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モナルダ大陸戦争開戦へ編
episode374
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カーティスの案内で食堂に行くと、真っ白なクロスのかかったいくつかの丸テーブルに、各々着席して一息ついた。
すかさず下官が水の入った瓶と空のグラスを、各自の前に置いていく。それに対して、
「おい、俺にはワインを持ってきてくれ。白の美味しいやつ」
「ハッ!」
ベルトルドに命じられて、下官は急ぎ足で食堂を出て行った。
ベルトルドとキュッリッキが共についているテーブルへ、カーティスもつく。あとでアルカネットもくるだろうこのテーブルにつくのは不本意だったが、情報交換をするために仕方なく、といった表情を露骨に浮かべたまま座っていた。
「お前は皮肉と嫌味だけは無遠慮に露骨だな全く。で、いつここへ着いたんだ?」
「意思表示は判りやすくがモットーです。――到着は昨日の日中に。私とシビルは第ニ正規部隊と共に行動していたので、ヘリクリサムへ早い時点で飛んでました。その直後に小競り合いが始まってしまい、抜け出すのに苦労しましたよ」
溜息とともに肩をすくめるカーティスをちらりと見やり、ベルトルドはテーブルに両肘をついて、顎の下で手を組んだ。
「カルロッテのババアが奮戦してるんだったな。男遊びが酷すぎて、嫁にも出せないから婿候補をと、皇国の社交界に密かに打診があったんだが。陣頭指揮などとやらかしている様子から、誰にも相手にされなかったと見える。鬱憤晴らしに巻き込まれた軍隊が憐れだ」
バカにするように、鼻で笑い飛ばす。カルロッテ王女とは、以前何度か社交界で面識を得ていた。
「それでアークラの奴が、引っ張り出されたわけか」
「はい。ベルトルド卿と同じようなことを言って、憮然となさっていました。アルイールでブルーベル将軍と、任務にあたっておられたようなので」
「そりゃそうだろう。ババアの子守で引っ張り出されたとか、いい面の皮だからな。ああ見えてアークラは、皮肉屋だから」
口を挟むことなく黙って聞いていたキュッリッキは、酷い言われようなカルロッテ王女に、今度は妙な同情心が芽生えてしまった。
メルヴィンが庇うような発言をしたときは嫉妬が沸き起こったが、こうして別人が話す中で言われ放題だと、可哀想に思えてしまうから現金だ。
自分に都合のいい気持ちに嫌気がさして、こっそりため息をつく。
ベルトルドとカーティスは、簡単な打ち合わせなどで話し込み、1時間ほど経過した。
「腹減った…」
テーブルに片頬をついてベルトルドがぼやいたとき、食堂に良い匂いが漂ってきた。
「お待たせしました」
マントと上着を脱いでエプロンをつけたアルカネットが、大きなワゴンを押しながら食堂へ入ってきた。
「きたきた」
ベルトルドは顔を上げて、嬉しそうに微笑む。
アルカネットは慣れた手つきで、皿を皆の前に置いていく。
少し大きめのハンバーグをトマトソースで煮込んで、チーズがかけられている料理と、こんがり焼けたマフィンの上に、ポーチドエッグとスモークサーモンを乗せた料理の皿二つが並べられ、香る湯気が皆の食欲中枢を仰ぎ立てた。
「どうぞ、温かいうちに召し上がってください」
アルカネットがすすめると、皆料理にかぶりつき始めた。しかしキュッリッキだけは、じっと皿を見つめて手を膝に置いたままだ。それに気づいたアルカネットが、心配そうに顔を曇らせると、キュッリッキの傍らに膝をついた。
「あまりお好きではありませんでしたか? 何か違うものを作ってきましょうか?」
アルカネットとは目を合わせようともせず、硬い表情のまま黙って首を横に振った。ハンバーグも大好きだし、何よりエッグベネディクトはキュッリッキの好物の一つだ。それを知っているアルカネットが、わざわざキュッリッキの好みの料理を用意してくれたのだ。
「食欲がありませんか? また体調が悪いのでは……」
「薬が入ってるかもしれないから、食べないんだもん」
すかさず下官が水の入った瓶と空のグラスを、各自の前に置いていく。それに対して、
「おい、俺にはワインを持ってきてくれ。白の美味しいやつ」
「ハッ!」
ベルトルドに命じられて、下官は急ぎ足で食堂を出て行った。
ベルトルドとキュッリッキが共についているテーブルへ、カーティスもつく。あとでアルカネットもくるだろうこのテーブルにつくのは不本意だったが、情報交換をするために仕方なく、といった表情を露骨に浮かべたまま座っていた。
「お前は皮肉と嫌味だけは無遠慮に露骨だな全く。で、いつここへ着いたんだ?」
「意思表示は判りやすくがモットーです。――到着は昨日の日中に。私とシビルは第ニ正規部隊と共に行動していたので、ヘリクリサムへ早い時点で飛んでました。その直後に小競り合いが始まってしまい、抜け出すのに苦労しましたよ」
溜息とともに肩をすくめるカーティスをちらりと見やり、ベルトルドはテーブルに両肘をついて、顎の下で手を組んだ。
「カルロッテのババアが奮戦してるんだったな。男遊びが酷すぎて、嫁にも出せないから婿候補をと、皇国の社交界に密かに打診があったんだが。陣頭指揮などとやらかしている様子から、誰にも相手にされなかったと見える。鬱憤晴らしに巻き込まれた軍隊が憐れだ」
バカにするように、鼻で笑い飛ばす。カルロッテ王女とは、以前何度か社交界で面識を得ていた。
「それでアークラの奴が、引っ張り出されたわけか」
「はい。ベルトルド卿と同じようなことを言って、憮然となさっていました。アルイールでブルーベル将軍と、任務にあたっておられたようなので」
「そりゃそうだろう。ババアの子守で引っ張り出されたとか、いい面の皮だからな。ああ見えてアークラは、皮肉屋だから」
口を挟むことなく黙って聞いていたキュッリッキは、酷い言われようなカルロッテ王女に、今度は妙な同情心が芽生えてしまった。
メルヴィンが庇うような発言をしたときは嫉妬が沸き起こったが、こうして別人が話す中で言われ放題だと、可哀想に思えてしまうから現金だ。
自分に都合のいい気持ちに嫌気がさして、こっそりため息をつく。
ベルトルドとカーティスは、簡単な打ち合わせなどで話し込み、1時間ほど経過した。
「腹減った…」
テーブルに片頬をついてベルトルドがぼやいたとき、食堂に良い匂いが漂ってきた。
「お待たせしました」
マントと上着を脱いでエプロンをつけたアルカネットが、大きなワゴンを押しながら食堂へ入ってきた。
「きたきた」
ベルトルドは顔を上げて、嬉しそうに微笑む。
アルカネットは慣れた手つきで、皿を皆の前に置いていく。
少し大きめのハンバーグをトマトソースで煮込んで、チーズがかけられている料理と、こんがり焼けたマフィンの上に、ポーチドエッグとスモークサーモンを乗せた料理の皿二つが並べられ、香る湯気が皆の食欲中枢を仰ぎ立てた。
「どうぞ、温かいうちに召し上がってください」
アルカネットがすすめると、皆料理にかぶりつき始めた。しかしキュッリッキだけは、じっと皿を見つめて手を膝に置いたままだ。それに気づいたアルカネットが、心配そうに顔を曇らせると、キュッリッキの傍らに膝をついた。
「あまりお好きではありませんでしたか? 何か違うものを作ってきましょうか?」
アルカネットとは目を合わせようともせず、硬い表情のまま黙って首を横に振った。ハンバーグも大好きだし、何よりエッグベネディクトはキュッリッキの好物の一つだ。それを知っているアルカネットが、わざわざキュッリッキの好みの料理を用意してくれたのだ。
「食欲がありませんか? また体調が悪いのでは……」
「薬が入ってるかもしれないから、食べないんだもん」
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