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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode382
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団の中でも良識で、よく気づいて相手のことを思いやることのできる男だが、何故だか恋愛に関しては疎い。激鈍すぎるとさえ思えるほど気づかない。
それは他人のことでも、そして自分自身のことでも。
キュッリッキがナルバ山で大怪我をしてから、ずっと彼女につきっきりできていた。その間にキュッリッキに想いを寄せるようになったんだろうことは、ベルトルド邸での不本意合宿が始まってからすぐに気づいた。カーティスだけではなく、他のメンバーたちもすぐに判るほど露骨に。
それなのに、メルヴィンよりもあからさまに態度に出ているキュッリッキの想いに、少しも気づいていないのがどうしても不思議だった。
メルヴィンが気づいてしまえば、2人は間違いなく相思相愛になれるというのに。
そうなれば、万難――ベルトルドとアルカネット――を排してでも応援するつもりだ。
ザカリーもキュッリッキに気があるのは判っているが、正直そちらは見込み薄だとカーティスは見捨てている。キュッリッキにその気が全くないのだから、応援などして下手な期待をもたせるほうが、残酷というものだろう。
キュッリッキほどの美少女は稀だし、どこか影のある、そして稀中の稀な召喚スキル〈才能〉を有した少女はとても魅力だ。可哀想なくらいペッタンな胸と、色気のない身体を抜かせば男が放っておかない。
あまり団の中で、メンバー同士が色恋沙汰で揉めるのは好ましくない。それでも、不器用に相手を想い、恋心を膨らませる2人のことは、心から応援してやりたいとカーティスは思っていた。
「ああ、そういえば、他のみんなはどのくらいでここへ到着するんでしょうね?」
ふと思い出したようにシビルが問いかけた。
「今日明日には全員到着するんじゃね? 敵さんに襲撃されたりすることはないだろうしさ」
ルーファスが頭の後ろで両手を組みながら答える。
「ギャリーやガエルは大丈夫そうですけど、若干一名、危ないのがいるのが……」
「あー………」
「確かに、激しく心配ですねえ」
シビル、ルーファス、カーティスは揃って腕を組んで唸った。
危険がなければあえて自ら危険に飛び込み、困難がなくても困難を引き連れてきて楽しむ、あの金髪の格闘バカ。
「ベルトルド卿が怒り出す前に、到着してくれることを祈りましょう」
他人事のようにカーティスは言って、天井を仰いだ。
ぼんやりと目を開く。すると妙に目が腫れぼったく、僅かに滲みる。視界も滲むようにして見えづらく、キュッリッキはごしごしと目をこすった。
何度も目を瞬いて身体を動かそうとすると、身体はあまり動かない。
「……?」
顔を上向けると、そこにベルトルドの寝顔が見えて、ようやく自分がベルトルドの腕の中に押さえ込まれていることに気づいた。
無理に首をひねってベッドのサイドテーブルに置かれた時計に目をやると、針は午前10時を回ったところだった。
「やだ、もうこんな時間」
早起きが常の習慣なのに、えらい寝坊してしまった。
キュッリッキはベルトルドの腕から抜けようと試みたが、強固な檻のようにガッシリと身体を抱きしめられてしまっている。
「んもー、ベルトルドさん起きてえ」
胸を小さな拳でポカポカ叩くが、眠りは深かった。
毎度のことながら、何故こうも起こすことが大変なんだろうこのヒトは、とキュッリッキは両頬を膨らませる。これではトイレにも行けない。
行きたいと思うと、早く行きたくなるもの。さっさとベルトルドから解放されねば、大変なことに。
「ベルトルドさん離して、漏れちゃう~~!」
腕の力は緩まない。こんなところでお漏らしはしたくない。
かくなるうえは!
「ごめんね、でも緊急事態だから!」
キュッリッキは僅かに腰をひくと、思いっきり片方の膝を振り上げた。
それは他人のことでも、そして自分自身のことでも。
キュッリッキがナルバ山で大怪我をしてから、ずっと彼女につきっきりできていた。その間にキュッリッキに想いを寄せるようになったんだろうことは、ベルトルド邸での不本意合宿が始まってからすぐに気づいた。カーティスだけではなく、他のメンバーたちもすぐに判るほど露骨に。
それなのに、メルヴィンよりもあからさまに態度に出ているキュッリッキの想いに、少しも気づいていないのがどうしても不思議だった。
メルヴィンが気づいてしまえば、2人は間違いなく相思相愛になれるというのに。
そうなれば、万難――ベルトルドとアルカネット――を排してでも応援するつもりだ。
ザカリーもキュッリッキに気があるのは判っているが、正直そちらは見込み薄だとカーティスは見捨てている。キュッリッキにその気が全くないのだから、応援などして下手な期待をもたせるほうが、残酷というものだろう。
キュッリッキほどの美少女は稀だし、どこか影のある、そして稀中の稀な召喚スキル〈才能〉を有した少女はとても魅力だ。可哀想なくらいペッタンな胸と、色気のない身体を抜かせば男が放っておかない。
あまり団の中で、メンバー同士が色恋沙汰で揉めるのは好ましくない。それでも、不器用に相手を想い、恋心を膨らませる2人のことは、心から応援してやりたいとカーティスは思っていた。
「ああ、そういえば、他のみんなはどのくらいでここへ到着するんでしょうね?」
ふと思い出したようにシビルが問いかけた。
「今日明日には全員到着するんじゃね? 敵さんに襲撃されたりすることはないだろうしさ」
ルーファスが頭の後ろで両手を組みながら答える。
「ギャリーやガエルは大丈夫そうですけど、若干一名、危ないのがいるのが……」
「あー………」
「確かに、激しく心配ですねえ」
シビル、ルーファス、カーティスは揃って腕を組んで唸った。
危険がなければあえて自ら危険に飛び込み、困難がなくても困難を引き連れてきて楽しむ、あの金髪の格闘バカ。
「ベルトルド卿が怒り出す前に、到着してくれることを祈りましょう」
他人事のようにカーティスは言って、天井を仰いだ。
ぼんやりと目を開く。すると妙に目が腫れぼったく、僅かに滲みる。視界も滲むようにして見えづらく、キュッリッキはごしごしと目をこすった。
何度も目を瞬いて身体を動かそうとすると、身体はあまり動かない。
「……?」
顔を上向けると、そこにベルトルドの寝顔が見えて、ようやく自分がベルトルドの腕の中に押さえ込まれていることに気づいた。
無理に首をひねってベッドのサイドテーブルに置かれた時計に目をやると、針は午前10時を回ったところだった。
「やだ、もうこんな時間」
早起きが常の習慣なのに、えらい寝坊してしまった。
キュッリッキはベルトルドの腕から抜けようと試みたが、強固な檻のようにガッシリと身体を抱きしめられてしまっている。
「んもー、ベルトルドさん起きてえ」
胸を小さな拳でポカポカ叩くが、眠りは深かった。
毎度のことながら、何故こうも起こすことが大変なんだろうこのヒトは、とキュッリッキは両頬を膨らませる。これではトイレにも行けない。
行きたいと思うと、早く行きたくなるもの。さっさとベルトルドから解放されねば、大変なことに。
「ベルトルドさん離して、漏れちゃう~~!」
腕の力は緩まない。こんなところでお漏らしはしたくない。
かくなるうえは!
「ごめんね、でも緊急事態だから!」
キュッリッキは僅かに腰をひくと、思いっきり片方の膝を振り上げた。
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