片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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モナルダ大陸戦争開戦へ編

episode381

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「………いや、ダメだダメだ」

 慌てて顔を離すと、はやる気持ちを鎮めるために長く息を吐き出した。

「こういうのはフェアじゃない」

 どうせならキュッリッキが目を覚ましている時に、堂々とキスしたい。舌を絡ませ合い、濃密な大人のキスを教えてやりたかった。しかしそれを考えると余計悶々としてきて、煩悩を消し去るように頭を振る。

 自制心をフル出動してどうにか抑えると、ベルトルドの葛藤を知らず眠る少女の寝顔に再び触れる。

「俺という世界一素晴らしい男が、先に愛の告白をしたんだぞ」

 言い聞かせるように、ゆっくりと囁く。

 指先に感じる柔らかな肌の感触、それだけで愛おしさが奔流のごとくこみ上げてきた。

「初恋は所詮、麻疹のようなもの。すぐに俺の良さに気づいて惚れ直すさ」

 自分に言い聞かせるように何度も頷き、もっと自分のほうへキュッリッキを抱き寄せると、頭にキスをして目を閉じた。



「だ……大丈夫ですか、アルカネットさん」

 ルーファスは遠慮がちに声をかけるが、アルカネットは隈の浮き出た顔を、不機嫌に歪めたまま、無言でスープをすすっている。

 朝食をアルカネットと食べながら、ライオン傭兵団の皆は生きた心地がせず、青い顔で無理に朝食を胃に流し込んでいた。

 昨夜のうちに朝食は仕込んであったようで、起きて食堂へ顔を出すと、人数分の朝食がしっかりと用意されていて恐縮した。

 なのでその朝食を回避することもできず、全身から冷気を吹き出す機嫌の悪いアルカネットと共に、静々と朝食を食べているのだった。

 食堂には霜が降りたような、冷ややかな空気が漂っていた。外は良い天気で、そろそろジワジワと暑くなり始めている。自然の熱をも寄せ付けないほどの、徹底的な冷気である。

 ルーファスの声にも反応を示さず、黙々と皿の中身を消化していくだけの作業を繰り返し、朝食を食べ終わると、アルカネットは無言で食堂を出て行ってしまった。

「ぷはー………味がしねえ」

 ルーファスは大仰にため息を吐き出すと、背もたれにだらしなくもたれかかった。

「美味しいんですが、何を食べても冷たく感じるのが怖いですね」

 ぬるくなった紅茶のカップを口に運びながらカーティスが呟くと、無言でシビルとメルヴィンが頷いた。

「ベルトルド様とキューリちゃんがまだ降りてこないけど、寝てんのかな?」

「キューリさんは普段早起きですが、どうなんでしょう」

「まさか………あのおっさん、ついに手を出しちゃったんじゃ…」

 肩をすくめてルーファスが言うと、

「それであんなに怒っているんですかねえ……?」

 カーティスが眉を寄せて渋い顔をした。

「いくらなんでも、そこまで節操無いとは思いたくありませんがっ」

 シビルが上ずった声で言うと、

「リッキーさんが、そんな軽はずみな行為を許すわけがありません」

 怒った声でメルヴィンは言うと、カップを叩きつけるようにテーブルに置いた。

「まあ、下世話な詮索もなんですから、ルーファス、ちょっと部屋を覗いてみてくれませんか」

「あいあい」

 ルーファスは目を閉じて意識をこらす。

「ベルトルド様が、キューリちゃんをしっかり抱きしめて、2人共ぐっすり眠ってるー」

「ベルトルド卿は低血圧ですから、これ幸いに寝ているんでしょう。キューリさんは体調でも悪いのかな?」

「昨日散々寝かされてたから、それで寝付くのが遅かったんじゃないかなあ」

「体調が悪いんじゃなきゃ良いです。ただあまり寝すぎると、今日の夜も眠れないと困りますし、昼前には起こしにいきましょう」

 ルーファスとシビルが頷くと、カーティスはちらりとメルヴィンを見た。

 むすっと黙りこくって、空の皿を睨みつけている。その様子にカーティスは小さく苦笑を浮かべた。
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