたくもない。
こんな、いつからユーレイになっているか判らないような男に、何も知らないくせに、したり顔でとやかく言われる筋合いなどないのだ。
片方の翼は未発達で、空を飛ぶこともできない。出来損ないの自分が、どうしてそこまで言われるのだろう。キュッリッキの頭は、ますます混乱していた。
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言葉に出すだけで、胸が締め付けられるほど苦しくなる。
本当に特別な存在なら、親に捨てられることもなく、国にも見捨てられなかったはずだ。それこそ、他の召喚スキル〈才能〉を持って生まれた者たちのように、生国に保護され大切にされていただろう。
「ライオン傭兵団のみんなは、仕事仲間だもん。護衛なんかじゃない。アタシだって、プロの傭兵なんだから!」
キッと力強くヒューゴを睨む。
「傭兵って………キミが!?」
驚いたように目を見開き、ヒューゴはキュッリッキを食い入るように見つめた。
「驚いたな、それだけ時代が変わったってことなのか……? 随分と無茶をさせるんだな、今の国は」
召喚スキル〈才能〉を持つ者が、傭兵をしているなど前例がないらしいが、キュッリッキはギルドに正式に認められた傭兵である。
「しかし何故キミみたいに綺麗な女の子が、傭兵なんて野蛮なものに志願したんだい? 試してみたいのなら、もっとほかの安全な職業を選べばいいのに。自らを危険にさらすような真似をするなんて」
「好きでそうしたんじゃないんだから!!!」
たまらずキュッリッキは怒鳴った。叱るように言われて、カッと頭に血が上る。
「アタシだって捨てられなきゃ普通に育ってたもん! 傭兵なんてやらずにすんだんだもん!! でもしょうがないじゃない、生きなきゃいけなかったんだから」
こみ上げてくる怒りのために、息遣いが粗くなる。握った拳が震えた。
「アタシだって普通の女の子のようになりたかった! お父さんとお母さんに優しくしてもらいたかったもん!」
綺麗な洋服や美味しい食べ物を売っている店が並ぶ街を、家族でショッピングしながら歩くことに憧れた。同い年の女の子たちと、勉強をしたりスポーツを楽しんだり、他愛ないお喋りをしたり、そんな当たり前の世界に、心底憧れた。
「おかえりなさい」「いってらっしゃい」そう言ってくれる家族の存在が欲しかった。
でも、キュッリッキには何もない。片翼で生まれてきた、それだけで人生は狂ったのだ。
いつも思っている。
――それは自分のせいなの? そういうふうにアタシは生まれたかったの?
生まれてきてしまったのだからしょうがない、などと、判りきっていることを言われたくもない。
こんな、いつからユーレイになっているか判らないような男に、何も知らないくせに、したり顔でとやかく言われる筋合いなどないのだ。
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