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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode380
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騒々しいアルカネットの声にも目を覚まさず、ぐっすりと眠っている。泣きはらして目元が少し赤らんでいるのが、痛々しく見えた。
(どんな夢を見ているのだろうか)
せめて夢くらいは楽しいものを見て欲しいと、願わずにはいられなかった。
親を亡くしたり、生き別れてしまうことも、とても悲しいことだ。しかし、捨てられて、捨てられた理由を知っていることもまた同様に悲しい。
キュッリッキの場合はそれだけではなく、片方の翼が奇形で、今もまともに育たず空を飛べない。本来飛べるのが当たり前の種族に中に生まれていながら、それが生まれた瞬間から無理なのだ。そしてそのことで迫害を受け、誰ひとりいたわってくれる者もおらず、孤独の中を生きてきた。
唯一の心の支えは、アルケラとフェンリルだけだったと言う。
召喚スキル〈才能〉を持たない者には無縁のものである、神々と幻想世界の住人たちが暮らすというアルケラ。
人間ではなく、そんな人外のモノが支えだったことが、キュッリッキのこれまでが孤独だったことをより物語っていた。
ベルトルドは以前、ルーファスとメルヴィンに向かって、
「貴様らを心の中から徹底排除し、リッキーの中の一番はこの俺が取る! 俺だけを望み、俺だけを求め、俺に全てをさらけ出すくらいに教育してみせるぞ!」
と、宣言したことがある。
今もその気持ちは寸分も変わっていない。キュッリッキの心の中を、自分のことでいっぱいに満たしたいと思っている。
それなのに。
「どうしてメルヴィンに惚れたりしたんだ、リッキー……」
まさか慕う程度が初恋に急展開するなど、予想外のことだった。それも超激鈍(げきにぶ)なメルヴィンにである。
メルヴィンは顔も性格も良いとベルトルドも思う。そこは認めてやる。しかし恐ろしい程鈍いのだ、色恋沙汰に関することには徹底して。
あれほど目の前で顔を赤らめたり挙動がおかしかったりすれば、気づいて意識するだろうと。そして髪型や顔つきが変わっていれば、何か心境の変化があったと気づいていいはずなのに。
「どうしてあそこまで鈍くいられるのか、不思議でならん。こんなにリッキーに想われているというのに、ケシカラン!」
ベルトルドは大いに不満だった。
「女のことに関しても鋭すぎる俺ではなく、鈍ちんなメルヴィンに惚れるとか、リッキーもまだまだ子供というわけだ」
拗ねた声で皮肉を言うと、キュッリッキの細い顎に指を添える。
「俺は、男なんだぞ?」
メルヴィンには異性として意識をし、ベルトルドには父親のように慕いなつく。それが悔しくてたまらない。
”男”として見て欲しいと切に願っているが、”父親”のように慕ってくれているからこそ、こうして無防備に身をあずけてくれるし甘えてくれる。額や頬にキスもさせてもらえるし、ハグしても頬ずりしても許される。
だがここで押し倒して無理矢理抱いたりしたら、心底嫌われてしまうだろう。口も聞いてくれないなどというレベルでは済まない。
ベルトルド自身の一時の欲望は満たせても、そのあとは地獄を見るのは明白。今以上に心も傷つけてしまう。
「でも、一度くらいはいいよな?」
ぐっすり眠ったままのキュッリッキの顎を指でクイッと上げ、ベルトルドは顔を近づけた。
愛しい少女の柔らかな唇の感触をもう一度味わいたくて、お互いの息が触れるところまで顔を近づけた。
(どんな夢を見ているのだろうか)
せめて夢くらいは楽しいものを見て欲しいと、願わずにはいられなかった。
親を亡くしたり、生き別れてしまうことも、とても悲しいことだ。しかし、捨てられて、捨てられた理由を知っていることもまた同様に悲しい。
キュッリッキの場合はそれだけではなく、片方の翼が奇形で、今もまともに育たず空を飛べない。本来飛べるのが当たり前の種族に中に生まれていながら、それが生まれた瞬間から無理なのだ。そしてそのことで迫害を受け、誰ひとりいたわってくれる者もおらず、孤独の中を生きてきた。
唯一の心の支えは、アルケラとフェンリルだけだったと言う。
召喚スキル〈才能〉を持たない者には無縁のものである、神々と幻想世界の住人たちが暮らすというアルケラ。
人間ではなく、そんな人外のモノが支えだったことが、キュッリッキのこれまでが孤独だったことをより物語っていた。
ベルトルドは以前、ルーファスとメルヴィンに向かって、
「貴様らを心の中から徹底排除し、リッキーの中の一番はこの俺が取る! 俺だけを望み、俺だけを求め、俺に全てをさらけ出すくらいに教育してみせるぞ!」
と、宣言したことがある。
今もその気持ちは寸分も変わっていない。キュッリッキの心の中を、自分のことでいっぱいに満たしたいと思っている。
それなのに。
「どうしてメルヴィンに惚れたりしたんだ、リッキー……」
まさか慕う程度が初恋に急展開するなど、予想外のことだった。それも超激鈍(げきにぶ)なメルヴィンにである。
メルヴィンは顔も性格も良いとベルトルドも思う。そこは認めてやる。しかし恐ろしい程鈍いのだ、色恋沙汰に関することには徹底して。
あれほど目の前で顔を赤らめたり挙動がおかしかったりすれば、気づいて意識するだろうと。そして髪型や顔つきが変わっていれば、何か心境の変化があったと気づいていいはずなのに。
「どうしてあそこまで鈍くいられるのか、不思議でならん。こんなにリッキーに想われているというのに、ケシカラン!」
ベルトルドは大いに不満だった。
「女のことに関しても鋭すぎる俺ではなく、鈍ちんなメルヴィンに惚れるとか、リッキーもまだまだ子供というわけだ」
拗ねた声で皮肉を言うと、キュッリッキの細い顎に指を添える。
「俺は、男なんだぞ?」
メルヴィンには異性として意識をし、ベルトルドには父親のように慕いなつく。それが悔しくてたまらない。
”男”として見て欲しいと切に願っているが、”父親”のように慕ってくれているからこそ、こうして無防備に身をあずけてくれるし甘えてくれる。額や頬にキスもさせてもらえるし、ハグしても頬ずりしても許される。
だがここで押し倒して無理矢理抱いたりしたら、心底嫌われてしまうだろう。口も聞いてくれないなどというレベルでは済まない。
ベルトルド自身の一時の欲望は満たせても、そのあとは地獄を見るのは明白。今以上に心も傷つけてしまう。
「でも、一度くらいはいいよな?」
ぐっすり眠ったままのキュッリッキの顎を指でクイッと上げ、ベルトルドは顔を近づけた。
愛しい少女の柔らかな唇の感触をもう一度味わいたくて、お互いの息が触れるところまで顔を近づけた。
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