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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode395
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キュッリッキにはそうした後ろ盾などなかった。フェンリルと一緒に勝手に戦場を走り回って、周囲の大人たちに実力を認めさせた。ときには追い払われることも、敵と間違われて襲われることもよくあった。召喚士が一般的に表に出てくることなどないから、召喚すると悪魔などと呼ばれ、勘違いされることもあったのだ。
3年ほど無謀な行動を繰り返し、やっと傭兵ギルドに認められ、仕事を回してもらえるようになり、やがて傭兵として一人立ちした。
戦場に向かうことは怖くない。フェンリルが常に一緒だし、今回はフローズヴィトニルもいる。そしてアルケラの仲間たちが大勢控えているからだ。
戦いの前に高揚感を覚えたり、感慨にふけることは一度もなかった。生きていくために仕事をするだけで、食べるものを得るために戦うだけだったから。
でも今は、大きく違っている。
確かに生きるために働く、食べるために働くことに違いはない。しかし、もっとも近しい仲間たちができて、その仲間たちと一緒に戦場へ向かうのだ。
ナルバ山での失態は全て自分のせいだ。ザカリーの言葉に我を忘れて神殿に入らなければ、起こらなかった事なのだから。
怪我をしたのは自分だけれど、そのせいでザカリーもアルカネットに粛清されかかったし、未だにみんな責められる。
もう、一人で戦わなくていい。今は仲間たちと一緒に戦えるのだから。今度は失敗しないように、上手に動こう。
それを思うと、僅かな緊張と期待と不安がこみ上げてきて、心臓がドキドキするのだった。
「眠らないんですか?」
物思いにふける中穏やかに声をかけられて、キュッリッキは正面に目を向けた。
「メルヴィン」
今度は別の意味で、心臓がドキドキと早鐘を打ち始めた。
「えっと、ちょっと涼んでたの」
「ワイ・メア大陸に比べると、こちらの大陸は暑いですからね」
サンルームに入ってくるメルヴィンを、瞬くことも忘れたようにじっと見つめる。
シャワーを浴びたあとだろうか、髪は湿っているようだしバスローブに着替えていた。
「隣に座ってもいいですか?」
「ど、どうぞ」
キュッリッキはメルヴィンが座りやすいように少し横にずれた。
「ありがとうございます」
そう言ってキュッリッキを見たメルヴィンは、ほんの少し頬を赤くすると、困ったように目線をそらせた。
薄暗くて遠目からは気付かなかったが、キュッリッキの着ている寝巻きは、肌が透けるような薄い布地で出来ていた。色気に欠ける身体付きとは言え、布越しに透ける小さな胸や突起は目のやり場にとても困る、悩ましいものだ。
キュッリッキは少しも気づいていないようで、メルヴィンの前で惜しげもなくさらしている。だがそのことを口に出していいものかどうか、メルヴィンは判断に困った。
こんな時ルーファスだったら、冗談交じりに言えるのだろうけど、メルヴィンはそのテの冗談を言うセンスには欠けていた。かえって説教じみたことになるか、突慳貪な態度になりそうで自信がない。
なるべく見ないように意識するものの、つい目がチラチラと見てしまうのは、悲しい男の性だった。
露骨に見えるよりも、薄布越しに透けて見えるほうが、何倍も妖艶に映るのだ。そのことをこの少女は、自覚しているのだろうか。
「寝るにはまだ早い時間ですが、明日のこともありますし、早めに身体を休めておいたほうがいいですよ」
3年ほど無謀な行動を繰り返し、やっと傭兵ギルドに認められ、仕事を回してもらえるようになり、やがて傭兵として一人立ちした。
戦場に向かうことは怖くない。フェンリルが常に一緒だし、今回はフローズヴィトニルもいる。そしてアルケラの仲間たちが大勢控えているからだ。
戦いの前に高揚感を覚えたり、感慨にふけることは一度もなかった。生きていくために仕事をするだけで、食べるものを得るために戦うだけだったから。
でも今は、大きく違っている。
確かに生きるために働く、食べるために働くことに違いはない。しかし、もっとも近しい仲間たちができて、その仲間たちと一緒に戦場へ向かうのだ。
ナルバ山での失態は全て自分のせいだ。ザカリーの言葉に我を忘れて神殿に入らなければ、起こらなかった事なのだから。
怪我をしたのは自分だけれど、そのせいでザカリーもアルカネットに粛清されかかったし、未だにみんな責められる。
もう、一人で戦わなくていい。今は仲間たちと一緒に戦えるのだから。今度は失敗しないように、上手に動こう。
それを思うと、僅かな緊張と期待と不安がこみ上げてきて、心臓がドキドキするのだった。
「眠らないんですか?」
物思いにふける中穏やかに声をかけられて、キュッリッキは正面に目を向けた。
「メルヴィン」
今度は別の意味で、心臓がドキドキと早鐘を打ち始めた。
「えっと、ちょっと涼んでたの」
「ワイ・メア大陸に比べると、こちらの大陸は暑いですからね」
サンルームに入ってくるメルヴィンを、瞬くことも忘れたようにじっと見つめる。
シャワーを浴びたあとだろうか、髪は湿っているようだしバスローブに着替えていた。
「隣に座ってもいいですか?」
「ど、どうぞ」
キュッリッキはメルヴィンが座りやすいように少し横にずれた。
「ありがとうございます」
そう言ってキュッリッキを見たメルヴィンは、ほんの少し頬を赤くすると、困ったように目線をそらせた。
薄暗くて遠目からは気付かなかったが、キュッリッキの着ている寝巻きは、肌が透けるような薄い布地で出来ていた。色気に欠ける身体付きとは言え、布越しに透ける小さな胸や突起は目のやり場にとても困る、悩ましいものだ。
キュッリッキは少しも気づいていないようで、メルヴィンの前で惜しげもなくさらしている。だがそのことを口に出していいものかどうか、メルヴィンは判断に困った。
こんな時ルーファスだったら、冗談交じりに言えるのだろうけど、メルヴィンはそのテの冗談を言うセンスには欠けていた。かえって説教じみたことになるか、突慳貪な態度になりそうで自信がない。
なるべく見ないように意識するものの、つい目がチラチラと見てしまうのは、悲しい男の性だった。
露骨に見えるよりも、薄布越しに透けて見えるほうが、何倍も妖艶に映るのだ。そのことをこの少女は、自覚しているのだろうか。
「寝るにはまだ早い時間ですが、明日のこともありますし、早めに身体を休めておいたほうがいいですよ」
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