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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode375
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むすっとした表情でキュッリッキが言うと、ベルトルドは「ふふん」と嫌味ったらしく笑う。
「自業自得だな」
空になったワイングラスをカーティスの前にちらつかせ、おかわりを催促しながら、ベルトルドがここぞとばかりにアルカネットへ嫌味を吐いた。汽車の中でキュッリッキにキスしたことを、根に持っているのだ。
「やれやれ」といった表情で、カーティスがワインを注ぐ。
「昼間のことは、本当にすみませんでした。この料理に薬は入っていませんから、安心して食べてください」
心底申し訳なさそうに見上げてくるアルカネットの顔を、極力視界に入れないように、キュッリッキは頑なに意地を張り続けた。
そんなキュッリッキの様子を見て、腰を浮かせようとしたメルヴィンを、ルーファスが素早く手振りで止めた。そしてそのまま席を立つと、アルカネットの反対側に膝をつく。
「キューリちゃん、確かに薬で眠らせるのはオレも良くないことだと思う。けどね、アルカネットさんは悪気があったわけじゃないし、むしろキューリちゃんを心配して、心配のあまりにでちゃった行動だから。それは、キューリちゃんも判ってるだろう?」
キュッリッキは表情はそのままに、小さく頷く。
そんなことは判っているが、それでもやはり意地が勝ってしまう。
「あんなに謝っているし、こうしてキューリちゃんの好きなものを急いで作ってくれたんだから、ちゃんと食べなきゃ」
「でも……」
「オレたちもアルカネットさんも、そしてキューリちゃんも、仲間なんだよ。仲間でも時には意に沿わないことをしたり、されてしまうことだってあるし、失敗だってある。仲間だからって、なんでも判り合っているわけじゃない。でも仲間だから、そういうのもひっくるめて、許す心も持たないと」
「仲間…」
「うん、仲間。これからずっと一緒にやっていく、仲間なんだから。ね、だから、許してあげよう?」
ルーファスは辛抱強く、努めて優しく諭す。
今までは、すぐに解散してしまう程度の仲間付き合いはあった。でもその時は、とくに『仲間意識』などもたずとも良かった。所詮一時手を組んだだけの相手だったから。
もしかしたらそういう一時でも、相手を思いやる心は必要だったかもしれないが、キュッリッキはそういうことには疎かった。
これからずっと一緒にやっていく仲間。――この言葉は、キュッリッキの心に強く響いて染み込んでいく。
何かにつけて甘やかしてくれたり、良くしてくれたりもしていたが、でもいつかは別れる人たちだと、心のどこかでそう思う自分がいた。いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだ、短い間だけなんだからと。だから仲間意識なんて必要ない、イラナイものだったはずなのに。
キュッリッキはルーファスを見る。いつもの優しい”おにいちゃん”のような笑顔が向けられていた。
そしてアルカネットを見ると、自分の行いを後悔するような、申し訳なさを満面にたたえた、寂しげな笑みを浮かべている。
再び膝に視線を落とし、キュッリッキは小さく頷いた。
「……もうしないって、約束してくれたら、許してもいいよ」
どこか拗ねたように言うキュッリッキに苦笑して、ルーファスはヨシヨシと頭を撫でてやった。アルカネットもホッとしたように破顔すると、
「ありがとうございます。さあ、冷めないうちに」
そう言って、嬉しそうに笑んで立ち上がった。
「自業自得だな」
空になったワイングラスをカーティスの前にちらつかせ、おかわりを催促しながら、ベルトルドがここぞとばかりにアルカネットへ嫌味を吐いた。汽車の中でキュッリッキにキスしたことを、根に持っているのだ。
「やれやれ」といった表情で、カーティスがワインを注ぐ。
「昼間のことは、本当にすみませんでした。この料理に薬は入っていませんから、安心して食べてください」
心底申し訳なさそうに見上げてくるアルカネットの顔を、極力視界に入れないように、キュッリッキは頑なに意地を張り続けた。
そんなキュッリッキの様子を見て、腰を浮かせようとしたメルヴィンを、ルーファスが素早く手振りで止めた。そしてそのまま席を立つと、アルカネットの反対側に膝をつく。
「キューリちゃん、確かに薬で眠らせるのはオレも良くないことだと思う。けどね、アルカネットさんは悪気があったわけじゃないし、むしろキューリちゃんを心配して、心配のあまりにでちゃった行動だから。それは、キューリちゃんも判ってるだろう?」
キュッリッキは表情はそのままに、小さく頷く。
そんなことは判っているが、それでもやはり意地が勝ってしまう。
「あんなに謝っているし、こうしてキューリちゃんの好きなものを急いで作ってくれたんだから、ちゃんと食べなきゃ」
「でも……」
「オレたちもアルカネットさんも、そしてキューリちゃんも、仲間なんだよ。仲間でも時には意に沿わないことをしたり、されてしまうことだってあるし、失敗だってある。仲間だからって、なんでも判り合っているわけじゃない。でも仲間だから、そういうのもひっくるめて、許す心も持たないと」
「仲間…」
「うん、仲間。これからずっと一緒にやっていく、仲間なんだから。ね、だから、許してあげよう?」
ルーファスは辛抱強く、努めて優しく諭す。
今までは、すぐに解散してしまう程度の仲間付き合いはあった。でもその時は、とくに『仲間意識』などもたずとも良かった。所詮一時手を組んだだけの相手だったから。
もしかしたらそういう一時でも、相手を思いやる心は必要だったかもしれないが、キュッリッキはそういうことには疎かった。
これからずっと一緒にやっていく仲間。――この言葉は、キュッリッキの心に強く響いて染み込んでいく。
何かにつけて甘やかしてくれたり、良くしてくれたりもしていたが、でもいつかは別れる人たちだと、心のどこかでそう思う自分がいた。いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだ、短い間だけなんだからと。だから仲間意識なんて必要ない、イラナイものだったはずなのに。
キュッリッキはルーファスを見る。いつもの優しい”おにいちゃん”のような笑顔が向けられていた。
そしてアルカネットを見ると、自分の行いを後悔するような、申し訳なさを満面にたたえた、寂しげな笑みを浮かべている。
再び膝に視線を落とし、キュッリッキは小さく頷いた。
「……もうしないって、約束してくれたら、許してもいいよ」
どこか拗ねたように言うキュッリッキに苦笑して、ルーファスはヨシヨシと頭を撫でてやった。アルカネットもホッとしたように破顔すると、
「ありがとうございます。さあ、冷めないうちに」
そう言って、嬉しそうに笑んで立ち上がった。
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