片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
409 / 882
モナルダ大陸戦争開戦へ編

episode390

しおりを挟む
 忌々しげに吐き捨てるように言うと、きょとんとしたキュッリッキと目が合って、ベルトルドは苦笑を浮かべてしゃがみこんだ。

「こちらの開戦予定日までは、のんびりできると思っていたんだがな」

 いつもの子供じみた喧嘩が始まると思いきや、突然仕事モードになった2人に驚いていた。でも、自分は今敵国にいて、開戦を控えている時なのだと再認識する。

 こうして色々な人々に守られているから、どこか安心していた。キュッリッキは慣れた戦場の臭いを感じて、身を引き締めた。

「いよいよ戦争、始まるんだね」

 やや緊張した面持ちのキュッリッキの頬に優しく手をそえると、ベルトルドは力強く頷いた。

「今日明日には、始まりそうだな」



「あの耄碌ジジイ、よくもやってくれたわね」

 薄く紅をはいた唇を歪め、リュリュは所かまわず「ちっ」と大きく舌打ちした。

 正面に立つブルーベル将軍は、内心で「くわばらくわばら」と呟き肩をすぼめる。オカマが怒ると迫力2倍だな、と後ろに控える副官のハギも肩をすぼめた。

「しょうがないわ、取り敢えずベルにこのことを伝えてちょうだい。――どーせ現場の判断に任せる、てなるでしょうけど」

「承りました!」

 報告のために会議室に来ていた通信係の尉官は、オカマの驚異に怯えた表情を出さないように気をつけながら、敬礼をして足早に退室していった。

「こんな時に援軍とは……どこに隠匿していたんでしょうねえ」

「………6月にアルイールで暴れていたソレル王国軍が、どこへ潜伏したのか掴めなかったの。あまり大々的にも内々的にも調査していなかったから。てっきりエルアーラまで下がらせていたのかと思いきや、同盟国に隠していたとか、いやんなっちゃう」

「なるほどなるほど」

 好々爺の笑みを浮かべ、ブルーベル将軍は肩を揺らした。

「こちらも戦端を開くには各地準備不足でしょうが、始めないと潰されてしまうでしょう。やるしかありませんな」

「全くだわ」

「それに」

 ブルーベル将軍は言葉を切ると、つぶらな瞳を細めて顎を引いた。

「この戦争には勝つ必要がない、と閣下は仰せになった」

 リュリュは頷く。

「エルアーラ遺跡のことを世界中に気取られないためにも、戦争は大々的にやってもらわなくちゃいけないの」

 妖しい笑みを浮かべ、唇を笑みの形に歪める。

「だってエルアーラ遺跡は、ハワドウレ皇国の秘密兵器なんだもの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

処理中です...