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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode388
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「………」
思いっきり膨れっ面でカーティスの背中を睨みつけていたベルトルドは、ふと、キュッリッキの姿が見えないことにようやく気づいた。
「リッキーはどこにいるんだ?」
室内を見回すベルトルドに、マリオンがのほほんと答える。
「キューリちゃんならあ、アルカネットさんと一緒に庭にいるわよぉ~」
「なんだと!」
ベルトルドはルーファスの頭をぐにゅっと踏みつけると、食堂を飛び出していった。
嵐が出て行くその姿を見送って、皆揃って「ハァ…」と息を吐きだす。
「おいルー、生きてるかー」
うつ伏せに倒れたままのルーファスのそばにしゃがみこみ、ギャリーが背中を突っついた。
「……生きてる……」
ルーファスはもそもそと身体を起こすと、ぺたりと疲れたように座り込んだ。
「ふぅ……。いや参った」
片目を瞑って、ジンジン痛む後頭部に手をあてる。友人の痛ましい姿を見ながら、ギャリーは苦笑を浮かべた。
「キューリが思いっきり、おっさんのキンタマ、蹴りかましたんだってな」
「そうなのよ。痴漢にあった時の護身用に教えたんだけどねえ~。まっさか起きないベルトルド様にぶちかますとは、オレでも思わなかったわ」
ルーファスとギャリーは、キュッリッキに思いっきり股間を蹴られるベルトルドの姿を思い浮かべ、ブフォッとたまらず吹き出した。つられるように、室内のあちこちから吹き出す声が聞こえる。
「でもキューリさん、よく蹴り入れることができましたねえ?」
椅子を抱えながら、シビルが首をかしげる。
「なんか不思議なのか?」
ギャリーも首をかしげると、シビルは抱えていた椅子をその場に置いて、顔を上に向けて唸った。
「ベルトルド様って、寝ててもサイ《超能力》の絶対防御が働いているでしょ。敵意がなくても、攻撃系なんて空間転移でかわしちゃう筈なのに、て思ったんです」
ギャリーとルーファスは顔を見合わせた。そういえばそうだねえ、とルーファスが呟く。
「そ~んなの簡単よぉ」
床に飛び散っている窓ガラスの破片を、念力で浮かせて回収していたマリオンが、うっとりした顔で会話に割り込んだ。
「この世でもぉ~っとも大事にしているキューリちゃんを、空間転移で消すなんてことお、あのおっさんがするわけないっしょぉ~」
「んー、でも寝ていて、相手の識別も判別出来ないのに?」
シビルが怪訝そうに鼻をヒクヒクさせた。そんなシビルにマリオンは「ちっちっち」と人差し指を振る。
「それがあ、愛の力ってやつよぉ。あ・い・の・ち・か・ら」
トロンと酔ったような目をするマリオンを疲れたように見やって、シビルは納得いかないといった表情になった。
「マリオンの言ってること、案外あってると思うよー」
ルーファスが頭をカシカシと掻きながら頷く。
「サイ《超能力》って精神的な力だからさ。キューリちゃんには危害を与えないって、ベルトルド様が常に思い続けているんだったら、無意識下でも力の制御は働くと思うんだよね」
「ほほお、そんなもんなんですかね?」
「うん、多分ね~。極端な話、キューリちゃんに殺意があって、ナイフを振り下ろしたとしても、ベルトルド様の絶対防御は発動しないと思う」
「それってもはや、絶対防御って呼べない気が……」
「あはは、まーそうだね」
「愛よ、愛!」
踊りながら愛よ愛と歌うマリオンを見て、シビルはどうでもいいといったように肩をすくめた。
思いっきり膨れっ面でカーティスの背中を睨みつけていたベルトルドは、ふと、キュッリッキの姿が見えないことにようやく気づいた。
「リッキーはどこにいるんだ?」
室内を見回すベルトルドに、マリオンがのほほんと答える。
「キューリちゃんならあ、アルカネットさんと一緒に庭にいるわよぉ~」
「なんだと!」
ベルトルドはルーファスの頭をぐにゅっと踏みつけると、食堂を飛び出していった。
嵐が出て行くその姿を見送って、皆揃って「ハァ…」と息を吐きだす。
「おいルー、生きてるかー」
うつ伏せに倒れたままのルーファスのそばにしゃがみこみ、ギャリーが背中を突っついた。
「……生きてる……」
ルーファスはもそもそと身体を起こすと、ぺたりと疲れたように座り込んだ。
「ふぅ……。いや参った」
片目を瞑って、ジンジン痛む後頭部に手をあてる。友人の痛ましい姿を見ながら、ギャリーは苦笑を浮かべた。
「キューリが思いっきり、おっさんのキンタマ、蹴りかましたんだってな」
「そうなのよ。痴漢にあった時の護身用に教えたんだけどねえ~。まっさか起きないベルトルド様にぶちかますとは、オレでも思わなかったわ」
ルーファスとギャリーは、キュッリッキに思いっきり股間を蹴られるベルトルドの姿を思い浮かべ、ブフォッとたまらず吹き出した。つられるように、室内のあちこちから吹き出す声が聞こえる。
「でもキューリさん、よく蹴り入れることができましたねえ?」
椅子を抱えながら、シビルが首をかしげる。
「なんか不思議なのか?」
ギャリーも首をかしげると、シビルは抱えていた椅子をその場に置いて、顔を上に向けて唸った。
「ベルトルド様って、寝ててもサイ《超能力》の絶対防御が働いているでしょ。敵意がなくても、攻撃系なんて空間転移でかわしちゃう筈なのに、て思ったんです」
ギャリーとルーファスは顔を見合わせた。そういえばそうだねえ、とルーファスが呟く。
「そ~んなの簡単よぉ」
床に飛び散っている窓ガラスの破片を、念力で浮かせて回収していたマリオンが、うっとりした顔で会話に割り込んだ。
「この世でもぉ~っとも大事にしているキューリちゃんを、空間転移で消すなんてことお、あのおっさんがするわけないっしょぉ~」
「んー、でも寝ていて、相手の識別も判別出来ないのに?」
シビルが怪訝そうに鼻をヒクヒクさせた。そんなシビルにマリオンは「ちっちっち」と人差し指を振る。
「それがあ、愛の力ってやつよぉ。あ・い・の・ち・か・ら」
トロンと酔ったような目をするマリオンを疲れたように見やって、シビルは納得いかないといった表情になった。
「マリオンの言ってること、案外あってると思うよー」
ルーファスが頭をカシカシと掻きながら頷く。
「サイ《超能力》って精神的な力だからさ。キューリちゃんには危害を与えないって、ベルトルド様が常に思い続けているんだったら、無意識下でも力の制御は働くと思うんだよね」
「ほほお、そんなもんなんですかね?」
「うん、多分ね~。極端な話、キューリちゃんに殺意があって、ナイフを振り下ろしたとしても、ベルトルド様の絶対防御は発動しないと思う」
「それってもはや、絶対防御って呼べない気が……」
「あはは、まーそうだね」
「愛よ、愛!」
踊りながら愛よ愛と歌うマリオンを見て、シビルはどうでもいいといったように肩をすくめた。
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